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朝食はネルフが持ってきた。

ネルフはフェムトがいたことに驚いていたが、嬉しそうに目を細めると、そのまま何も言わずに朝食を載せたワゴンを置いて去っていった。


テラとフェムトは朝食を済ませて身支度をした。


「テラ、乗馬服も似合っているよ。」

フェムトが椅子に深く腰掛けて、テラの装いを愛でる。


「これ、昔エルデさんが着てたのを借りたの。」

テラは、暗めの赤い髪を高めに集めて、ポニーテールにする。



フェムトはすぐ脱げるようにゆったりとした紺のローブを着ていた。

「私、フェムトの背中に乗って移動するんだよね?」


「不安か?」

フェムトがテラの顔を覗き込む。


「実は昨日...ジークさんの背中に乗せられたけど、かなり酔っちゃって。」


フェムトが、不機嫌さを顕にした。

「あいつは、丁寧に走らなっかったのだろう。」

「人の姿のまま横抱きで運んでもよいが、獣化して背中に乗せた方が早く走れるし、テラも体が辛くないだろう。途中休憩を挟みながら行くから、なんとか頑張ってもらえないか。」


「わかった!休憩があればなんとかなるかも。」


テラは、怪しまれずに城門を出るために準備してあった、ふた回り大きめのお仕着せを重ね着した。


持っていくものをリュックに詰め込んでいると、ジークが戻ってきた。


「兄さん、うまくいったよ。」

ジークが、部屋に入った途端に脇目も振らずにフェムトのもとへ行く。


(ジークさん、犬っぽい...本当にフェムトが大好きなのね。)


「グランツェ叔父さん、ぼくとエルデが仲を深めるチャンスだと思ったみたいで二つ返事で承諾したよ。」


「よし、変な邪魔が入る前に出発しよう。エルデはどうした?」


「北側の丘の上で、待ち合わせたから先に向かってると思う。」


フェムトが椅子から立ち上がった。

「私は人目に付かないよう先に出る。北の丘で待ち合わせよう。」

「ジーク、テラを頼む。無事に、安全に連れてきてくれ。」

「任せて。」

ジークは頼られたのが嬉しいようで、フェムトを嬉しそうに見て大きく頷く。



「テラ、これはひとまず私が持って出よう。お仕着せには合わないからね。」


フェムトがテラの手からリュックを取り、肩にかける。


「では、二人とも後で。テラ、ジークから離れては駄目だよ。」

「フェムトも気をつけて。」

「じゃあ、兄さん後で。」

フェムトは、ドアを開けて周りを慎重に確認して先に部屋を出た。



その後すぐに、使用人に扮したテラとジークが周りを見回して誰もいないことを確認して部屋から出る。


扉の前に控えていたネルフがしんがりで、テラを挟むように廊下を歩いていく。


一見するとジークが、使用人と護衛を従えているように見える。


すれ違う使用人がジークに頭を下げる。



使用人棟の出入り口が見えてきたところで、ジークの歩く速度が少し落ちた。


テラが不思議に思い俯いていた顔を上げる。


「テラ、グランツェ叔父さんの側近が前から来てる。」

ジークが正面を向いたまま、小声でテラに伝える。


ジークの背中から少しだけ顔を覗かせると、体格のいい男がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。


