第12回 反乱の芽
<登場人物>
ビルトス 主人公の師(本名ダーナ)
グノー 主人公の兄弟子
グレーティア 主人公
プエラ 主人公の幼なじみの娘
レピダス 黒虎騎士団(銀弓のレピダス)
ソシウス 斧使いの大男(旋風のソシウス)
フィディア 祖母の家へ帰る少女(譚詩曲のフィディア)
デスペロ 魔法宰相
コンジュレティオ 軍総司令
ホスティス ヘテロ国魔法宰相
トラボー 反乱軍首魁
ハレエレシス 反乱軍参謀
フィデス トラボー配下魔法使い
ファルコ トラボー配下武将
いいところなしでのびていたソシウスは不機嫌でした。魔法使いに子供同然にあしらわれ、何度もグレーティアには助けられる始末。最後は危機一髪を救ったのはレピダスで自分は道化も同然でした。敵を欺くにはまず味方からなどの賜れてはますますへこんでしまいます。レピダスの活躍にあれほど罵詈雑言をはいていたプエラも手のひらを返したように大絶賛。まったく世のうつろいゆくのは早いものです。ともあれ全員無事なのは満足すべきことなのでしょう。レピダスについても自分が倒れた後にグレーティアを救ったことにより信じていい男のように思えたきたのでした。
フィディアが旅の仲間に加わっとことによってプエラはもっぱら彼女と話し、おしゃべりが尽きません。日常の細やかなことが延々と話し続けられ、どうしてそんなものに注意をむけられるにのかさっぱりわかりません。料理はなにを入れたらどうなるとか、これが美味しいとか、この服のここが可愛いと、髪の結い方はこの様だとかそのような話題でありソシウスには全く興味のないことでした。プエラにとってやっと女の子の話し相手が出来て嬉しい出来事に違い有りません。なにはともあれ、この煩い娘から解放されたことは歓迎すべきことでした。
いっぽうグレーティアは率先して話しをするタイプでなく、ほとんどが聞き役となっていました。プエラが通りすがりの女性のエプロンについて滔々と話すとそれに合わせるしソシウスが馬で駆け抜けた男の獲物について語るとそれにもちゃんと対応していました。もっとも命を狙われる身ではあまり陽気にならないのは事実で、身に覚えがないのに追っ手から災いの源と言われては気持ちが鬱いでしまうのは無理らしからぬことでした。とにかく早く転身の術を解いて晴れ晴れとした気持ちにさせることが肝要でした。
レピダスは何を考えているのかさっぱり分からない人物でした。現在のメンバーに中では一番経験も豊富で、頼られる存在といったものでありそのことがソシウスにとってなにか癪なことでした。とはいえそのような理由でグレーティアを危険にさせる訳にいかずレピダスの意見については尊重をしてました。
新しく仲間になったフィディアはまだまだ遠慮がちでプエラの後を付いてゆくといった感じでした。せっかく持ってきた竪琴も音色を奏でることもなく彼女の腕に抱かれただけでした。
プエラは馬の背中に乗るとまるで巨人のようになったようで見ている景色が一変することをフィディアに力説しました。とくに高い木の枝にもう少しで届きそうで、いつも見上げている男共を見下ろすのは痛快らしく、少々嫌がるフィディアの背中を押して馬に乗せようとしました。馬に乗せろという少女に身勝手だという顔のレピダスでしたが、おろおろするフィディアの様子が面白く結局は同意したのでした。
でも馬は近づいてみると大きなものです。顔が信じられないくらい長くて自分の頭の何倍もあってこれは作り物でのでは思わせてしまいます。それに大きな目玉がくりくり動いてなにか怖いのです。時々大きなぶるぶるという震わせる音をたてるので驚いてしまいます。
フィディアはレピダスに助けられて馬の鞍に腰掛けてみたものの、馬の背が波打って動くのでおっかな吃驚でややこわばった表情のまま耐えていました。あまりにも地面から離れているので落っこちたら痛そうです。しかし暫くするとその高さにも慣れ周囲の様を観察できる程度には落ち着いてまいりました。確かにプエラは言うように上から見上げる様子は少し違います。人の頭の上がよく見え、ゆったりと進みます。森の中を進むと木々が頭すれすれを通過していきます。ステンドグラスのように緑に透けた葉っぱがしっかり見えました。
しばらく行くと大きな木の並木道に出ました。茶色地肌や落ち葉は地面には見あたらず薄緑の絨毯が敷き詰められたようになっていました。それは小さな花が雪のように地面に降り積もったあとなのでした。そしてその緑の花道は延々と続いていました。
「これみんな花なの?」
フィディアの言葉にレピダスは踏んでいた地面を見ました。
「そうだな」
見上げると薄く緑染められた小さな花が大きな木の枝一杯に無数の花を咲かせていました。それは傍目には木々につもった雪のようでした。頭の上からちらほらと花が落ち、それは緑の絨毯となって道を覆い尽くしていました。
