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ヒロインでもない転生、能力持ちは目立たないのが1番

ピッ〇マとか読んでたら、銀髪聖騎士ポジだいたい当て馬で、黒髪大公or皇帝がだいたいヒロインと結ばれて、悲しいから救済ルート書きたくなりました。

「イル姉ちゃーん! おなかすいたー!」

廊下に響く元気な声。

それに即座に返る声。

「はいはい、あと五分! スープ焦げるから走らない!」

台所から飛んできたのは、少し慌てた少女の声だった。

修道院の台所は、今日も戦場である。

小さな鍋が三つ。

焦げた跡のあるフライパンが一枚。

年季の入った包丁一本。

そして、その中央に立つのが――イルフェルミナだった。

ピンクゴールドの髪を後ろでまとめ、袖をまくり、必死に鍋をかき混ぜている。

「えーっと……こっちは豆スープ、こっちは野菜煮込み……」

「イルフェルミナ、無理しすぎじゃないかい?」

背後から、穏やかな声。

白髪の老司祭が、心配そうに覗き込んでいた。

「大丈夫です、司祭様。今日の分は計算通りですから」

「計算通りって……君はまだ十七歳なんだよ?」

「精神年齢は40超えてます」

イルフェルミナの即答に、司祭は苦笑した。

「……それは、誇ることじゃないね」

そこへ、年老いたシスターがパンを抱えて入ってくる。

「イルちゃん、これ焼けたわよ」

「ありがとうございます、シスター! 助かります!」

「本当に、この子がいなかったら、この修道院はとっくに餓死してるわねえ」

「縁起でもないこと言わないでください」

そう言いながらも、イルフェルミナは嬉しそうだった。

やがて、子どもたちが一斉に食堂へ集まってくる。

「イル姉ちゃん!」

「今日なにー!?」

「パンある!?」

子供たちが今日の食事に目を輝かせながら、集まってくる。

「はいはい、順番ね。今日は豆スープと煮込みとパン」

「やったー!」

「イル姉ちゃんのスープだいすき!」

「昨日のもおいしかった!」

「え、ほんと? ちゃんと味見した?」

「してなーい!」

「しなさいよ!」

この辺境の小さな修道院は今日も笑顔が溢れている。


配膳中。

小さな女の子が、不安そうに袖を引いた。

「……イル姉ちゃん」

「どうしたの、マリー?」

「……きょう、おねつあったけど……がまんした」

「……え?」

すぐに額に手を当てる。

「……まだ熱あるじゃない。なんで言わないの」

「……みんなのしごとふえるから……」

その瞬間、イルフェルミナの表情が変わった。

しゃがみ込み、目線を合わせる。

「マリー。ここはね、我慢する場所じゃないの」

「……」

「具合悪い時は、ちゃんと言う。それが一番のお仕事」

「……うん」

マリーの頭を優しく撫でながら、イルフェルミナは立ち上がった。

「薬とってくるから、飲もうね」

「……ありがと」

マリーが赤くなった目を擦りながら、イルフェルミナのスカートの裾をギュッと握りしめる。

イルフェルミナの傍を、まるで雛のようにぴったりとくっついていくマリー。

「君は、本当に……母親みたいだね」

司祭はその姿を見ながら微笑ましく、そして感慨深げに呟いた。

「やめてください、老けます」

「もう十分老けてるよ」

「失礼すぎません?」


食事が終わり、片付けの時間。

子どもたちも手伝う。

「お皿持つ!」

「ぼくふく!」

「水こぼすなー!」

「こぼしてる!」

「うるさい!」

完全に大爆笑。毎日笑いが絶えない暮らし。

イルフェルミナはこの辺境の貧しい修道院の前に産まれてすぐの状態で捨てられていた。

それを司祭とシスターが拾い上げ、17歳になる現在まで育ててくれた。

そんな中で、いろんな境遇を持った孤児を司祭とシスターが引き取り、今では14人の大家族になっている。

決して楽とは言えない生活だけど、皆寄り添いながら幸せに暮らしている。

イルフェルミナはこの生活を気に入っていた。



夜。

子どもたちが眠りにつき、修道院に静けさが戻った頃。

イルフェルミナは、台所の片隅で帳簿を整理していた。

「……今月、ギリギリね」

パン二斤。といっても柔らかい白パンではなくカチカチになった黒パン。

雑穀が混じった豆袋ひとつ。

腐らぬように干していた野菜、残り三日分。

14人で生活するには到底足りない食糧にため息がでる。

「まあ、生きてるだけ勝ちだけど」

前世の自分が聞いたら、卒倒する生活水準だ。

残業帰りにコンビニで無駄遣いしてた頃の自分に、説教したい。

帳簿を閉じ、椅子にもたれる。

ふと、天井を見る。

ひび割れた梁。

染み。

雨漏り跡。

「……ほんと、舞台装置としては完璧すぎるのよね」

小さく、呟く。

この世界。

最初に気づいたのは、五歳の頃だった。

夢の中で思い出した、前世の記憶。

満員電車。

パソコン。

上司。

コンビニ弁当。

ありえない光景。

そこで、理解した。

――あ、私、転生してるわ。

そして、成長するにつれ、確信に変わった。