「テラさん、ジークさまの背中に隠れて。」

ネルフがテラに小さな声で注意する。

「はい...」


テラは緊張で、喉がカラカラになる。


ここは使用人棟なのでわざわざグランツェの側近がくる場所ではないので、確実にジークに用があって来ていた。


グランツェの側近がジークの前で足を止めて、声をかけてきた。


素早くネルフがジークの半歩後ろに付けて、テラを自然に隠す。


「ジークさま、静養地にエルデさまと二人で行かれると伺いました。護衛無しでなにかあれば心配なので、わたくしが護衛につかせていただきたいのですが。」


「ありがとう。エルデとは獣化して駆けていくつもりだから大丈夫だ。道も急勾配が多く獣道を選んで行くから護衛は大変だと思うよ。」


側近が残念そうな顔をした。

「そうですか......そのネルフの後ろにいるものはメイドですか、お連れになるのですか?」


「彼女にはネルフと共に仕事を言いつけた。君に何もかも報告する義務がぼくにはあるとでも?」


側近が顔を青くした。


「いえ、失礼しました。使用人棟にまでおいでと聞いたもので気になったので。」


「なにかあれば、ぼくの方から声をかけさせてもらうよ。」

ジークは内心の苛立ちを悟られないように、グランツェの側近に笑顔を向けた。


グランツェの側近は、それ以上何も言うことができず、ジークに会釈をして去って行った。



使用人出入り口から3人は出る。

「ネルフ、さっきのグランツェ叔父さんの側近は付いてきているか?」

小さな声で尋ねる。

「気配が......一定の距離を空けて付いてきています。」


「ぼくが引きつけるから、テラを北の丘に連れて行ってくれ。」


ネルフがジークに会釈した。


ジークが大きな動作でネルフとテラに手を振って、獣化し北の丘と反対方向に駆け出した。

ネルフが素早く衣類を回収し木の陰に隠す。


グランツェの側近が、どっちを見張るべきか迷っているところに、ネルフがテラを抱きしめて秘めた恋人同士の振りをした。


グランツェの側近は、部下思いのジークがネルフと恋人の逢い引きの手伝いをしたと勘違いして、ジークの方を全力で追いかけていった。


ネルフが、グランツェの側近が完全に去ったのを確認してからその場にしゃがむ。

「テラさん、背負います。急いで私の背中に乗ってください。私は獣化することはできませんので。」

テラは急いでネルフに、おいかぶさった。


ネルフが、人を背負っているとは思えないスピードで駆け出した。


森の中をすごい速さで進んでいく。途中から上り坂が続く。


人がひとり通るのが精一杯の道幅で、足を踏み外したら一気に下に転がり落ちそうだ。


高い木々が鬱蒼と乱立していて木の根が地面の上に這い出している。

ネルフは変身できないのかもしれないが、獣人ゆえの身体能力の高さをテラは感じた。


上り坂が急になってきた。ネルフは速度を落とすことなく走り続ける。


目の前が急に開けて空が視界に入った。


丘の天辺(てっぺん)に着いた。


フェムトは遠目が利くので二人の姿をすぐに見つけて、駆け寄ってくる。

エルデもそれに続いた。


「テラ無事で良かった。ネルフが連れてきたということは途中でなにかあったのか?」

ネフェトが、ネルフの背中においかぶさっていたテラを抱えて下ろす。


エルデも、ジークが一緒でないことに怪訝な表情をする。


ネルフがフェムトに会釈してから答える。


「グランツェさまの側近に張られてました。ジークさまが使用人棟に出入りしているのを怪しんだようです。」


「そうか...エルデはもう少しここでジークを待つんだ。我々は先に行く。」

エルデが頷いた。


「ジークと合流したら、計画通り展望台に向かってくれ。そこでで待ち合わせよう。」


フェムトがネルフにも指示を出す。


「ネルフはエルデとここで待機して、ジークが来たら王都の宿を手配しておいてくれ。そうだな...王都から徒歩で10分圏内で探しておいてくれると助かる。」

「承知しました。」

ネルフが、頷いてからフェムトに会釈をした。


フェムトがエルデの方を見る。

「エルデ、ジークを頼む。」

エルデがジークの言葉に、一瞬傷ついたような目をしたが、すぐに気持ちを切り替える。

「...ええ、わかっているわ。」

「テラさん、お仕着せを脱ぎましょう。手伝うわ。」

テラはエルデに手伝ってもらい、お仕着せを脱いだ。脱いだお仕着せはネルフが引き取る。



フェムトはローブを脱いで獣化した。


ネルフが初めて見るフェムトの銀狼に息を呑んだ。

神秘的で美しく神々しい。


エルデが、フェムトの脱いだローブを丸めてリュックに入れてテラに手渡す。


『テラ、私の首にしっかり掴まってくれ。なるべく揺れないように行くが道が不安定だから振り落とされる可能性もある。』

テラがフェムトの背にまたがって首に腕を回す。


「フェムトが一緒だから大丈夫だと思うけど、二人とも気をつけてね。」

エルデが心配そうに見送る。



「ネルフさんありがとうございました。エルデさんもありがとうございました。」


テラが挨拶したあと、フェムトが二人に目で挨拶をする。

エルデとネルフに見送られて、出立する。


フェムトは、テラを乗せて滑るように北の丘を下っていく。

速度はあるが体幹がしっかりしているのか、ジークのときほど体が揺さぶられない。

木々の間をぶつからないように、右に左にと避けながら下っていく。
















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