「花と言えばピンクとか白だけど淡い緑の花もすてきだわ。一見葉っぱの色に似ていて魅力なさそうなんだけど、よく見ると控えめでさわやかな色をしているわ」
「そういうものか」
「これがみんな真っ赤な花だったらどう。空も地面も真っ赤っか。とも気持ち悪くて歩けたものではないでしょう」
「まあそうだな」
「それにこんな夏に一杯花を咲かせるなんて珍しいわ。春にはどこもかしこも花だらけでさわがしいのに、ひっそりとこんな隅で静かに夏に花を咲かせているのよ」
「変わりものということなんだろうな」
「あら、慎ましやかで上品なのよこの木は。ほらみて物語の姫様があの中をこちらに歩んできても不思議はないわ。そんな雰囲気が此処にはあるの」
そういものかとレピダスはあららめて並木を見上げると、木々には淡く綿のようなものが覆っていました。
薄緑の絨毯はそのあとも続き旅人達の目を楽しませるとそこで途切れていました。フィディアは名残惜しそうに馬の背からその並木道を振り返っていました。
再び林の中を進み二三度緩やかな曲がりをしたあと、目の前が開けてきました。これまでは草原が広がっていることが普通でしたがここは違っていました。彼等の前に広がってたのは大きな湖でした。
「なんて綺麗な湖なのでしょう」
フィディアはその景色に瞳を輝かせていました。これは彼女に限らずグレーティアやプエラも同様でした。彼女らは育ったのは港町で海は見慣れたものでしたが湖はなく、平原の木々に囲まれた穏やかな湖の姿は美しく感じたのでした。とくにこれまでの旅の途中にはこのような風景はなく険しい山々やどこまでも続く平原みたなものばかりでしたので、このような湖には心が癒されるのでした。
道は湖の岸辺を巡り右には森と山々、左には湖とその境目を延びていました。湖の岸辺には水草が繁茂し白い花を咲かせており、木々は湖のぎりぎりまで枝を伸ばしその先を水に浸けんばかりの姿でした。湖の対岸は遠く此方と同様に繁った森の姿だけが分かるくらいでした。湖は風に吹かれて表面に僅かの波を立たせていたものの穏やかで、水面に光が反射して波に煌めきそのむこうには漁師たちが網を投げ漁をする姿が見受けられました。
暫くいくと漁師達の村があり、子供等が走り回っていました。この辺りの主要道なためか旅人に子供達は珍しがることもなく、まとわりつくということもありませんでした。むしろ漁村の大人達が物を売ろうと声をかけてくるのでした。
この漁村を過ぎ北に向かうと森は湖から退き周囲が見渡せました。水辺には白い鳥が長い足を水に浸け水底に頭を向けると時々素早く嘴で突いていました。その近くには水鳥の親子が水の中を列を作って泳いでおり、空を飛んでいた鳥が近くに勢い良く水しぶきをあげて舞い降りると慌てて進路を変えて反対方向に去っていってしまいました。
「この湖は瓊筵戦争で空いた窪みに出来たものであるという伝承があるな。それによるとこの湖のあったところにはかつて都があり芙蓉姫の一撃を浴びてこの様になったというものだ」
「こんな大きな湖がですか?」
「どこかの誰かが伝説と結びつけたのだろうがな。そんな魔法はあり得ないさ」
レピダスの説明にフィディアは誰かの作り事であると全く信じていませんでした。彼女にとって芙蓉姫は英雄的な恐ろしい存在でなく愛情に満ち苦しむ人だからでした。
「伯父さんに引き取られた時ここは一度だけ来ました。その時こんな所に住めたらいいなと思いました」
「ここにか?」
「でも着いた先はなにも変哲もないようなところで」
「ほとんどがそうだ。この湖も大きいだけでたいしたことはないありきたりのものだ」
「そうなんですか?私魚や鳥がいっぱいいて楽しそうに見えるんですけど」
「そうだな、もっと山間の湖には滝など流れ落ち湖に山が映えて美しいし、海に近い下流ではもっと湖の数も多いし鳥たちもここ以上に飛んでくる」
「私そういう所に行ってみたいです」
「その時は来る、今回みたいないな」
「みてみて、海でもないのに島があるわ」
プエラははしゃいで指さしました。
その方向をみると湖の中に複数の島があり、その上には木々があたかも島を沈めてしまいそうにぎっしり繁っていました。
「彼の島に上陸したくなるぜ」
ソシウスは場違いにようにぽつねんと湖の中にある島に冒険心を抱きました。
「私たちマーレは島だらけでありきたりのはずなんだったけど、やはり湖の島てなんか違うのよね」
「なんだろうね。海に果てはないからかな」
グレーティアも興味深げに眺めています。
「ね、ここで一休みしない?景色もいいし」
「そうだね」
ソシウスたちが足を止めたのでレピダスは休息にはいったことを理解しました。
「ここで休むのか?」
「そうだが」
「目的地が直ぐそこなんだが」
「例の人物の家か。みんな疲れているし、俺だって魔法使いに痛い目にあっているので休みたい。それからでもいいんじゃないのか。すぐそこなんだろう」
