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医療室は王宮の一階の西側にある。
ちょうど調剤室兼救護室とは真反対にある。
研究棟から搬送されて、6人が医療室のベッドに寝かされた。
看護員がクエラに感謝を告げる。
「クエラさま、ありがとうございました。ここまでしていただけたら、あとは本人の持っている自然治癒力に頼るのみです。」
「手はいりませんか?」
クエラが看護員に確認する。
「もうお手をわずらわせることはないと思います。」
「では、我々は引き上げます。」
二人は挨拶をして医療室を後にした。
医療室から調剤室兼救護室は真反対なので、廊下を歩いて5分程かかる。
「私は、今日はもう疲れたので帰ろうかしら。テラ、あなたはどうするの?」
「いいよ、帰って。私が残っておくよ。」
テラは昨日無断欠勤したので、気安く引き受けた。
二人で調剤室に戻って、クエラが更衣室でユニフォームを着替える。
帰り支度を済ませてテラに声を掛けた。
「じゃ、後はよろしくね。」
テラは、一人になってからハーブティーを淹れた。
しばらくのんびり過ごしていると、扉をノックする音が聞こえる。
「はい、はーい。」
テラが、開ける前に扉が勝手に開いた。
「お前、今日はどうしたんだ?急に色気づいて......」
ワンピース姿と、ほんのりピンクに色付いた唇を見て、モラドが目を丸めた。
「殿下、暇なんですか?」
テラが呆れた目で見た。
「昨日、無断欠勤しただろう。よっぽどショックだったのかと思ってな、今日は出勤していると聞いてな...様子を見に来たのだ。」
「ショック?」
「処女じゃなくても、お前に限り良いと父上に許可をもらった。安心したか?」
「あの森の小屋はすぐに引き払え。」
モラドが昨日の光景を思い出して、不快な表情で告げる。
「あの...なにか大いなる誤解が...」
モラドがテラを舐め回すように見てから、満足そうに言った。
「そういう格好ならお前とて、きれいに見えんこともない。」
「今夜から、私の部屋の隣にお前の部屋を設けたからそちらへ移るように。」
「時間になったら、迎えに来る。安心しろあんな男のことはすぐに忘れる、寂しいと誰でも良くなるときもあるからな。」
「あの、私......平民ですよ。」
「心配するな、公爵家に養子に入れるよう手筈を整えている。」
(なに、知らない間に周り固めてきてる...怖っ。)
不意に腕を取られて、抱きすくめられる。
(いやいやいや...無理無理!)
腐っても王子、テラが抵抗したぐらいではびくともしない。
「今夜が楽しみだ。一緒にディナーをとろう。」
モラドがテラの耳元で囁く。
後ろで護衛が咳払いをした。
王子が、名残惜しそうにテラを解放した。
そして、笑顔で護衛とともに調剤室を去った。
テラは急いで荷造りした。
(このままだと、無理やり嫁取りされる!しかも処女じゃなくていい特例ってなに!?大変だ......王都から逃げ出そう!)
王宮から出て王都の馬車の待合所に行ったが、家に帰れないことを思い出す。
(さっき、王子に抱きつかれた〜!やばいテリトリー内に自分の匂い以外受け付けない狼がいたわ!)
エルデを噛み殺そうとしていた光景が蘇る。
(まずいまずい...ほとぼりが覚めるまで身を隠さないと...番じゃないから殺しはしないと思うけど、フェムトにそのつもりがなくても噛まれたら死ぬ...)
待合所に駅馬車が着いた。
顔見知りの御者が、テラの顔を見て声をかけてきた。
「お嬢さん、今日はこんな時間に帰るのかね?」
「おじちゃん、こんにちは。ね、安くて治安が良い宿屋屋さん知らない?」
「そうじゃね...3つ先の待合所にある宿屋はどこも評判がいいよ。」
「じゃ、今日はそこで下りる。」
テラは馬車に乗り込んだ。
客は3人ほどで、みんな居眠りをしている。
馬車が走り出してから、テラは窓から外を眺める。
王都も王宮に近いところは、オシャレなお店が立ち並んでいて活気がある。
(3つ目か、通り過ぎることはあっても、下りるのは初めてだ...)
ウトウトしていると御者が声を掛けてくれた。
「お嬢さん、着いたよ。ファルケンだよ。」
「あ、ああ...ありがとう。おじさん。」
テラは、馬車から下りる。
「女のコ一人だ。治安が良い方だと言っても気を付けてな。」
テラは会釈してから、宿屋を探す。
いくつもある宿屋から、こじんまりしたところを探す。
「ここにしようかな。」
外観があまり古くない2階建てで、1階が食事処で2階が宿屋になっていた。
外から見ると、食事処が清潔感があって活気があって好ましい。
「お邪魔します。宿泊したいんですけど。」
引き戸を開けた。
「いらっしゃい~」
昼過ぎだが店内はお客がけっこう入っている。
恰幅の良いおばさんが近寄ってきて、対応してくれる。
「2階の部屋がまだ空いてるよ。」
テラは先に支払いをして、鍵を受け取り2階に上がった。
「早めに決まって良かった。」
2階の奥の部屋に進む。
扉を開けると中は一部屋だが、浴室とトイレが付いていた。
「まあ、いいほうかも。きれいだし。」
テラは窓を開けて、ベッドに腰を下ろす。」
(今後のことを考えなきゃ......)
(今日は、魔力水を作った後に魔力を放出したから眠たくなってきた...)




