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テラとエルデは二人でベッドに腰掛けた。


小さな窓から夕日が差し込む。

使用人がシーツを籠に取り込んでいるのが、窓から見える。

エルデは、辺りを見回してから念の為にカーテンを締めた。


「フェムトは領主になりたくないんですか?」


エルデが、テラの横に腰掛ける。


「そうじゃないのよ。実は、フェムトは領主になるために頑張ってたんだけど、反対してる人がいてね。......現当主の弟のグレンツェさまが大反対なさってるのよ。」


エルデが心痛な顔をした。


「反対って...なんで?」


「フェムトの魔力が顕現したのが、5歳頃だったかしら......フェムトのお父様がご病気になって静養地に行かれるまで、次期領主はフェムトだったのよ。私もフェムトの婚約者だったわ。」


テラは初めて聞くフェムトの過去の話に緊張した。


エルデは少し躊躇ってから、一気に話した。


「グレンツェさまはいつ頃か、急に魔力持ちが領主になることに、反対なさるようになってね。それで、フェムトは無意味な争いを生まないために、自分から辞退したのだけど、それだけじゃなくて、グレンツェさまから領地を去るよう言われたの。」


「フェムトのお父様は療養中で、もうずっと静養地に行ったきりなの。当主の権限は今は、実質グレンツェさにあるのよ。だから誰もグレンツェさまに逆らえないわ。」



「隔世遺伝で魔力持ちが誕生したって思われてるけど......確かに、8代前の領主の妻は魔力持ちだったけどね、フェムトの魔力と全く系統が違うのよ。」


「ね、隔世遺伝って言うにはおかしくないかしら...なにか気にならない?」

エルデがテラに同意を求める。


「そうですね...魔力の性質が、全く違うなら隔世遺伝だったとしても、他にフェムトと同じ魔力持ちの方がいらしゃったんじゃないですか?」


(私は、遺伝じゃなかったけど...)



「そのへんのことを...調べる手立ては無いのですか?例えば、家系図とか...」


「家系図には、特に魔力持ちがいたかどうかは記されていなかったわ。ただ、8代前の領主の妻は、魔力持ちの人間だったから珍しくて、領地で語り継がれていたのよ。」


「領主の妻になるものは、同胞から選ばれるのが習わしなの。」


エルデの目がテラを見つめた。



「実は...王宮の中にある、図書館に行こうと思ってるの。魔力持ちの誕生について調べられないかなって思ってね。」


「実は、グレンツェさまが以前王宮にお勤めだった時に、王宮の図書館に通い詰めていらっしゃった時期があったと聞いたの。」


エルデが声を潜めた。

「私が聞き込みをしたところによると......その時、禁書庫に入られたという噂があるの。」


「私たちもそこに行けば、グレンツェさまが魔力持ちを排除しようとしている理由がわかるんじゃないかと思って...」


「獣人の魔力持ちはそんなに珍しいんですか?」


「そうね、ネーツェル王国では多分フィーだけ。」



テラは前世を思い出したときに魔力を持った。

それまでは、普通の数多いる人と変らなかった。


「でも、人の魔力持ちも珍しいでしょう?」

テラはエルデに言われて考えたが、自分の身の回りにも数えるほどしかいなかったことを思い出した。


「エルデさん...禁書庫って簡単に入れるものなの?」



「それでね、テラさんの能力を利用させて欲しいのよ。」



急に扉が開いた。



ジークが、エルデがテラと仲良さそうにベッドに腰掛けているのを見て目を丸めた。


「エルデ、なんでここにいるの?」


テラがジークの登場に、体を強張らせたのに気付いたエルデが、テラの手を優しく握る。


「テラさんは私の命の恩人なのよ、こんなところに閉じ込められていたら、様子を見に来るわよ。」


ジークがエルデの話を聞いて、テラの話が本当だったことを知った。


「じゃあ、兄さんが君に怪我をさせたのは本当のことだったのか。」



(怪我......というより、エルデさん殺されかけてたけどね...)



「それより、ジークも協力して。」


「ぼくもって......この兄さんのメイドも一緒にかい?」

ジークが、テラを足手まといのように見た。


「そうよ、テラさんも。ジークのためでもあるのよ、上手く行けばフェムトを次期領主の座に戻せるかもしれないわ。」


「今までずっと、色々アプローチしたけど無駄足だったのに?」

ジークが半信半疑で聞き返す。


「私たち、グレンツェさまを説得するにも情報がなさすぎたわ。」


「どうするつもりなんだい?」


「レーツェル国王の第2王子が長く患ってらっしゃるでしょう?テラさんの魔力でなんとか回復させられないかな?」


「私の魔力で、なんとかできるのかな?」


「ちょっと待って、エルデ。第二王子の病は原因不明だよ、そんな奇病を治すなんて大役を、このメイドに背負わせるようなことして大丈夫かな?」


ジークは、テラが失敗することを心配しているようだった。


「私の、致命傷を回復させてくれたのよ。テラさんの魔力はすごいわ。」


「それで、第二王子を治してどうするつもりなの?」


「王宮の禁書庫に行くのよ!」

「ああ...あの噂......。」


「フィーにも話して、協力してもらうわよ。」


「その前に、ぼくが殺されるかも。」

ジークの声が心底怯えているように、テラには聞こえた。


「どうして?」

エルデが不思議そうに聞き返す。


ジークが横目でテラを見た。

「彼女を攫ってきたからだよ。」


「兄上のことだから、ここに忍び込んでくるんじゃないかな。ぼく、兄上に帰ってきてほしくて...そう思って彼女をここに連れてきた。」


ジークが、ひとつため息をついてから、テラに向き直った。

「無理やり連れてきてごめんね、テラ。」

「名前で呼んでも?」

ジークが、始めてテラに優しく声をかける。


「テラと呼んでください。」


「ぼくのことは、ジークと。かなり無茶して連れてきたから辛かっただろう。」

今までと違い、気を使うような言葉をかけてくれる。


「ちょっと酔いましたけど、もういいですよ。」

テラはこれで本当に、ジークとのわだかまりが解けたと思いホッとした。


「テラにお願いがあって...兄上が来たらぼくのことを穏便に済ますよう取り計らってくれない?」


「私が...ですか?」


「兄上は...テラに心を許しているようだったから。」



「そうでしょうか、私つい最近までフェムトが獣人だって知りませんでしたよ。」


「そこだよ、あの誇り高い兄上が、狼の姿のままで人間のそばにいるなんて、ぼくは帰りの馬車で、くだらない理由で獣化した兄上を見てかなり驚いたし...悲しかったよ。」



「全く......いなくなった兄上を懸命に探して見つけたと思ったら、人間に飼われているんだからね。」


ジークもテラと仲良くしたい気持ちはあっても、すぐには納得できないようだった。


(これは...この様子じゃ、わだかまりが完全になくなるには時間がかかりそう......)



扉をノックする音が聞こえた。


「ジークさま、お食事はどうなさいますか?」


お仕着せを着た女性が部屋に入ってきた。

「そうだね、ここにみんなの分を運んでくれ。」





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