プエラ達が勝手に店開きしているのでレピダスは諦め馬をつなぎ止めました。
敷き布を広げるとプエラとフィディアは座り袋の中身を広げました。グレーティアは出てきたお菓子の山に呆れため息をつくと隅に腰掛け、ソシウスとレピダスはどうしたものかと大きな石に腰を下ろしました。
「食べてみて。前の町のお店いい仕事しているのよ。これなんて最高に美味しいの」
プエラは買い物上手を自慢し、むりやり手に持たせました。
「この焼き加減最高でしょう。ちょっと真似できないわ。どんな手順で焼いたのかしらふっくらしているし食欲そそるのね」
「そうですね。冷めてしまったのにまだ美味しいですから」
フィディアはその製法を読み解こうとしていましたが、どうやら分からないようでした。
ソシウスはこの女共しょっちゅう食っているなとぼやきながらしぶしぶ菓子を口の中に入れました。
「う美味い!」
予想に反して美味かったのでソシウスは食いしん坊達がいるのもいいかなと心変わりしました。ソシウスが口一杯にほおばって食べるので、あんなに馬鹿にしていたのにと彼女達は愉快になってどんどんお菓子を与えました。
「そういえばフィディアは竪琴をもっているけどなにか弾けるのか?」
口をもぐもぐさせソシウスは一度も彼女が奏でたことがないことに単なる形見の品にすいないのではと思っていました。
「なんてこと言うの。詮索ししないの」
プエラはかばおうとするとフィディアは静かに笑いました。
「はい、弾けますよ」
そう言うと彼女は竪琴の弦を締め軽く調律を致しました。
彼女が軽く弦を弾くと綺麗な和音が響き渡り、みんなの耳を引きつけました。ゆっくりしたテンポで一つ一つ弦が弾かれ落ち着いた旋律が奏でられます。共鳴板からはなんとも言えない深くゆったりとした音がこぼれてまいります。そして前奏が終わると彼女は恋の詩を歌い始めました。静かに始まった歌は幾度かの抑揚を経て次第に大きな高鳴りを作り出し皆の心を虜にします。夜のしじまのなかで星に願いを込めるその詩は彼女の澄んだ声を通じて、乙女の恋いこがれる心の様を思い描かせたのでした。
「凄い、フィディア。吟遊詩人みたい」
プエラは驚いたように声を張り上げました。
「まったくだ、俺は竪琴は飾りかと思っていたがたしたものだぜ」
ソシウスも咀嚼していた口も止まって聞き惚れていました。
「お褒めの言葉有り難う御座います」
「その詩は芙蓉姫の歌ですね」
「はい、私彼女のことが好きなんです」
グレーティアの問いにフィディアは嬉しそうに答えました。
「珍しいですね。彼女の伝説は勇ましいことばかりのはずですが」
「それは違います。恐ろしい魔法の使い手て捉えられていますが、実は繊細で純粋な方だったのです」
「後に炎王と名乗り広大な領土を治める王ともなると勇ましい姿が作られるものだ。本人の真の姿を離れてな」
レピダスはフィディアを庇うように言いました。
「ねえ、フィディアこう踊るような元気のいい曲やってくれない?」
「はい、では村の花嫁を」
彼女が再び竪琴を手に取り歌い始めようとしたところ、湖の方から引き裂くような声が聞こえてきました。けたたましい声に一同は驚き声のする湖に首を振ると、そこには大きな怪物が二頭いたのでした。その姿は遠くにあったものの建物などぺしゃんこししてしまうくらいの巨体をしているのが分かりました。
「あれは、シルラス!」
「なんだそれは」
「水性の怪物で、水の中にいるせいか巨体で人の力ではなかなか倒し難い。魔法使いであれば別だが、それでもある程度高位でなければ致命傷を与えることは出来ないだろう」
「グレーティアそうなのか?」
「確かに、今のレベルでは傷を負わせられるのは確かですが致命傷を与えるには何度も攻撃しなくてはならないでしょう」
「まあ倒せないことはないんだな」
「しかしそれは近づけたらの話で、あの様に遠くにいては手の施しようがありません」
「そうか、相手は水の上だったな」
悔しそうにソシウスは舌打ちしました。
「あの二頭、先ほど通過した漁村に向かっているわよ」
プエラが怪物を指さし慌てた調子で叫びました。
「不味いな。レピダスなにかいい知恵はないか?」
「俺がグレーティアを馬に乗せて漁村で待ち受けるしかあるまい。あの早さで移動していては間に合いそうにもないが」
「しかしそれしかないでしょう。射程内に入れば此方におびき寄せることも出来ます」
怪物は水しぶきを上げながらどんどん左方に移動していきます。その細長い体は黒く時々放されるけたたましい声は心を氷つかせました。
二人が馬に乗ろうとしたときでした、突然怪物の回りに水を叩く轟音のようなものが起こり二頭を囲むような水の柱が立ち上がったのでした。怪物は行く手を柱に阻まれ狂ったようにその場で暴れました。
