表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/39

24

かなりの長い距離の、狭くて急勾配の続くけもの道を駆けて行くと、ようやく道幅が広がり見晴らしがよくなってきた。


道に沿って浅瀬の川が続く。


一帯は平地になっていて、木陰に腰掛けられるくらいの大きめの石などもある。


フェムトがお尻を地面に着けて座り、テラを背中から降ろした。

『テラ、リュックの中からローブを取り出して、頭に(かぶ)せてくれ。』

テラが言われたとおりに、リュックからローブを取り出して、フェムトの頭に上からかける。


フェムトが人の姿に戻った。


(おぉ!これなら全裸が隠せる。)


テラは一部始終を見て、感動した。


フェムトがテラを抱きかかえてて、ちょうど座れるサイズの石に腰掛ける。


「体はどうだ、きつくなかったか?」

フェムトがテラの顔を覗き込んで、表情などを確認する。


「フェムト、ここまでしなくても...自分で座れるから。」

テラはここ最近、接触の多いフェムトに困惑していた。


「嫌なのか?」

急にフェムトの薄いグレーの瞳が揺らぎ、傷ついたように見える。



(フェムト、獣人って明かしてから距離感が近い気がしたけど...フェムトにとっては狼の時と同じ距離感で、私の気持ちが変わったから変に意識しちゃってそう感じるのかな...)


(でも、これが常態化したらフェムトが離れていった時、平静を保っていられる自信がない...)


「嫌とかじゃないよ、ただフェムトにもちゃんと休んで欲しいから...」


「なら、良かった。ここにいてもらったほうが安心して休める。森は獣だって出るしな。」

フェムトは、テラを膝に抱えたままで下ろす気配は全くなかった。


「あれ...でもフェムトの気配で獣は寄ってこないんだよね。」

「...............」


フェムトはそれには答えずに、リュックから竹で編んだ籠とお手拭きを取り出す。


籠の中には、彩りの良い具材のサンドイッチと一口大に切ったフルーツが詰められていた。

サンドイッチを一つ取り出して、テラに手渡す。


「ありがとう、美味しそう!フェムトの手作り?」

テラがサンドイッチを受け取って、一口食べる。


ただ背中に乗っているだけでも、体幹を使うので疲労もあるし、おなかも空く。


「ああ今朝、厨房に忍び込んで作っておいた。テラの好きな卵を中に挟んである。」

フェムトもサンドイッチを口に入れた。


「美味しい!もっと早く獣人だって知ってたら良かった。狼だと思ってたから、あんまり一緒に食事しなかったもんね。」

「これからは、共に食事をとろう。」


フェムトがテラに微笑んで、足元に置いてあるリュックから水筒を取り出した。


栓を取ってテラに渡す。


「ありがとう。」

中の水はまだ冷えていた。テラは、少し飲んでからフェムトに水筒を返す。


フェムトは、受け取った水筒に口を付けた。


それを目で追っていたテラは、つい動揺して口から出る。

「間接キスだ...」



フェムトがテラの言葉に反応して、テラを見る。

テラを、からかうような悪戯(いたずら)な流し目をした。

「フフ...テラ、君が望むなら間接じゃなくて、直接飲ませようか。」


テラは恥ずかしさで顔が赤くなる。


頬が瞬時に熱くなったのが自分で感じられた。


頭が混乱して言わでものことを言う。

「そういうのは、番になる人としよう!」


わかりやすくフェムトが落ち込んだ。


(え…なんで、落ち込んでる??フェムトって私のことどう思ってるの?もしかして好き...とか。)


(そんなわけない。前に、『私にも好みがある。』的なこと言われたんだった...)


(そういえば、ジークさんが私とフェムトのことを、人間に飼われてるって言い方していたよね...もしかして、私のこと飼い主的な目で見てる!?そういうこと??)


(え…じゃあさっきのは、寂しい思いをさせたってこと?突き放したわけじゃないけど、フェムトにはそう捉えられたのかな?甘やかしたほうがいい?)

テラは悶々とした。


「フェムフェム。」

テラは未だフェムトの膝の上に座らせられていたので、後ろを振り返りフェムトの鼻を自分の鼻ですりすりした。


(確か親愛を深めるのに犬ってこうしてはず、元気になるかな...)


フェムトが目を見開いた。


テラは、フェムトの喉仏が大きく上下するのをなんとなく見上げていた。


次の瞬間フェムトが、テラの鼻を甘噛みしてきた。

「ん...」

テラの声がこもって漏れる。


(自分から仕掛けたけど...されると恥ずかし...)


フェムトが、テラの耳元を甘噛みし始める。


(うぅ...これはフェムトもわたしに親愛を伝えているということだよね。)


テラは、フェムトがテラの耳元で唇を開いた時に出る音を、意識して拾ってしまい聴覚が敏感に反応してしまう。


(でも...もう限界〜!)


「まっ待って、フェムフェムの気持ちは嬉しいけど、人のときにやっちゃだめだった。恥ずかしい〜!」


フェムトは、求愛行動を嫌がられてはいないことに機嫌を直した。


テラはフェムトの口角が上がっているのを見て、安心した。


(やっぱり、さっきの考えで合っているみたい。)



「さて、そろそろ出発するか。」

狼の姿に獣化する。

テラはリュックを背負い、フェムトの首に腕を回して掴まった。


『次は北の展望台まで、そのまま休まず行く予定だが、途中でなにかあれば言ってくれ。』



道はだんだんと険しい上り坂になっていく。

道幅が狭くなり、大きな岩の間を避けながら登っていく。


しばらく進むと崖の上に展望台が見えてきた。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