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馬車寄せに宰相のベルデが来て待機していた。



テラは真横に座っていたフェムトを押しのけて、誰より先に馬車からおりた。


(手なんか差し出されたら、みんなの目が怖い...)



下りてすぐに、目の前にいた宰相を見て声を上げそうになった。


お互いに驚いたが、顔には出さずにやり過ごす。

後ろからフェムトとジークが下りてきた。


「ようこそお越しくださいました、フェムトさま、ジークさま。」

ベルデがフェムトとジークに会釈をした。


宰相の後を付いて行く。


今回は執務室ではなく、王宮の応接室に通されるようだった。


扉の前を近衛兵が警備しており、テラたちが着くと会釈をして木製の重厚感ある扉を開けた。


テラは、執務室には入ったことはあるが応接室は初めてだった。


中に入ると天井が高く、大きな引き分け窓が部屋に設置されていて眺望がよく明るい。


部屋の中央に大きなシャンデリアが一つ吊ってある。

落ち着いたベージュの絨毯が敷いてある。


一人掛けの重厚感のある椅子が真ん中に置いてあり、豪奢な長椅子が左右にあり真ん中にローテーブルがある。


宰相に、長椅子を勧められて腰掛ける。


テラはどこに座るか迷ったが、フェムトにエスコートされて隣に座ることになった。

対面にジークが座る。


扉の向こうで慌ただしい声が聞こえる。

「テラがここにいるとはどういうことですか、父上!」


「知らん。」


「市門をずっと強化して探らせていたのですよ!会わせてください!」


「ええい、後にせんか。客人が来ておるのだ。お前は控えよ。」


「父上!」


テラは扉の向こうでの騒ぎは聞こえたが、内容までは聞こえなかった。

フェムトとジークは、耳がいいので内容が筒抜けだった。


扉が空いてネフライト国王が応接室に入って来たときは、さっきのやり取りなど微塵も感じさせない威厳のある顔だった。


フェムトとジークが席を立ったのを見て、テラも一緒に立ち上がる。

ネフライト国王に頭を下げる。


テラはカーテシーをする。ぴったりフェムトにくっついてバランスを取る。


ネフライト国王がテラを見て苦笑した。

「皆、楽にしてくれ。」


フェムトがテラの腰に手を当てて支える。


国王が中央の一人掛けの席に掛けてから、フェムトもジークも座った。

テラも続いて座る。


ネフライト国王が口火を切った。


「レーツェル国王陛下はご健勝であられるか?」


「ネフライト国王陛下、お気遣いありがとうございます。おかげさまで変わりなく過ごしております。」

今回謁見を願ったジークが答えた。


「此度は火球の要件とか、伺おう。」


これにフェムトが答えた。


「ここにいる、テラのことはご存知だと思いますが、こちらの第3王子が力ずくで手に入れようと画策しているようなのですよ。」


フェムトのこの言い方にネフライト国王は、流石にムッとしたような顔をする。


「テラは平民で我が国民でもある。モラドが懸想して婚約者に欲しいと望めばそうなっても、おかしいことではない。」


フェムトが国王に向かって微笑んだ。


「そこで、ネフライト国王にお願いにあがった次第です。」

「テラから手を引いて欲しいのですよ。」


フェムトがテラに微笑んで、少しだけ体を前に乗り出す。


「ただでとは申しません。樹海の...『迷宮の森』エリア4の鉱山で採掘した希少石をお持ちしました。」


フェムトが、ベルベットの布で包まれている希少石『クライノート』をローテーブルの上で開いて見せた。

ピンクとオレンジのちょうど中間色でかなり珍しいものだった。


「これは、なんとも......ピンクとオレンジの絶妙な中間の色合だ。それにこの大きさは初めて見たぞ...」


テラも隣で息を呑んだ。


(色合が絶妙だわ......なんて美しさなの。ずっと見ていたいくらい...)


「非加熱ですよ、クライノートの中でも最高のグレードです。ネーベル領で一番の宝石彫刻師がカットを施しました。」


ネフライト国王の目が、宝石に釘付けになっていた。

「これは、おそらく値がつかんだろう。」


テラも国王の意見に何度も頷いた。


「ネフライト国王、いかがですか。」

フェムトがさらに付け加える。


「もちろん彼女はネフライトの国民のままで構いません。()()()()()()彼女の意思を優先してあげてほしいのですよ。それだけのことです。」


エリア4の鉱山はネーベル領内にあるが、国境を跨いでいるためネフライト王国からも行くことは可能だ。その一帯は希少な宝石なども採掘されると有名だ。

しかし、建国当初の取り決めでこの鉱山はネーベル領のものとなっていた。


こっそりとこの鉱山に行こうとした者も当然いたが、道のりが険しいのと、道が複雑でたどり着く者も少なく、戻って来れるものに至っては皆無だった。


ジークは兄の財産の一つであるこの宝石を持って来るよう言われていたが、それがテラのためにだったと知り怒りでどうにかなりそうだった。




「ネーベル卿がなぜそこまで、このテラにこだわるのか聞いても?」


フェムトがテラを見つめた。

「命の恩人なので。」


「なるほど...こちらに有利な取引だと思うが、そちらがそれで良いならの。」


「書面での契約にしていただきますよ。」


ネフライト国王が宰相に指示をする。

「ベルデ、作成してくれ。」


ベルデが会釈をして別室に下がる。


ネフライト国王は、ネーベル卿がわざわざ命の恩人とはいえ、テラのためにこの宝石を手放すのを惜しみもしないのを見て、モラドは完全に負けたと思った。


「テラ、君は底が知れないな。平民なのがもったいないくらいだ。早くどこかの養子に入れておけば良かったよ。」



「こちらでよろしいでしょうか。」


ものの数分でベルデが書類を認めて戻ってきた。


「さすがですね、仕事が早い。」

フェムトが宰相を褒める。


ベルデの作成した書類に、お互いにサインを入れて交換した。


フェムトは、この約束が反故にされないようもう一つ手を打った。


「さて、そちらの王家お抱えの騎士団長が豹の獣人なのですよ。」


「騎士団長が......」

国王と宰相が寝耳に水でぎょっとした。


「彼は獣人ですが国王と、この国に忠誠を誓っていますから、疑心を抱かないようお願いしますね。」


ネフライト国王に会釈をして応接室を出る。







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