師匠の横顔
【十一】
【進藤蓮のオリジン】
幼い頃の進藤蓮は、無茶な修行ばかりを課せられてきた。
ヒグマとの決闘から始まり、ヤクザの事務所の壊滅に繋がり、半グレ組織に片っ端から喧嘩を売り、メキシコにまで遠征して麻薬カルテルを滅ぼした。
生きているのが不思議なほどだったが、本物の異世界に触れた今となっては、それらでさえ平和な日常に思えた。
世界に潜む悪と暴力を凌駕する非常識な技を教え込まれ、全身の筋繊維を毎日作り変えるのを義務とする修行。
何処から来たのか。どのようにして強くなったのか。
師匠はそれらの問いに一切答えなかった。
正体不明の超人。そんな人に、進藤蓮は師事した。
ある日、一度だけ師に質問されたことがある。
──お前は、どうして強くなりたいんだ?
遠い何処かを見つめる目をしながらの問いかけ。
幼い蓮は答えた。
今になってみれば月並みな言葉だった気がする。
守れるように。迎えられるように。そういったものだ。
その言葉に、師匠は納得したのか、押し黙って酒を煽った。
──師匠はどうして、こんなところに住んでるんですか?
そのシンプルな質問に、師匠が一瞬言葉に詰まり、そして答える。
深い悲しみと寂寥を湛えた瞳で。
──今さら帰るところなんて、ねえからな。
ただ、そう言った。
それだけが、蓮が知る師匠に関する事柄だった。