「あれは人?」
フィディアが何かに気がついたような声をあげました。湖のなかに滑るように水の上を移動している三人の姿がありました。
「あいつらはいったい」
ソシウスが正体を掴めぬまま湖面を速い速度で移動する者達を唖然とした様子で眺めていました。湖面に立つ者達と怪物の間は随分離れていたのですが、シルラスを覆い尽くした水の柱はこの者達に作られたのは確かなようでした。暫くすると怪物を覆い尽くした柱は変化をみせ鞭のように怪物達を撃ちました。シルラスはけたたましい声を上げ暴れ狂いました。
「あの様な離れた距離から技を繰り出すとはただ者ではありません」
グレーティアは正体不明の者達に警戒の念を抱きました。
「確かに、お前には出来ない芸当だ。何者だ彼奴。まさか追っ手ではないだろうな」
ソシウスはロバに背負わせた斧を手に持ちました。
激しく変化する水の柱。狭い檻の中で暴れていたシルラスはやがてその身が次第に宙に浮かび上がって来るのを感じました。怪物たち二頭は重さがないかのように、水の輪に包まれどんどん上昇します。中では怪物たちが檻を逃げださんと巨体をくねらせていましたが無駄な抵抗のようでした。
グレーティア達が眺めた位置からしてもずいぶんと高いところまで持ち上げられたことが分かり、一同は驚異的な技に呆気にとられたいました。やがて怪物を持ち上げいた水の球体が弾け飛んだと思えた瞬間湖面から真っ直ぐ怪物達めがけ水撃が突き抜けました。
シルラス達の巨体はその攻撃の前に一瞬で昇華してしまいました。肉の破片でなく粉みたいなものが湖一杯に風に吹かれて散っていきました。
「あいつらは上級クラスの魔法使いだ!」
レピダスは相手の驚異的な技にただ者でないことを察知しました。
「そのようですね。あの破壊力は普通ではありません」
グレーティアも放された魔法の言葉に上級者であることはわかりました。この解読不可能で力に満満ちた魔法は昔師と敵が戦った魔法のような強烈な破壊力をもったものであると読みとれました。自分には到底太刀打ち出来ない技に彼女は力の差を実感しました。
「となると、彼奴等が追ってでないことを祈るだけだな」
ソシウスは湖浮かぶ者達に警戒の念を抱きました。
「こちらに気がつかないならいいのだがな」
レピダスはことの様子を静かに見守りました。
怪物達が消失したあと数分間、湖の浮かぶ者達に動く様子もなく岸から眺めるグレーティア達はその後の展開を注視していました。やがて謎の人物達は動き始めたのでしたがその方向はなんとその光景を他人事のように眺めていた一同に向かってでした。
「相棒用心しろ。あいつらこっちにやって来るぜ!」
「おい、その斧は引っ込めた方がいい」
レピダスはソシウスに注意しました。
「戦闘能力が違いすぎる。下手に刺激させるな。ここは言葉でかわすんだ」
「くそー。おあずけくらった犬だな。こうなったら度胸あるのみ」
ソシウスはほぞを固めました。
水面を走り抜けた者達は水辺まで到達し、そこからゆっくりとこちらに近づいてきました。一同は彼等がそう出るか固唾を呑んで待ちかまえました。
こちらに歩いてきたのは三人の男達でした。一番先頭の男はまだ若く15,6といったもの。のこり二人は年輩で一人はがっしりとした戦士のような体格で、もう一人は隠者の様な様相をしていました。
一同の緊張と裏腹に迫ってきた若い男は前に出ると親しげに語りかけてきたのでした。
「レディー三人もいらっしゃるとは、ピクニックでしたか。どうやら僕たちあなた達を驚かせてしまったようですね。」
申し訳なさそうに若い男は頭を掻きました。
「俺達に何か用なのか?」
レピダスはすかさず相手に探りをいれました。
「用というほどのものではないのです。私の連れが気になることがあると此方に参ったのです。怪しまれて当然ですね。僕の名はトラボー。後ろにいる大きい男がファルコ。もう一人の法衣を着ているのがフィデスです」
以外と礼儀正しい態度に安心したのかソシウスは気軽に話しかけました。
「あんたたちの怪物退治見させてもらった。とても俺達には出にない技だったよ。あんたが殺ったのかい」
「私は魔法なんて出来ませんよ。このフィデスがしたのです」
「そうかい。お連れの方は大した魔法使いだ。彼の怪物をいとも簡単に退治して」
「お褒めの言葉は有り難いのですが、魔法はそんなに優れてはいませんよ」
「ところであんた達は此処の人かい」
「この土地の者ではありません。ガッリアから参りまして何処と言うのはありません。この国にやって来たのは昔悪い伯父さんに家屋敷の財産を取られてしまって、それを返してもらおうと生まれ故郷に帰ってきて来たのです。」
「それは災難だったな。親の財産を取り返せることを祈るよ」
「有り難う御座いまず。この地に参りましたのはある方に味方になっていただくべく説得を試みる為です」
