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次の日、国王からの召集があり侍女のネルフの案内で応接室へ向かった。


フェムトとジークが国王に会釈をした。

テラはハイスピードのカーテシーを披露したことでよろけずにすんだが、隣のエルデのカーテシーとはタイムラグができてしまった。


(よろけないことが一番。)


レーツェル国王が苦笑いした。


「まあ、掛けてくれ。」


4人が掛けたのを見計らってレーツェル国王が話し始める。


フェムトはテラの隣で、堂々とテラの手を絡めて握っている。

近すぎる距離と絡めた指にテラは躊躇ったが、フェムトが全く意に介さないので、諦めてそのままでいた。


ジークとエルデは、フェムトの常軌を逸した態度を見て、国王の顔色を盗み見る。


国王は見て見ぬ振りをして話し始めた。


「アデリナは回復したようだ。テラさん本当にありがとう。稀有な得難い能力だ。」


フェムトの目が鋭くなった。


「レーツェル国王、テラの能力は彼女の命を削ります。他言無用でお願いします。」

フェムトが何か言われるのを警戒して、先にテラの能力を多用はしないと伝える。



国王が目を見張る。


「やはり、白の魔女の生まれ変わりだったか…王家で保護しなくて良いのか?」



「ネフライト国が彼女を拘束しようと圧力をかけた場合には、お出でを願うかもしれませんが...ネフライトにしろ、ネーツェルにしろ彼女を束縛することを許すわけにはいかない。」


フェムトが不敵な笑みを浮かべる。

「公にしてきませんでしたが、わたしは雷の魔女の能力をそのまま受け継いでいます。彼女に仇なす者にはこの能力を遺憾なく発揮します。」


レーツェル国王が苦笑いをする。


「これは、アデリナには勝ち目はないな。保護という名目でテラさんをいただこうと思っていたが…」


フェムトの目から笑みが消えた。

「私たちは、夫婦ですよ。妻は私が守ります。」

「私には、その力もあります。」


ジークとエルデがフェムトの口の利き方に背筋が凍る。

二人の目が可哀想なくらい泳ぐ。


テラは、注意をしたほうがいいか迷っていた。


(フェムトがこんな態度を取るのは、何か理由があると思うんだよね...口出さないほうがいいよね。)


そんな周りの心配を他所に、フェムトが国王に要求を突きつける。


「レーツェル国王陛下、ネーベルの次期当主を私にすると王命を出してもらえますか?」

ジークが目を見開いて、フェムトと国王をあたふたして見る。


「叔父が禁書庫に立ち入り、中途半端な知識を得て雷の魔女に嫌悪感を持ち、私を排除しようと躍起になっている。」

「もとはそちらの管理不行き届きが原因です。叔父の説得がうまくいかないときは、責任をとってください。私としても権力があったほうが彼女を護りやすいので。」


「ふむ…わかった。フェムト卿はテラさんとの落ち着いた生活だけを望んでいるようだからな。それで国が乱れないなら安いものだ。」


レーツェル国王陛下の寛大さに3人は感謝した。


「ネフライト国の方にも、私から話をしておこう。」


フェムトが急に立ち上がり、丁寧に頭を下げた。


「私の望みは彼女を自由にすることです。それさえ守られるなら、この力を使うことは永久にないと約束します。」


レーツェル国王が、神経を尖らせていたフェムトが落ち着いたのを、見計らい質問した。


「王家が、なぜ魔女の記録を禁書にしていたかは、わかるかね?」


フェムトは、神妙に答えを聴く姿勢を見せた。


「白の魔女、ルネスの存在を世に知られることがないようにするためだ。」



「悲劇は繰り返されてならないと言って、当時の国王がこれを決めた。」


「テラさんが、白の魔女の生まれ変わりでフェムト卿が雷の魔女の末裔なら、二人は出会うべくして出会ったのだろう。テラさん、ルネスの分も今度は幸せに生きて欲しい。」


レーツェル国王の声は、穏やかでおおらかだった。



4人は国王に頭を下げて、応接間を出て部屋に向かう。



「昨日、禁書庫で私たちの知らない新しいことがわかったみたいね?」

エルデがフェムトに尋ねる。

「今日話すつもりだったが、急な召集だったからな。」


「昨日、テラと白の魔女の独語(どくご)を聞いた。雷の魔女と同じで、やはり禁書に最後の時の独語が記録されていた。テラが紋章に触れたらそれが開放され、私にも聞こえた。帰ってから2人には話す。」


