表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/26

09.ライバル

「2番か⋯⋯正しく、井の中の蛙だな」


 俺は、自室で一人ごちた。今日、王立学園の入学試験の結果が返ってきたばかりだ。やっぱり、上には上がいる。


(王太子も同時期に入学すると聞いてるし、1番はきっとあいつか⋯⋯)


「きゃーっ!  合格よ、おめでとう!」


 廊下を駆けていく声が響いた。2番目の妹、ディアンナだ。案の定、俺の部屋まで丸聞こえだ。あいつ、またドア閉めてないな。


(ほんとガサツだな⋯⋯まあ、そういうところが前世の妹達を思い出させて、ちょっと親しみ湧くけど)


「あ、ありがとうございます⋯⋯」


 ミリーの小さな声が聞こえた。どうやら合格証書を受け取ったようだ。


「満点よ!  あなた、とっても優秀なのね?」


「ぶふぉっ⋯⋯!」


 俺は、飲みかけていたお茶を盛大に噴き出しかけた。


(待て、試験まであと1週間しかなかったよな!?)


 どれだけ家庭教師が優秀でも、1週間で満点は普通じゃない。実際、今回教えた彼でさえ、かつての最高得点保持者だったが、満点ではなかったはずだ。


(まさか⋯⋯あの家庭教師が、そこまでの実力者だったのか?)


 彼は基本的に他人との接触を嫌い、今まで指導依頼を断り続けていた変わり者だ。

 今回は、急遽受験が決まり、他に指導者が見つからず、母さんが頭を下げてやっと引き受けてもらったと聞いた。


(たった1週間で満点って⋯⋯チートかよ?)


 ちなみに、試験の内容は決して簡単じゃなかった。


「問1:貴族と平民に、身分以外の差はあるか? 『ある』『ない』から選び、理由を述べよ」


 俺は『ある』を選んだ。神官を目指すなら『ない』と答えるべきなのかもしれない。


(でも、現実には人は差をつけたがる。

 どの国に生まれたか、親は誰か、過去に何があったか⋯⋯そんなことが常に争いの種になる。)


 俺の家庭教師は、「どちらを選んでもいいが、理由に矛盾がないこと。素早い判断が鍵だ」と教えてくれた。この問題は、いわば『初動の思考力』を見るものだったらしい。


(そして高得点を取るには、「自分ならどう関わるか」を加えること。未来への視点を問うってやつだな)


 偶数番号の問題はすべて、「君の答えは間違っていると誰かに指摘された。

 答えを変えるか? 変えないか? その理由を述べよ」という形式だった。単純に正誤を見るのではなく、思考の柔軟性や自省の力が試されていた。


(いや、小学生にやらせる試験か、これ⋯⋯)


 俺はそっと廊下に出て、ミリーの様子を見に行った。


「⋯⋯満点だったんだってな?」


 ミリーは、少し驚いたように顔を上げた。


「はい⋯⋯」


 蚊の鳴くような声で答える彼女に、思わず眉がひそむ。


「どうやったんだ? こんな短期間で、しかも孤児院出の君が⋯⋯」


「あの、頭がいいわけではないんです。ただ、わからない問題は、そのまま『わからない』と書きました」


「⋯⋯は?」


「たとえば、『指摘されたら答えを変えるか』って問題がありましたよね?」


「ああ、あったな。俺は『変えない』と答えた。その理由を一生懸命書いたよ」


「私は、『話を聞いてから決める』って書きました。変えるかどうかは、その時の状況で決まると思ったから」


「なぜ、そんな答えに?」


「試験の朝、先生に言われたんです。「わからないことは恥じゃない。素直に自分の考えを書くのが一番だ」って」


「いや、悪く取らないでくれ。驚いてるだけだ」


(俺は、どうやって正当性を証明するかばかり考えてた⋯⋯それが敗因か?)


「⋯⋯そうか。君は素直なんだな」

「いえ、単に諦めたんです。

 ――私のような者が、時間をかけるより、賢い人に聞いた事を信じようって」


 ミリーは、少し顔を赤らめた。


(俺は、完璧な答えを出そうとして、自分の中だけで問題を解決しようとしていた。

 俺は⋯⋯器が小さいってことか)


「完敗だよ。これから、ライバルとしてよろしく頼む」


 俺が手を差し出すと、ミリーはおずおずと、それでもしっかりと握り返してきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