この世界は。

どう考えても、ロマンスファンタジーの舞台だ。

しかも。

「……たぶん、物語はもう終わってる」

物語はこうだ。

皇帝とメイドの間にできた子だと虐げられてた第1皇子が、預言の聖女である公爵令嬢に救われ、作為によって開かれた魔界のゲート、押し寄せてきた魔物たちを相手に戦う。

数々の功績と公爵令嬢の後押し(主に実家の力と、公爵令嬢の預言の力)により、ついに第1皇子は皇太子へと登り詰める。

その後は紆余曲折の末、魔王討伐し、人類はまた平和を取り戻す。

皇太子と彼を支えていた公爵令嬢はめでたく結ばれ、この国の皇帝、皇后となる。

まさしくテンプレの完成形だ。

これがロマファンと言わずして何と言う。

今や子ども向けの絵本にもなっている。

完全に“エンディング後”なのだ。


「……つまり私は、モブ兼後日談要員」

結論、主人公じゃないし、選ばれし者でもない。

だからこそ、安心安全。…のはずだった。

しかし……

視線が、自分の手に落ちる。

白く、細い指。

何の変哲もない、修道女の手。

「……これさえなければ、ね」

小さく握る。


昔。

マリーが高熱で倒れた夜のことを、イルフェルミナは今でもはっきり覚えている。

身体は熱く、呼吸は浅く。

小さな胸が、苦しそうに上下していた。

医者は来られない。

薬も、ない。

司祭は祈り、シスターは涙ぐみ。

皆が、無力だった。

――このままじゃ、マリーは確実に死ぬ。

幼いながらに、そう理解した。

「……やだ……」

自分以外いなくなった医務室のベッドの横に座り込み、震える手でマリーの手を握る。

「……行かないで……」

祈るしかなかった。神でも、運命でも、何でもいい。

誰かマリーを助けてと、必死で祈り続けた。

その瞬間だった。

胸の奥が、カァッと熱くなった。

まるで、小さな灯りがともったように。

次の瞬間。

イルフェルミナの身体が、淡く、柔らかな光に包まれた。

月明かりのような。

朝焼けのような。

優しい光に。

「……え……?」

自分でも、何が起きているのか分からなかった。

ただ、マリーを握りしめる手のひらから温かさが流れ込んでいくのを感じた。

やがて。

マリーの呼吸が、ゆっくりと整っていく。

荒かった息が、穏やかになる。

熱に浮かされて赤くなっていた頬が、少しずつ元の色に戻っていった。

額に当てた手から、高熱がすっと引いていくのが分かった。

まるで、嘘のように。

「……さが……った……?」

呟いた声は、震えていた。

何度触っても、熱くない。

呼吸は安定し。

眠る顔は、安らかだった。

光は、いつの間にか消えていた。

まるで、最初から存在しなかったかのように。

「……なに……今の……」

心臓が、早鐘を打つ。

手を見る。

何も変わっていない。

なのに。

確かに、起きた。

奇跡が。


翌朝。

マリーは、何事もなかったように目を覚ました。

「おはよー、イル姉ちゃん」

昨日、死にかけていたとは思えないほど、元気に。

司祭も、シスターも、言葉を失った。医者は首を傾げていた。

「……ありえません」

とだけ、言った。

その日から。

イルフェルミナは、確信した。

――私は、普通じゃない。


別の日。

イルフェルミナが街に買い出しにいく道中、落馬した旅人を発見した。旅人は頭から大量の血を流し、既に息も絶え絶えで瀕死の重傷を負ってる。

呼びかけたが返事はなく意識はない。

イルフェルミナが恐る恐る旅人の頭に触れた瞬間、綺麗に傷が閉じたのだ。まるで最初から傷なんかなかったかのように。

幸いにも誰にも見られなかった。

旅人の呼吸が安定したのを確認し、イルフェルミナはすぐにその場から離れた。

運が良かった。

「……バレたら完全アウト案件よね」

聖女案件。

拉致案件。

監禁案件。

ヒロインでもない自分が能力なんて持ってると、死ぬまで神殿の威光を取り戻す為の機械として扱われ、能力がなくなれば人体実験の材料となるのが関の山。

だから、絶対誰にも言わない。

例え信頼してる司祭様や、シスター、子供たちにも。

この能力はできるだけ使わない。

自分の平穏や、修道院を守るためにもなる。

「……平和が、一番」

それが、彼女の信条だった。

英雄にも、悲劇にも、なりたくない。

ここで、穏やかに生きたい。

それだけ。

イルフェルミナは立ち上がり、井戸へ向かう準備をする。

ランタンに火を入れる。

外套を羽織る。

「水汲み、行ってきます」

誰もいないのに、つい言う。

癖だ。

扉を開けた瞬間。

ひやりとした夜風が頬を撫でた。

そして。

微かに。

鉄の匂いが混じった。

「……ん?」

足が、止まる。鉄錆た匂いが濃くなり、眉がわずかに寄る。

「……血?」

閑散とした草むらに赤黒い血溜まりがあり、それが森へと点々と続いて伸びている。

とてつもなく嫌な予感がする。

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