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翌朝、窓から差し込む光で目を覚ます。
「ん〜!」
テラは背伸びをして、ベッドから下りた。
(フェムトがソファから運んでくれたんだ。パジャマにも着替えさせてもらってる......優秀な狼ちゃんだね。)
パジャマからワンピースに着替える。
テラはドレッサーの前で、暗めの赤い髪をブラシで梳いてポニーテールにした。
深みのある緑の目は、猫の目のようにくりっとしている。
今日は畑仕事をする予定だ。
食品貯蔵庫から卵とフルーツを取り出し、ゆで卵を作って干した魚を焼き、パンと一緒に食べてから畑に向かった。
畑から、野菜を収穫をして籠に詰めて玄関に置いて置く。
もともと前に住んでいた老夫婦が、畑をしていたのをそのまま引き継いだ。
(昨日、お風呂に入ってないしこのまま入っていこうかな......)
テラは家の近くに風呂を作っている。
たまたま自然湧出の温泉を見つけて、王宮の技術者たちから苦情を言われながら、人手と知恵を借り風呂らしく石を組んで囲いを作ってもらった。
王宮では川の水を濾過し貯水タンクに水を溜めて、パイプで別の槽につないでから温めて王宮の浴槽に送ったり、冷まして飲み水にしたりしている。
(うちのお風呂、源泉掛け流しなんて王宮の風呂よりいいでしょうね。)
テラは温泉に入ろうと、ワンピースを脱ぐ。
誰もいないので自由にできる。
大木の後ろ側に温泉があるので、ちょうど目隠しにもなって助かっている。
ぴちゃん...と水の音が聞こえる。
テラは警戒した。
(雫が落ちたような音?)
「はぁ......」
男の声が聞こえた。
(ここに、この私の温泉に勝手に入っている人が......)
テラは脱いだワンピースを素早く身に着けた。
運がいいことに大木のおかげで、相手には気付かれていないようだった。
(怖い......一旦帰ってフェムトと一緒に来よう。)
テラは物音を立てないよう静かに後ずさりして、玄関に置いていた籠を持って息を殺して家の中に入った。
鍵をしっかりかけて、籠を玄関のたたきに置く。
「フェムトっ...」
小さい声で呼ぶ。
いつもすぐに来てくれるのに返事がない。
(2階にいるのかも...)
階段を上がって、フェムトがいつも隠っている部屋に向かって小声で声をかける。
「フェムトっ」
ドアが開く。
フェムトが部屋から出てきた。
『なんだ、私は忙しいのだが...』
テラはフェムトにしがみついた。
『く...苦し......』
「フェムト、私の温泉に誰かいたんだよ!どうする?」
『どうするって......さ、猿とかじゃ?』
「フェムトの気配を感じて獣は寄ってこないって言ったよね......」
適当なフェムトをジロリと睨む。
『言ったな......』
「どうでもいいから、一緒に付いてきて。」
『もう、おらんだろう。』
テラは、フェムトを連れて温泉まで行った。
大木をそろりと回り込んでも、誰もいなかった。
『ほら、誰もおらんようだぞ。私は家に戻るぞ。』
「駄目!さっきいたんだよ、戻って来たら怖いからここに居て。」
『テラ、お前何歳だ。入浴ぐらい一人でしなさい。』
テラがやったもん勝ちとワンピースを脱ぐ。
『お前......』
「いいじゃん、フェムトは狼でしょ?人間は交尾対象外なんだし。」
『はあ...早く上がってくれよ。』
フェムトがくるりと回って、テラに背中を向けて伏せた。
テラが上がるまで待っていてくれるようだ。
テラはいそいそと温泉に浸かった。
(フェムトが来てから、ここの生活も快適になったよねぇ。)
テラはフェムトが居てくれるので、安心してのんきなことを考えていた。