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かなりの長い距離の、狭くて急勾配の続くけもの道を駆けて行くと、ようやく道幅が広がり見晴らしがよくなってきた。
道に沿って浅瀬の川が続く。
一帯は平地になっていて、木陰に腰掛けられるくらいの大きめの石などもある。
フェムトがお尻を地面に着けて座り、テラを背中から降ろした。
『テラ、リュックの中からローブを取り出して、頭に被せてくれ。』
テラが言われたとおりに、リュックからローブを取り出して、フェムトの頭に上からかける。
フェムトが人の姿に戻った。
(おぉ!これなら全裸が隠せる。)
テラは一部始終を見て、感動した。
フェムトがテラを抱きかかえてて、ちょうど座れるサイズの石に腰掛ける。
「体はどうだ、きつくなかったか?」
フェムトがテラの顔を覗き込んで、表情などを確認する。
「フェムト、ここまでしなくても...自分で座れるから。」
テラはここ最近、接触の多いフェムトに困惑していた。
「嫌なのか?」
急にフェムトの薄いグレーの瞳が揺らぎ、傷ついたように見える。
(フェムト、獣人って明かしてから距離感が近い気がしたけど...フェムトにとっては狼の時と同じ距離感で、私の気持ちが変わったから変に意識しちゃってそう感じるのかな...)
(でも、これが常態化したらフェムトが離れていった時、平静を保っていられる自信がない...)
「嫌とかじゃないよ、ただフェムトにもちゃんと休んで欲しいから...」
「なら、良かった。ここにいてもらったほうが安心して休める。森は獣だって出るしな。」
フェムトは、テラを膝に抱えたままで下ろす気配は全くなかった。
「あれ...でもフェムトの気配で獣は寄ってこないんだよね。」
「...............」
フェムトはそれには答えずに、リュックから竹で編んだ籠とお手拭きを取り出す。
籠の中には、彩りの良い具材のサンドイッチと一口大に切ったフルーツが詰められていた。
サンドイッチを一つ取り出して、テラに手渡す。
「ありがとう、美味しそう!フェムトの手作り?」
テラがサンドイッチを受け取って、一口食べる。
ただ背中に乗っているだけでも、体幹を使うので疲労もあるし、おなかも空く。
「ああ今朝、厨房に忍び込んで作っておいた。テラの好きな卵を中に挟んである。」
フェムトもサンドイッチを口に入れた。
「美味しい!もっと早く獣人だって知ってたら良かった。狼だと思ってたから、あんまり一緒に食事しなかったもんね。」
「これからは、共に食事をとろう。」
フェムトがテラに微笑んで、足元に置いてあるリュックから水筒を取り出した。
栓を取ってテラに渡す。
「ありがとう。」
中の水はまだ冷えていた。テラは、少し飲んでからフェムトに水筒を返す。
フェムトは、受け取った水筒に口を付けた。
それを目で追っていたテラは、つい動揺して口から出る。
「間接キスだ...」
フェムトがテラの言葉に反応して、テラを見る。
テラを、からかうような悪戯な流し目をした。
「フフ...テラ、君が望むなら間接じゃなくて、直接飲ませようか。」
テラは恥ずかしさで顔が赤くなる。
頬が瞬時に熱くなったのが自分で感じられた。
頭が混乱して言わでものことを言う。
「そういうのは、番になる人としよう!」
わかりやすくフェムトが落ち込んだ。
(え…なんで、落ち込んでる??フェムトって私のことどう思ってるの?もしかして好き...とか。)
(そんなわけない。前に、『私にも好みがある。』的なこと言われたんだった...)
(そういえば、ジークさんが私とフェムトのことを、人間に飼われてるって言い方していたよね...もしかして、私のこと飼い主的な目で見てる!?そういうこと??)
(え…じゃあさっきのは、寂しい思いをさせたってこと?突き放したわけじゃないけど、フェムトにはそう捉えられたのかな?甘やかしたほうがいい?)
テラは悶々とした。
「フェムフェム。」
テラは未だフェムトの膝の上に座らせられていたので、後ろを振り返りフェムトの鼻を自分の鼻ですりすりした。
(確か親愛を深めるのに犬ってこうしてはず、元気になるかな...)
フェムトが目を見開いた。
テラは、フェムトの喉仏が大きく上下するのをなんとなく見上げていた。
次の瞬間フェムトが、テラの鼻を甘噛みしてきた。
「ん...」
テラの声がこもって漏れる。
(自分から仕掛けたけど...されると恥ずかし...)
フェムトが、テラの耳元を甘噛みし始める。
(うぅ...これはフェムトもわたしに親愛を伝えているということだよね。)
テラは、フェムトがテラの耳元で唇を開いた時に出る音を、意識して拾ってしまい聴覚が敏感に反応してしまう。
(でも...もう限界〜!)
「まっ待って、フェムフェムの気持ちは嬉しいけど、人のときにやっちゃだめだった。恥ずかしい〜!」
フェムトは、求愛行動を嫌がられてはいないことに機嫌を直した。
テラはフェムトの口角が上がっているのを見て、安心した。
(やっぱり、さっきの考えで合っているみたい。)
「さて、そろそろ出発するか。」
狼の姿に獣化する。
テラはリュックを背負い、フェムトの首に腕を回して掴まった。
『次は北の展望台まで、そのまま休まず行く予定だが、途中でなにかあれば言ってくれ。』
道はだんだんと険しい上り坂になっていく。
道幅が狭くなり、大きな岩の間を避けながら登っていく。
しばらく進むと崖の上に展望台が見えてきた。




