表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/26

01.転生

【注意事項】

本作には冒頭、津波に関する描写が含まれています。実際の防災や行動の参考にはなりませんのでご注意ください。また、残酷な描写ではありませんが、心理描写が強く、恐怖やパニックを伴う可能性があります。そうした描写に弱い方は、無理に読まないことをおすすめします。(2話目からお読みいただけると幸いです)

「津波が来るぞ〜!」

 

 同僚の大声を聞いた俺は、すぐに机の下から這い出て、気づいたら放送室にいた。


「津波が来ます! 津波が来ます! すぐに高台へ避難してください」

 

 防災無線のスイッチをオンにして、大音量で叫ぶ。


「訓練ではありません! 地震の影響です。テンデンコ、テンデンコ! すぐに避難を! これは訓練ではありません⋯⋯」

 

(何分叫んだんだろう? 役所の同僚はもうみんな避難したかな?)


「お前も逃げるんだ!」

 

 そう言って、放送室に入ってきたのは、隣の席の早じいこと、早川さんだった。


「何言ってんすか? 早じいも逃げてください」

「バカ、お前のがこの先の人生長いんだぞ、とにかく逃げろ! 放送なら俺が代わりにやってやる!」

 

 普段温和な早じいが、怒鳴る。


「マジで言ってんの? クソじじい。孫が生まれたばっかりだろ? 俺、独り身なんだからさ⋯⋯」

 

(逃げたい気持ちもあるけど、この放送で、できる限りの命が助かるといい。それに俺の家族も助かって欲しい)


「ヤベッ、早じい、拡声器持って、屋上へ行くぞ!」

 

 早じいと話してる間に、津波はもう窓のすぐ下まで到達していた。慌てて防災無線を拡声器に持ち替えて屋上に走る。


「キーンッ!」

 

 拡声器のスイッチを入れて叫ぼうとすると、嫌な音が響いた。一度、スイッチを切って入れなおす。すると、足元が揺れた。


「うっ!」

 

(建物が崩れる⋯⋯)


 そう思った時には、俺はもう津波に飲まれていた。


「助けて⋯⋯たすけ⋯⋯」

 

 少年の弱々しい声で目が覚める。


(あれ? 助かったのか?)


 真っ白な布団の上で、俺は辺りを見回した。

 

「誰か? 誰かいないのか?」

 

 頭が割れるみたいに痛いけど、何とか助かったようだ。何人かの足音が近づいて来る。


「ヒロ、良かった〜」

 

 そう言って、近づいてきた女が、俺を抱きしめた。


(あれ? 誰だ? 俺のこと、ヒロって呼んだけど、俺の街にはこんな金髪美人いなかったよな? それに、この匂い⋯⋯初めて嗅ぐ匂いだ。香水か? そもそも、こんなに強く抱きしめられた記憶がない)


「ヒーロム、目が覚めたんだな? どこか痛い所はないか?」

 

 続いて、ヒゲのダンディーなおっさんが、声をかけてきた。


(ん? ヒーロム? 俺、大夢ヒロムだけど? それに、この仰々しい喋り方はなんだ? 時代劇か?)


「もう、1人で川に入ってはいけないって言ったじゃない! 何か言うことないの?」


「ご、ごめん⋯⋯」

 

 女の圧力に負けて、仕方なしに謝る。


(いや待て。俺、津波に流されて死んだんじゃないのか? 早じい、早じいはどうなったんだよ⋯⋯そもそも、ここはどこだ? 病院か? でも、こんな豪華な病院、見たことないぞ)


「ぐぅ〜」

 

 大混乱の頭の中を無視して、腹の虫が鳴った。


(空腹は、万国共通か)


「まあ、お腹が空いたのね? すぐ持ってこさせるわ」

 

 そう言って、女が部屋を出た。


「さ、どうぞ!」

 

 満面の笑みで出された食事は、すごく少ない。


「少なっ!!」

 

 思わず口に出たけど、災害時じゃ、パン一切れとスープでも仕方ないよな。


(いやいや、待て。冷静になれ。この食事、質素で全然美味そうに見えない)


「何言ってるの? 5歳児には充分な量でしょ?」


「う、ぶふっ」

 

 思わずむせた。

 

(5歳児、何言ってんだよこの女? えっ? 5歳、まさか俺、転生したのか?)


 よく見ると、俺の手は思っていたより小さくて、試しに引っこ抜いた髪の毛は、目の前の女と同じ金髪だった。


「母さん、で合ってます?」

「ヒロ、何言ってるの? 私が母親じゃなかったら、何なのよ⋯⋯まさか、寝ぼけてるの?」


(だよな? 目の前の息子の中身が、まさか別人だなんて思わないよな)


「申し訳ありません、もう少し寝てもいいでしょうか?」

 

 違和感を与えないように、出来るだけ子供っぽい口調にしたつもりだったけど、微妙な空気が流れた。後から落ち着いて考えれば、俺の口調が全然子供っぽく無くて、おかしかったってわかるんだけど、頭の中が大混乱で、それどころじゃなかった。


(この身体の持ち主は死んだのか? こいつの記憶が戻ることはあるんだろうか? この状況、正直に話すべきか? そもそも信じてもらえるのか? いや、無理だ)


 どう考えても無理がある。それなら、このまま黙って、彼らの子供として生きていくしかない。それが、一番丸く収まる方法だ。


(ダメだ、悩むな! 悩んでても仕方ない! そういえば、俺が5歳の時って何してたっけ? 公園の滑り台が好きで、それしか記憶にない? そうか⋯⋯、ってことは5歳までの記憶が無くても何とかなるのか?)

注:テンデンコとは、防災用語で、「自分の命は自分で守れ!」という意味です。


「あれ? 転生したら、おじさんでした」の登場人物であるヒーロムの恋やより深いエピソード、大神官になった後日譚を描きます。全部で35 話前後になる予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