「そりゃ、うまくいくといいな」
「それがなかなか困難で」
青年は苦笑いしました。
「ところで俺達の気になることてなんなんだ?」
青年は思い出したかのように振り返りフィデスに訪ねると、法衣の男はグレーティア達を一人一人見つめました。
「この中にはいないな」
男はこの様に言ったもののまだ納得いかないような顔をしていました。
「勘違いということか」
「いや、先ほどシルラスとの戦闘中に恐るべき魔力を持った者からの視線を感じたのは確かだ。その眼力は明らかに我々の能力を読みとっていた。おそらくは上級魔法使い。しかもトップクラスのはず」
「では彼等の中にそのものがいるというのか」
「残念ながら。見渡したところ該当者はいない。彼の娘はどうやら魔法使いのようだがまだレベルが低い」
「だとすれば、見当違いの方を探したのではないか」
「確かにこちらの方からの視線を感じたのだが」
フィデスは周囲を見渡しましたがそれらしい気配を感じることはありませんでした。
「どうやら勘違いのようした。おじゃまをして申し訳ない」
「なにいいてことよ」
「ところであの娘さんの魔法はなんの魔法です」
話題がグレーティアのことになったのでソシウスはひらめきました。
「攻撃魔法なんだが」
「攻撃魔法のお嬢さんですか。それはそれは」
同情にも似た顔をトラボーはいたしました。それはやがて気が狂ってしまう運命を哀れんだものでした。
「こいつが攻撃魔法を使えるのは元が男だった訳で、転身の術をかけられこのようになってしまったんだ。初対面のあんたがたにこんなことを頼むのもなんだが。その法衣の方に術を解いてもらいたいのだが」
青年は意外そうな顔をしてグレーティアを見たものの、納得したよう相づちをうつとフィデスに問いかけました。
「どうだ出来るか?」
「転身の技を解くのは簡単だが。このままでよかろう」
法衣の男の冷たい返事でした。
「そう言わないでくれ。こいつは困っているんだ」
ソシウスは慌てて懇願します。
「もういい加減昔のことは忘れたほうがいい。今に慣れるんだな」
法衣の男は冷たく突きはなしました。
「フィデス。可哀想に思えるのだが」
「そのことは自分で解決することになるだろう。俺に出来ることはない」
そう言うと男はその場を去っていきました。
「力になれなくて申し訳ない」
青年は詫びると、ファルコと一緒に後を追いかけました。
「くそー、あの野郎ケチだな」
ソシウスが地団駄踏んで悔しがっていっとグレーティアが肩に手をやりました。
「あの男が言うように自分たちで解決する問題なんですよ」
「そいつは何時になるんだ。それまで我慢できるのかよお前は」
「気長にいきましょう」
レピダスは湖面を疾走して去って行く三人を目で追っていました。
「ともかく、追っ手でなかったのは幸いだ。あの魔法使い相手ではこの場所で全てが終わったはずだし、それ以上の望みはしないことだ」
「それもそうだな」
レピダスの斜に構えた態度にいつも少し癇に触るソシウスでしたが、間違っていないことにしぶしぶ同意しなくてはなりませんでした。
「せっかくのお休みが台無しだわ」
プエラは不満たらたらにお菓子をむしゃむしゃ食べ始めました。
「俺達のせいじゃじゃないぜ」
「分かっているわよ。あの人達なんなのかしら人のことじろじろ見て嫌だわ」
「不満なのは分かるがおまえ何時まで食っているんだ」
「あら一番食べていたのはあんたでしょう」
ここでソシウスは言葉に詰まりました。たしかに貪りついていたのは自分なのでした。
「ほら。誰かを訪ねなくてはならないだろう」
返事に屈したのでソシウスはごまかしました。
「誰?」
「誰だっけ」
ソシウスはレピダスに助け船を要求いたしました。
「ハレエレシスだ」
「そうそいつだ」
ソシウスは思い出したかのようなそぶりをしてみたのでプエラは呆れたように店じまいをはじめました。
「さあいいわよ。そのなんとかシスて人に逢いにいきましょうか」
ロバに荷物を積むとプエラは案内しなさいとソシウスをせかしました。ソシウスは行き先を知らないのでレピダスを先頭に水辺の道を北に向かいました。
どのくらい進んだところでしょうか町に辿り着きました。この町はクリークが走り巡っていて少し進んでは石の橋また進んでは石の橋とかなり小さく区画されていました。橋の欄干に手をついてクリークの先をみてみると、水があるところまで降りる道がありそこで女性の人が野菜を洗っていました。二階の家の窓からは旅人の通り過ぎるのを眺めている老人の姿があり、彼等の横を荷物を背負った男が走りすぎていきました。いくつかの橋を渡ってクリークの湖近くまでやってくると、そこには漁船が数多く水に浮かんでおり海ではないでいか防波堤のようなもので囲まれてはおらず前には広々とした湖が広がっていました。きらきら光る湖面を左にして町の水辺の満ちを進むとやがて町の端にでて目的地がこの町ではなかったので拍子抜けした一同は、そのままレピダスに引率されてどんどん進んでいきました。
