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プラチナトロフィー:ゲームクリア


【九】


【魔王の交代】


 魔王ライゼン=グロアブルの軍勢との最終決戦。

 戦連国ドミネイアの仲間が、次々に倒れていく。

 幾千、幾万、幾億の剣閃を潜り抜け、弓と魔術の雨をくぐり抜け──

 ついに向かい合う、姫戦士シキと魔王ライゼン=グロアブル。

 互いの獲物がひゅっと走り、黒風の巨大居合と、聖炎の戦斧が衝突する。



---


  【魔王の交代 ― システム再構成】

  最終戦闘フェーズ:開始。

  敵対存在【魔王ライゼン=グロアブル】確認。

  味方ユニット:壊滅状態。

  回避、接近、攻撃。

  弓・魔術・近接攻撃を突破。

  姫戦士シキ、ボスユニットへ到達。



---


 魔王が手を上げて、挨拶するように言った。


「やっほー、とうとう今日まで来たねえ、シキ! 君は簡単に死なないでよね!」

「貴女のせいで……ミーナも! アンヌも! ヤーラも! ドナも!」

「ごめん、誰だっけ? まあ、いっか。もうすぐ会えるよ」

「貴女がみんなに詫びろ!! 私の親にもだ!!」


  【イベントセリフ:挑発】


 歯軋りし、次々に斧を叩きつける戦士。

 斬撃と打撃が融合した断戟は、大地を割り、空を裂く威力だ。


 異世界に来たとき。

 魔王への憎しみというものは、志紀には理解できなかった。

 大きくなっても、「そうすれば家に帰れる」「みんなが喜ぶ」と言われることで、戦う意志を保てた。

 故郷の記憶が薄れる中でも、それをモチベーションに変えることができた。


 だが今は違う。

 無情に踏み潰される人々。荒廃していく都市と心。

 戦いで倒れた仲間。親同然のギリーの死。

 愛する者たちの死を積み重ねるほど、魔王への憎しみと敵意は、志紀自身のものになっていった。


 すべての悲しみは、姫戦士として終わらせる。

 今日この日に、希望を現実にするのだ。


「ハハハッ、あたしにそう叫ぶのは君で三十人目だ!

 楽しませてよぉ。今が一番楽しい瞬間だからね!!」


 暗い希望に瞳を輝かせ、魔王は無邪気に笑う。

 殺してきた相手を、砕いてきた希望を──スコアのように数え上げる、その口ぶりに、志紀は激昂した。


「黙れぇぇぇぇぇぇぇ!」


 跳躍する魔王を追いかける姫戦士。

 斧が生む爆炎を推進にして飛び、魔王の眼前へ肉薄する。



---


  【敵ボス:高揚状態】

  撃破数カウント:表示中。

  感情パラメータ:楽しさ[MAX]。


  【プレイヤーユニット:シキ】

  感情変化:

  怒り → 憎悪 → 固定。



---


 ライゼンは飄々とした態度を崩さず、刀身から無数の鎌鼬を生み出した。

 宙にいる戦士は、無防備に攻撃を喰らう。


 白い血。

 昔は赤かった気がするが、もう朧げだ。

 全身から噴き出す白が、彼女の体力を奪っていく。


 大きく息を吸って、止める。

 活力を体内に閉じ込める。

 潜水の要領──育ての親が教えてくれた、気休め。


 炎で攻撃を潰していくが、すべては消しきれず、いくつか被弾してしまう。

 追い打ちに、魔王が打刀へ力をすべて籠める。

 結んだ黒髪が暴れ、魔王は地上へ強大な一閃を放った。


 視界一面に、闇が走る。

 シキのいる地点から、地平線まで続くクレバスが生じた。


 炎の熱放射で耐えたシキは、動かない。

 そこへ魔王が淡々と斬りかかる。


「はい、ハッピーエンド」


 姫戦士の心臓がある胸部。そこが深々と裂かれ、やがて両断された。

 ──だが、斬られたシキは、炎で作られた分身体だった。


 養親ギリーに教わった、シキが使える唯一の高等魔術。

 ここで使うのは、自分を庇って死んだ彼への手向けにもなる。そう彼女は思った。


「なにっ!」


 囮に気づいた魔王が、周囲を見回す。

 魔王が生み出した亀裂から、褐色の影が跳び出した。

 身を潜めていたシキが、奇を衝いてライゼンへ斬りかかる。


 反射的に柄へ手をやった魔王だったが、目を閉じて呟いた。

 間に合わないと悟ったのか。

 それとも──死を受け入れたのか。

 後になっても、わからない疑問だ。


「ごめん」


 短い謝罪。

 その意味を問うために、攻撃を止めることはできない。


 魔王が討たれた。


 肩で息をし、無我夢中のシキには、その最期の言葉の意図がわからない。

 英雄である姫戦士に、勝利の歓喜も、高揚も、達成感もなかった。



---


  【演出:心臓貫通】

  対象:分身体

  高等魔術(炎分身):成功

  カウンター攻撃:発動

  奇襲:成功

  敵ボス:回避失敗


  セリフログ:「ごめん」

  撃破処理:開始


    ◆ ボス討伐完了 ◆



---


 周囲から地を揺るがす歓声が響き渡る──はずだった。

 だが、そこにあったのは、奇妙なまでの沈黙。


 すべてが無音だった。

 敵軍の音もない。

 味方の歓声も、解放の涙も、勝利の雄叫びもない。

 敵による絶望も、失意もなかった。


 戦いの興奮が冷めたシキの背筋を、冷たい悪寒が走る。

 首を振って、辺りを見る。


 何も動かない。

 時間が止まっているのか。

 風すら吹いていないのではないか。


 混乱し、誰かに何かを叫びたくなった。

 狂乱しそうな彼女へ、天から無機質な言霊が投げかけられた。


『クリアおめでとう。貴女が次の魔王です。

 姫戦士としてのクリア報酬に、願いを一つだけ叶えましょう。

 それでは、貴女のさらなるご健勝をお祈り申し上げます』


 それだけ。

 それだけだった。



---


  【プレイ継続】


  パーティ:解散

  観測者:なし

  引き継ぎ:完了


  進藤志紀

  ステータス更新

  役職変更:【姫戦士】→【魔王】

  ユニット数:現在、単独



---


 こうして、かつて進藤志紀だった者は、魔王になった。

 たった、ひとりで。



---


  【ゲーム再開準備】

  世界リセット:部分的

  時間経過:継続

  記憶:保持

  肉体:再構成


  【魔王仕様適用】

  生命力(寿命):無制限

  軍勢操作:解放

  共感機能:制限


  【名称更新】

  進藤志紀 → 魔王シキ=ヴァンキッシュ


  【警告】

  このジョブは変更できません

  離脱条件:不明


  【告知】

  クリアおめでとうございます。

  エンドコンテンツが解放され、

  あなたは魔王になりました。

  魔王視点で次の周回をお楽しみいただけます。


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