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寝る支度を終えて、4人はテラとフェムトの部屋に集まった。
テラはナイトウエアの上にガウンを羽織っている。
ネルフが昼間のアデリナの様子をフェムトに伝えてから、ガードという名のスキンシップが増えたとテラは思った。
今もソファに並んで座っているが、テラと指を絡めて手をつないでいる。
ジークとエルデが目のやり場に困るという顔をして、フェムトを見た。
「兄さん、絶対逃がすつもりないよね。」
ジークが、エルデにだけ聞こえるように耳打ちした。
エルデが苦笑いした。
「テラさん、アデリナ王子の方はうまくいったのね。」
エルデがテラに確認をする。
「もう大丈夫だと思う、手応えがあった。」
エルデがテラの答えを聞いて、フェムトの方を向いた。
「こちらの方も、いろいろわかったわ。」
エルデが言いにくそうに視線を外した。
ジークがテラに愚痴を零した。
「グレンツェ叔父さんが、兄さんを排除しようとしている理由は昨日わかったけど...強迫観念なんだろうね。」
ジークが、今日禁書庫で調べたことを報告する。
「今日も、少し調べたけど雷の魔女はある時点を境に独裁者のような振る舞いを始めたらしいんだよ。」
「獣人が今のネフライト国ヘ逃げ出したのは雷の魔女の性格が豹変してからみたい。その時の雷の魔女は荒れ狂う海のように苛烈だったと記録されていたよ。」
フェムトの声が沈んでいる。
「ただ、狼の獣人は国外逃亡したものはいないようなんだが...逃げ出せないような状況だったのか。」
ジークが続けた。
「狼の獣人はとりわけ美しいものが多いから、夜伽用に投獄でもされてたんじゃない?」
「魔女に奉仕した結果がぼくらってことか。」
ジークが、卑屈な言い方をした。
フェムトの顔が、苦しげに歪む。
エルデがジークを腕で突く。
ジークが傷ついた顔のフェムトを見て、急いで弁解する。
「魔女と兄さんは別人だよ!一緒に考えるなんてグランツェ叔父さんだけだよ、兄さんが辛そうにする必要なんてない。」
フェムトが、テラの手を無意識に握りしめていた。
テラはフェムトの様子を見つめていた。
そして今までの話しを聞いて、推測したことを言った。
「フェムト、雷の魔女は狼の獣人を愛したんだと思うよ、夜伽だったかどうかなんて本人たちにしかわからないよ。」
テラの言葉にフェムトが怪訝な顔をした。
「なんでそう思うんだ?現に史実でわがままで傲慢でひどい魔女で、我々に夜伽を無理強いしていたと書いてあるのにか。」
そう言って、テラを見たフェムトの目が救いを欲しがっていた。
魔力の性質が同じだということで、思った以上に親近感を持ってしまったのだろうとリラは思った。
(ここで大事なのは、慰めや気休めじゃない。事実だと思ってもらえる説得力。私の考えで間違えないと思うんだけど…子ども生んだことがあるものにしかわからないことだけど…魔女も一緒だと思っていいよね。)
「雷の魔女が、愛してもいない人の子を命がけで産むわけないよ。当時のお産は今より命がけだと思うよ。」
「史実が嘘を書いているとは思わないけど、このことに関しては私の考えのほうが真実じゃないかな?」
(テラの母親も大変なお産だったと聞いた、二人目は安産だったらしいけど。)
「そういえば、シュネーさまもフェムトを産む時、危なかったって聞いたわ。」
エルデが加勢した。
「雷の魔女を多面的視野で見ることも大事じゃないかな?ある時を境に変わったなら、何か理由があるのかも...」
フェムトがテラをを見た。
「そうね、ジークと私は雷の魔女についてもう少し調べてみるわ、グレンツェさまの偏見を払拭できるものがあれば、フェムトの立場も盤石になるでしょう。」
「それより……」
エルデがフェムトに水を向けた。
「ああ…」
「どうしたの?」
フェムトとエルデの煮え切らない態度に、首をかしげる。
フェムトが一呼吸置いて、口を開いた。
「白の魔女について、気になる記述が見つかった。」
「魔女の寿命は、悠久と言われているほど長いようだ。5、6百年くら生きる。魔女は魔力が枯渇するまで生きるんだが白の魔女は隣国に捕らえられて牢獄で消滅しているようだ。」
「白の魔女の能力は、精気の譲渡だ。」
「能力を使う時、身のうちから命が削られ発光するらしい。白の魔女自体に強い回復力がありそれを自身の生命力に乗せて譲渡しているようなんだ。」
(身のうちから発光って...私と同じ?)
テラが息を呑んだ。
(自分の命と引き換えに力を使っていたの??)
立ち上がり、フェムトの手を払い除け部屋から飛び出した。
(白の魔女は牢獄で消滅しているって言ってた...消滅って何??)
(白の魔女の意識は私の中にないけど、何かのきっかけで私が消滅して意識が乗っ取られたりするのかな。私がテラになったように。)
(グレンツェさんはこういう事を危惧しているのかもしれない。)
(...ただフェムトは子孫だからその心配はないよね、急にテラにの意識を乗取った私はどうなるのかわからない。)
気付いたら、敷地内の見晴らしのいい丘に立っていた。