「どこまで行くんだ?」
心配になってソシウスが訪ねるとレピダスは静かに笑って湖の方を指さしました。その方向をみてみると陸地から突き出て桟橋が曲がりくねって湖の上をはしっており、その先には水の中に足を押し立てた家がありました。さながら湖の中に浮かぶ家といったかんじで、縁側から釣り糸を垂れれば舟の上にいるかのように錯覚しそうなものでした。
「湖の中にに建つ家なんてなにか素敵ですね」
フィディアは夢見心地に手を組みました。
「そうか、荒らしの時は大変そうだが」
レピダスはからかいました。
「でも有るべきところでないところに家があるて不思議なことですわ」
「そんなものか」
「キラキラ光る湖の中に橋がかかかってその先に小さな家がある光景て素晴らしくありませんか」
「まあ、綺麗だな・・・」
「ここに住む方はどんな人なんです。きっと心が澄んだ人なんでしょうね」
「ねじ曲がっているが」
「まあ」
「そうだな、不思議な老人だ。博識な人物で魔法使いではないが本質を見抜く能力をもっている」
ロバと馬を近くの杭に繋ぎ止めると、軋む音をたてる桟橋を恐る恐る渡っていき玄関のところまでやって来ました。玄関には呼び鈴がついていて軽く金属音を響かせると奥から白髪交じりの皺の深い男が出て参りました。
「黒虎騎士団か。何の用だ」
レピダスの姿を認めた老人は怪訝そうに訪ねました。
「少し教えてもらいたいことがあってな」
「儂はもう政治とは縁を切った存在だ。書画の書き方について質問したいというわけか?」
ハレエレシスは皮肉っぽく訊ねました。
「ちょっと違うが、中に入っても良いか」
「いいとも、中は取り調べにはいい部屋だ」
老人はドアを開けると中で待ち受けました。するとレピダスの後ろからぞろぞろと人がついてきたにで少々戸惑いました。
「これはなにかな?」
「おれの連れだ気にするな」
レピダスはなんの説明もしませんでした。一同が部屋に入っている姿を一人一人眺めていた老人は突然なにかにすごく狼狽した様子で目を見開き少し震えていました。
「どうした、気分が悪そうだが」
レピダスは老人の硬直したぎこちない動きを怪しみ訊ねました。
「なんでもない。一寸持病が出ただけだ。」
そういうとハレエレシスは静かに椅子に腰掛けました。老人に勧められ一同も座るとレピダスが口を開きました。
「単刀直入に話そう。今宰相はある人物の殺害のため地域一帯に魔法使いを使わしている。この標的のことなんだが」
「大捕り物をやっているというわけか。ところで国家機密を後ろの連中のいる前で話していいのか」
「それはかまわん。その標的は攻撃魔法を使う15,6の娘となっている」
「ほう、それは面白い」
「この娘の狙われる理由というのが、国に災いをもたらすということなのだがそんな娘が危険なのか不思議でならない。そこでだ宰相がヘテロへまわす人員を割いてまで執行する作戦の意味、国家の災いとは何かを知りたいのだが心当たりはないだろうか」
「なにか曖昧さがある話だな。娘についてあまりにも漠然としていて、それでやっていては捕まりはせんだろうな。情報のなさを露呈しているな」
「その通りだ。そこまで急ぐ理由も分からない」
「少し思い当たらぬでもないが。的はずれかもしれぬ」
「それでもいい。教えてくれ」
「魔法宰相デスペロはまだ若い頃研究していたものがあった。それは瓊筵戦争の隠された部分だった。この時代については炎王が統一朝をうち立ていった戦いの記録ばかりが残っているが一般の伝承では消された部分が存在するようなのだ。これに奴は御執心といったところだったらしい、もしかしたら現在も研究中なのかもしれないな。じつはこ研究には別に二人仲間がいて一人はヘテロ国魔法宰相ホスティス、もう一人は魔法博士ダーナだ」
「なんと、この国の魔法三巨頭ではないですか。それが同じ研究をしていたと・・・」
「まあ、この国の魔法学徒の優等生が三人も登場し、しかも同じ研究をしていたら普通に考えても薄気味悪いことであろうな」
「瓊筵戦争の時代なにがあったのだろうか」
「このパテリアにも昔から魔法は存在したが、もっと初期的なものだった。ところが瓊筵戦争のころ劇的な進化をみせ魔法の威力が増大した。その激変ぶりは目を見張るものがあり果ては威力はあるが全く制御不能の禁断の魔法なるものも登場してきた。あまりにも急激な変化にこれらの魔法は外界からもたらされたのではないかと推測されている」
「魔法がこの国のものでないと」
「魔法だけではない。シルバの森に生息する怪物どもはこの時代に現れ出たようなのだ」
「なんですと。昔からいたわけではないのか」
「その通り、何かに導かれこの地に現れたといったところか」
