序章
【導入】
異世界転生者・真田明子さん(転生当時12歳)の父、真田幸雄さん(52)が取材に応じた。
「最初のうちは、できることは一通りやりました。転生に関するセミナーにも参加しましたし、転生が起きたとされる現場にも足を運びました。転生を目撃した方々からも、何度も話を聞きました」
そう語る幸雄さんは、やがて視線を落とし、静かに続けた。
「ですが、次第に分かってくるんです。自分の子どもにだけ奇跡が起こる、そんなことはないんだと」
異世界転生が社会問題化して数世紀。遺族への偏見の目は今なお、あるという。
「昔は、遺族が転生者を殺した、この世界から追い出した側だとして、殺人犯扱いされることも珍しくありませんでした。その意味では、私はまだ恵まれている方なのかもしれません」
一方で、精神的な負担は大きかったと語る。
「それでも、何かに縋らずにはいられませんでした。酒や薬にも手を出しましたし、“研究資金”や“調査資金”の名目で、怪しいところに金を払ったことも一度や二度ではありません。これは“町内会”の支援に救われました。今となっては、どれほど騙されたのか、数える気にもなりません」
幸雄さんは「異世界転生がなければ」と考えない日はないと語る。
目元には深い隈が残り、白髪の目立つ頭髪と、皺の多いワイシャツからは、長年にわたる心身の疲労がうかがえる。
「妻は、途中からカルトにのめり込み、そのまま家を離れました。娘に帰ってきてほしいと願い続けることにも、正直、疲れてしまいました」
最後に、幸雄さんは声を絞るように、こう語った。
「ただ一言でいい。“元気にしているよ”――それだけでいいんです。その言葉を、聞きたいだけなんです」
───読切新聞・コラムより抜粋