「とりあえず、フェムトも領主に戻れるし良かったわね。」

エルデがフェムトを見て微笑む。


テラは不安な顔をした。

「あの、エルデさんはフェムトと婚姻するの?」


エルデが取り越し苦労の心配をしているテラを見て笑った。

「ふふふ、テラさんと出会った時はそのつもりでいたけど…今はそんな気ないわ。」


フェムトがテラを抱きしめた。

「私が愛していると言ったのを忘れたのか?あの日の再現をするか。」

「ここで??」

テラが真っ赤になったのを見てジークとエルデが苦笑した。

「私、ジークにしつこいぐらい口説かれてジークに落ちたの。だから安心してね、テラさん。」


「それに、テラさんに会ってからのフェムトは元婚約者の私ですら敵扱いだったんだから。」


「私は初対面でテラさんに助けてもらったでしょう。じつは、テラさんを殺めてフェムトを連れて帰ろうとしたから、フェムトに殺されかけたのよ。」


「じゃあ、他のオスの匂いを付けて、フェムトに嫉妬されて噛まれたという話は……」

「嘘ね。」

エルデが妖艶に笑った。


「エルデ、その話詳しく聞きたいな。そろそろ部屋に戻ろうか。」

ジークがエルデの腰を抱いた。

「あら、困ったわ。今夜眠れるかしら。」

「テラさん、フィーまた明日ね。」

エルデとジークが部屋に向かう。


ジークが振り返って、フェムトに確認した。

「兄さん、今日国王にも挨拶したし、もうフリーデンに戻ろうか。父上の様子も、もう一度確認したいし。」


「そうだな、後ほど侍女が来るだろうから、伝えておこう。」



ジークとエルデがじゃれ合いながら部屋に戻っていく。




テラとフェムトがソファで寛いでいると、扉をノックする音がする。

返事をすると、侍女のネルフがワゴンを押して入室してきた。

「お飲み物をお持ちしました。もうすぐお食事の用意が整います。」


フェムトがソファから立ち上がって、ネルフのそばに行く。

「ちょうどよかった、明日我々は領地に戻ろうと思う。馬車などの手配を頼む。」


「そうですか、王妃陛下が晩餐会を開いてテラさまへの感謝と、第二王子の回復のお祝いをしようと計画しておられたようですが...」


「ただ、国王陛下からはフェムトさまたちの意に沿うようにと仰せ付かっておりますので、明日の朝がよろしければ、明日出立できるよう万事整えておきます。」


テラが心配して、フェムトのそばまで行って聞いた。

「王妃陛下の招待を受けなくて大丈夫?」


フェムトが、テラを横目でちらと見て、腰を抱く。

「ネルフから昨日聞いた話しでは、アデリナ王子は君にご執心のようだ。」


「そうです、二言目にはテラさまと会いたいと仰せですね。」

ネルフが頷いた。


「王族は同じ種族と婚姻することが決まっている、側室は別だがな。」

「種族が違って婚姻できない君を欲しい幼い彼は、どうするかな?」

「体が弱かったのもあり、精神が未熟な彼が初恋を諦められるだろうかね。あれだけ言ったから国王がうまく言い含めると思うが、早々に立ち去ったほうが懸命だろう。」


「テラさま、フェムト卿のおっしゃる通りですよ。では、私は明日の準備のために下がらせていただきます。」

ネルフが一礼して部屋を去った。














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