「呼び込んだ者がいるなどと」
「怪物だけならいいのだがな」
老人は椅子から立つと棚に並んでいた陶器を運び、蓋をあけると奇妙な肉の様な物体がありました。
「これは儂が牢解放された後、行方不明になったダーナの書斎で発見したものだ。デスペロに気づかれないようにくすねてきたものなのだが」
「なんですこれは」
「未知の生命体の一部だ」
「謎の生物ということか」
「これは傷をつけると、激しい勢いで修復する。どこからか養分を得ている訳でもないし腐敗もしない。魔法博士はこれを培養していたようだ。これがダーナの家にあったとすると、これに関係した研究をデスペロもしていた可能性がある」
「するとホスティスもしていた可能性が・・」
「それはどうか分からぬな。確かに若い学徒の時は一緒に研究してはいただろがその後年数も経ち袂を分かつている。噂ではホスティスの才能を恐れたデスペロが謀略をもって罠にはめたとある」
「ホスティスは反逆罪によって一級魔法使い等に襲われ半死半生の状態でヘテロに逃れたというあれか」
「その後、奴は逃れたヘテロ国の王に才能を認められ宰相の地位まで上り詰めた。足を失った恨みは消えることなくデスペロへの復讐を誓っているという」
「もしや、瓊筵戦争の時代が再びこの地にやって来ることを宰相は恐れているのだろうか」
「かもしれぬし、そうでないかもしれない」
老人の雲を掴むような話しについてゆけず話はここで終わってしまいました。
「もう一つお願いしたいことがあるのだが、魔法を解いてほしいのだが」
「儂は魔法使いではないよ。ものの真の姿や本質について少し分かるといった程度のものでなんの力もない」
ハレエレシスは笑いながら手を振りました。
「では、とりあえず診てもらえないだろうかなにか手だてがあったら教えて欲しい。一番右手にいる人物なのだが転身の術で女にされている」
「転身の術とな。その技が出来るものはこの国でもほとんどいないはずだ。珍しい」
老人はグレーティアを招き寄せると食い入るように見渡しました。
「完全に女体化しておるな。なにやら体全体に魔法の文らしきものが覆っているな。これが転身の術のそれなのか?」
暫くハレエレシスは深い思索のなかに浸り込んでいましたが、次第に険しい顔になっていきました。右手の指は思索に連動するように何度も顎をもみほぐし、額のしわは深くなっていきました。そして微かに老人の瞳に鋭い輝きが走りました。
「どうかしたか」
「いやなにも」
ここで老人は我に返りにこやかな顔をしました。
「駄目だな。なにも分からん」
「そうかやはり駄目か。では術を解ける者を知らないか」
「それだったら、お前の方が知り合いが多いだろうて。上級魔法使いにでも頼むんだな」
「それはそうだが」
「なにか事情がありそうだな。まあ当てがないならこのままでもよかろう。醜いならいざ知らず美人になったのだから良いではないか」
けらけら老人は笑います。
「酷いことを言うな。こちらは大真面目なんだが」
「すまんすまん。ただ、いまあるということは無意味にあるということでなないと言うことだ。何故その姿にさせられたのかの訳を知るべきだな」
「言っていることが分からないが。時間を割いてくれたことには礼をいう。我々はこれでお暇をする」
「気をを悪くしてしまったようだな。許せよ」
レピダス達は会釈すると老人の家から出て行きました。最後に家を出ようとしたソシウスにハレエレシスは呼び止めました。
「そこの若いの一寸待て!」
「俺か?」
慌てて呼び止めた老人の声にソシウスは何事かと振り返りました。
「お前だ、体の大きいの」
老人の横柄な態度に少し癇に触りましたがソシウスは丁寧に対応しました。
「なかなか見所のある奴だ」
「おだてるのが上手だな」
「なーに本当のことだ。儂は本質を見抜くからな」
「で、俺に何の用だ。悪いが仲間を待たせる訳にはいかない」
老人は見えない場所にソシウスを導くと、小声で語りかけました。
「お前は聖剣グラディウスを手にとったな?」
「聖剣?なんだそれ」
「黎明期にあった伝説の剣だ」
「古い剣なら遺跡で触ったな。でも先が砕けた剣だったが」
「それだ。雄剣の方に違いない」
「そななら相棒も触っているぜ」
「多分あの娘じゃな。剣の在処は誰も見つけられないはずだがお前達は導かれたのだろう」
「道ばたにあったようだったが」
「ともかく聖剣はお前を選んだということだ」
「剣が選ぶって・・・」
「これから大きな戦いが始まる。その最終局面で勝敗を決する重要な役をお前は演じることになろう。」
老人は懐から二つのバッジを取り出し、ソシウスの手にしっかりと持たせました。
「なんだいこれは?」
「これは瓊筵戦争の時代のものだ。金のものは異界の海を渡ることができ、銀のものは魔より姿を消すことが出来る。二つとも今は眠りについているが時が来れば甦るであろう」
