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部屋に戻ったテラはソファに座って、しばらくぼーっとしていた。
フェムトがそんなテラを抱えて、膝に座らせる。
「異世界は、魔力のない世界だったのか?」
「うん…そうだね、全く。そっか……じゃあ、白の魔女の願いは叶ったんだ。」
「フェムトが雷の魔女の血を濃く引く獣人で、私が白の魔女の生まれ変わりって...なんだか見えない力で引き合わされたみたいだね。」
フェムトはテラを膝から下ろした。
テラの目の前で膝立ちをし、頬を優しく両手で挟み視線を合わせる。
「君は、君だ。白の魔女の記憶は無いんだろう?」
「覚えているのは…異世界から来たということぐらいで、異世界の自分も白の魔女の記憶は全くなかった。」
「今の私は、前世の自分のことももう覚えていない。どういう世界だったかは覚えているけど…自分がどういう人生を送ったとかは、記憶にないんだ。」
「テラ、私と君が出会ったあの日から…君は何一つとして変わってない。私を助けてくれた君と、今ここにいる君はずっと同じ君だ。」
「そうだね…そうだった、私は私なんだ。」
(白の魔女に同情して、気持ちに同調して、ずっと引きずられてた。)
「テラ、こちらを向いて。私を見て。」
「フェムト……」
テラは、目線の高さが近くなったフェムトを見つめる。
「テラが、私を助けてくれたあの日から……私にはずっとテラが特別だ。愛している。」
「フェムト…」
テラはフェムトに思いを告げられて、嬉しくて胸がじわっと温かくなるのに、切ない気持ちも入り乱れて溢れ出しそうになる。
(嬉し過ぎても、心が痛くて壊れそうに感じる...)
「私は、狼のフェムトとならずっと一緒にいたいって思ってたし、フェムトが獣人ってわかってからはいつもドキドキしたりして__私も、フェムトがす…好き。」
「ああ…ようやく君の口から、私がずっと欲しかった言葉をもらえた。悔しいが、叔父のグレンツェンに感謝だ。領地を追われて怪我をしたおかげで君に会えた。」
フェムトの口から領地と言う言葉が出て、テラは不安になった。
「フェムトは領地に戻って領主になるんだよね?」
「私、獣人じゃないよ。認めてもらえるかな?」
「魔力持ちと婚姻している領主がいる、前例があるんだ。反対はさせない。」
フェムトの手がテラの耳を何度も撫で、テラを見つめる目に欲が混じる。
「甘噛していい?」
甘えるように乞う。
フェムトの熱に当てられて、テラは息が止まりそうになった。
「え……と、いいよ?痛くしないでね。」
テラは、フェムトを上目遣いで見返す。
フェムトがテラの鼻筋に唇を付け、軽くリップ音を立てる。そのまま頬を伝い、耳の方まで唇を這わせる。
耳にリップ音が聞こえて、テラがくすぐったくて声を漏らす。
「ん……」
フェムトが目を見張って、テラを強く抱きしめる。
そのままテラの後頭部に手を添え、自分の胸元に押し当てるようにしてテラの顔を隠した。
「フェムト、大丈夫?」
テラがフェムトの顔を覗き込もうと身じろぎをする。
「もう噛まなくていいの?」
フェムトを見上げるテラの目が潤んでいる。
フェムトが息を呑んだ。
テラの肩を掴んで、テラの目を食い入るように見つめて、唇に吸い付いた。
テラの上唇と下唇が交互にリップ音を立てて何度も甘噛される。
(頭がクラクラする…)
テラはぼーっとされるがままになっていた。
フェムトが、我に返り唇を離してテラの火照った顔を見た。
「はあ…テラが止めてくれ。」
フェムトがテラを解放して、バルコニーに出た。
「フェムト…?」
テラがフェムトの背中を目で追う。
「少し風に当たりたいから、テラはそこにいて。」
扉をノックする音がして、テラが返事をすると侍女のネルフがディナーの用意が整ったと告げた。




