騎士の剣さばきはロマファン仕込みです
「いただきます!!」
朝の修道院に、元気な声が響き渡る。
木造の長机を囲んで、孤児たちが一斉に手を合わせる光景は、いつ見ても微笑ましかった。
焼きたてのパンの香り。温かいスープの湯気。素朴だが、心のこもった朝食。
そして、その席には――今ではすっかり当たり前のように、銀髪の青年、ミカエルの姿もあった。
彼がこの修道院に身を寄せてから、すでに数日が経っている。
最初こそ遠慮がちで控えめだった彼も、今ではすっかり馴染んでいた。
「ミカエル兄ちゃん、あとで遊ぼう!」
「昨日の続きしようよ!」
「約束だからね!」
朝から囲まれる。完全に人気者だ。
「は、はい……もちろんです」
困ったように笑いながらも、断らない。いや、断れない。
根が真面目すぎるこの男は、子どもたちの期待を裏切ることができなかった。
おかげで、腰を痛めていた司祭も、忙しいシスターも、最近はかなり助かっている。
そして、朝食後。
中庭では、今日も見慣れた光景が繰り広げられていた。
「ハッ……!」
「ハァッ……!」
鋭い掛け声とともに、銀色の軌跡が空を切る。
次の瞬間、丸太は寸分の狂いもなく分断され、さらに流れるような連撃によって、均等な薪へと変貌していった。
しかも、落下位置まで計算済み。芸術的な角度で積み上がっている。
「すげぇぇぇ!!」
「ミカエル兄ちゃんすごい!!」
「まほうみたい!!」
孤児たちは拍手喝采大興奮だった。
「……うわぁー……」
それを見ていたイルフェルミナは、ぽかんと口を開けていた。
「……人間技じゃないでしょ……」
驚きを通り越して呆れる。そして心の中でそっと毒づく。
(どうみてもロマンスファンタジーのヒーローのそれでしょ……)
薪割りを終えたミカエルは、剣を収めると、そっと彼女の元へ近づいてきた。
「これで……足りますか……?」
上目遣いで様子を窺う。期待と不安が混ざった表情。
どう見ても褒められ待ちである。
イルフェルミナは、苦笑しながら答えた。
「ええ。十分よ。助かったわ」
その瞬間、ミカエルの表情がぱっと明るくなる。
目が輝き、口元が緩み、全身から「嬉しい」が滲み出た。
(……もうね、ミカエルから尻尾、見えるんだけど)
存在しないはずの尻尾が、ぶんぶん振られているように見える。
それだけではない。
ミカエルは畑仕事、薪割り、屋根の補修、雨漏り修理、重い荷物運び――男手の必要な仕事をすべて引き受けていた。
さらに空き時間には、孤児たちの遊び相手まで務めている。
結果、子どもたちは完全に懐いていた。
「ミカエル兄ちゃん大好き!」
「ねー肩ぐるまして!」
抱きつかれる日常。逃げ場はない。
イルフェルミナは、ふと考える。
(……正直……めちゃくちゃ助かってるのよね……)
彼が来てから、仕事量は激減した。体力的にも精神的にも、ずっと楽になっている。
(……ほんと、いい人すぎる……)
少しだけ、心配にもなる。
そんな彼女の視線に気づいて、ミカエルはそっと微笑んだ。
「……何か、他にもお手伝いできることはありますか?」
控えめで、従順で、献身的。
完全に、イルフェルミナ専用ワンちゃんである。
「ふふ。じゃあお昼作るから手伝って」
自分より年上の彼を可愛いと思ってしまう。自分の精神年齢が前世も加えたら彼より高いからかもしれないけど。
ミカエルと並びながらイルフェルミナは台所へと向かった。
イルフェルミナの中でミカエルの存在が少しずつ膨らんでいってるのを、まだ彼女自身気付いてなかった。
次は3日19時更新です