「なんのことか分からないが」
「時が来れば分かるようになる。よいかこの二つは誰にも知られてはならない」
「誰にもか?」
「そうだ。特に娘には悟られるな」
「欲しがるからか?」
「そんなところだ。さあ仲間の所へ行け。これ以上は怪しまれる」
押し出されるようにソシウスは家の外にでると、意味不明の話しに小首を傾げ時々老人の家を振り返りながらグレーティア達に追いつきました。
老人は遠くに去り行く一行をみて安堵の息をこぼし椅子に腰掛け、小さく揺れる椅子の中でハレエレシスは呟きました。
「戦いの角笛は鳴るか・・・」
疲れが出たのかハレエレシスはその身をゆったりと椅子に預けベランダから静かに波打つ湖を眺めて僅かばかり浅い眠りにはいっていました。次に目を覚ましたときは湖の湖面には舟が一艘浮かんでいました。老人は今夜の夕飯のおかずでも釣り上げようと竿を片手に持ち上げた時でした、呼び鈴が再び鳴り誰かがやってきたのでした。
ハレエレシスが扉を開いてみると、玄関に立っていたのは青年と屈強な男それに法衣をまとった者でした。
「おまえさん達だったか」
「何度も申し訳有りません。是非先生には仲間に加わって頂きたく」
若者は慇懃に語りました。
「中に入りなさい。話を聞こう」
老人は三人を中に通すことに致しました。三人が席に着くとハレエレシスは改めて三人の顔を見定めました。
「名前はなんだったのう」
「私がトラボー。右の体格がいいのがファルコ。左の法衣の者がフィデスです」
「なかなか頼もしい連れをお持ちだ。湖にシルラスが現れたが退治したのお前達だろう。大した技じゃな」」
「有り難う御座います」
「ところで何度も訪ねられているが、儂にはなんの力もないのだが」
老人は疑問を投げかけてみました。
「先生、それはご謙遜というものです。現政権以前にクーデターを実行なされた方。その実力は分かっています」
「あれは失敗であった。故に儂は牢に入れられた。そんな者を信じるのか?」
「私たちの調べでは、お仲間が勝手に先走り自滅しただけのことです。先生は早急に手を引いたのでお命は助かったのでしょう」
「ほう、研究熱心だな。あれは内部からの政権強奪だったが、お前達のは反乱だ。条件が違いすぎないか」
「奪うことに違いはありません。それに先生がここで大人しく朽ちてしまわれる方には思えません。何かの志があられるのでは?」
「若いのに賢いな。では儂からも一言述べるとしよう。この二人ガッリアから借りたろう。その他資金は隣国頼みか?国を盗った後の条件はなんだ!」
ハレエレシスは厳しく問い糾しました。
「流石に先生お見通しでしたか。確かに隣国に逃れた私は援助を受けてまいりました。条件は島一つです」
「なるほとあれか。確かに欲しがっていたな」
老人は納得したように鬚を撫でました。
「首魁のアウダックが謎の男に倒され反乱軍は解体しましたが、依然として地下では勢力を保っています私たちはこれらを指揮し旗を揚げるつもりです」
「止めておけ。ヘテロとの戦いが収束してコンジュレティオが主力を引き連れてやって来れば簡単に鎮圧されるぞ」
「ならばガッリアの兵を借りて・・」
「馬鹿者、島以外の領地を手放すというのか!儂に考えがある」
「どのような」
「こんな田舎では兵は起こさん。狙うは一大貿易港フォルム。この近くで立ち上げ貿易港ルース、ビダ街道を抑えこの国の西半分を頂くとしよう。」
「そのようなことが出来るのですか」
驚いたようにトラボーは目を見開きました。
「魔法博士と言われた知友の残したものを使ってな」
老人は不敵に笑いました。
「もしや先生お仲間に加わって頂けるのですか?」
「仲間になるとは言わないぞ。お前達を利用したいだけだ。お前達も儂を利用すればよかろう」
青年は二人に目で同意を求めました。
「それで結構です。ご協力頂けますか?」
「お前達は三度儂の庵に訪れ、礼をもって請うたからには応じなくてはならないだろう」 青年の顔に笑みがこぼれました。
「今から旅立つとしよう。お前達は準備は良いか」
ハレエレシス勢い良く立ち上がると若者は老人の性急さに驚きました。
「先生、そう急がれなくととも」
老人は静かに言いました。
「戦いは始まっていたのだよ。今日それを告げる者達がやってきた」
これだけ書いたのにちっとも物語が先に進みません。だらだらした性格がそのまま小説に現れるのでしょか。この調子なら主要人物が全て登場するのはいつのことやら。
ところでフィディアの持っている竪琴は本当はリュートのつもりだったのですが漢字でなんと表現していいのか分からないので竪琴と書いてしまいました。竪琴というとそうもハープ系のようなのでちょっとイメージと違いますがそのままいっちゃいます。
お菓子の描写はよくわかりませんでした。菓子など作った事ないので曖昧になりました。