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駅馬車を下りて、途中のパン屋で朝食用にパンを買って職場に向かう。



(いつからフェムトが好きだったんだろう?気持ちに気付かなければよかったな......エルデと一緒に快く国に返してあげれたのに...もちろんちょっとは寂しいと思うけど...さ。)




調剤室の扉を開けて、換気のため窓を開ける。


棚から未使用のユニフォームを出した。


「上下つながったパンツの分、家に置いてきちゃった...これしかない。」


立て襟で修道院の尼僧のような形の白い胸当てがあるミドル丈のワンピースで、この上なく清楚に見える。


「クエラのためにあるような、このユニフォームを着るしかないか......」


テラは観念して、ワンピースタイプのユニフォームに着替えた。


棚から空のフラスコを取り出し水を注ぐ。



(貯留槽の分は、今後は湖の泥をモラド王子に運んで持ってきてもらうとして。医療室で使う分の魔力水は溜めないとだよなぁ。)



テラは、フラスコに両手をかざして魔力を込めるのに集中する。


テラの全身が淡い光に包まれる。




調剤室の扉が開いた。



「あら、昨日無断欠勤したテラさん。今日は早いのね......ワンピースのユニフォーム??珍しいわね。」


クエラがユニフォームに着替えながら、テラを二度見した。



テラは無心で、フラスコの水に魔力を注ぎ続ける。


「家に......忘れて、きて...」



「あなたユニフォーム出勤して、ユニフォーム帰宅しているから忘れてくるのよ。私のように着替えて帰れば...って」


「ちょっと、それ以上は駄目よ!」


テラは無意識に、フラスコに2本目の魔力水を精製していた。


「そんなに一気に魔力水を作って大丈夫なの?あなた、いつも少しずつやってるじゃないの。」


「クエラが優しい......」


「失礼ね!わたしはいつもと同じよ、あなたがおかしいのよ。」



テラは、恋愛が得意そうなクエラに質問をすることを急に思いついた。



「クエラ、本命って誰?」


「なに、突然...何の話?」


「昨日のグリス副団長と、モラド王子を迷っているの?」


「え?」


「あのさ、気になる人から...『私にも好みがある。』って言われたら脈なしだよね、諦める?」




「矢継ぎ早の質問で、要領を得ないけど...私なら、そんな事を言われたら見返してやるわ!」


「な、なるほど...」



「あなた、いい年して...すっぴんなのどうかと思うわよ!少しぐらい化粧とかしたら?肌はきれいだから、口紅とアイシャドウだけでも違うと思うわよ。」


クエラが持ってきた鞄の中をごそごそと探る。


「うちの家で作ってる化粧品の試供品だけど、これ使ってないからあげる。その辛気臭い顔なんとかして。」


クエラが小さな円筒形の透明ケースを差し出した。


テラはそれを受け取って見る。

ケースの中身は薄いピンクの口紅ようだ。


「眺めてないで使ったら、薬指の腹に乗せてから唇に色を移すのよ。一日の終わりに石鹸でしっかり落としてね。」



テラはクエラの気遣いが嬉しくて、早速ケースを開けて薬指で唇に塗ってみた。


棚の横に設置している姿見を覗き込む。


(自然由来のもので色を付けているから、濃くは発色しないんだね...)


テラは口紅を見て思い出した。



「クエラの2番目のお兄さんが、開発部にいるって前に言ってたね。」


「そうね、この口紅はそこで作られたのよ。王妃さまからのご要望で色味を増やしたのよ、その一つがそれよ。」




開発部は研究棟の3階にあり、王城の敷地内にある。



「すみません!クエラさま!」

ノックもなく扉が開いた。


白の立ち襟で上下つなぎを着た研究員が、慌ただしく告げた。

「研究棟の5階で、薬品が爆発して怪我人が出ました!急いでお越しください!」



調剤室兼救護室は王宮の一階にあるが、研究棟は敷地内とはいえ歩いて5分程離れたところに建っている。


テラもクエラと研究員に付いて、研究棟に向かって走って行く。


研究棟は煉瓦を積んで建築されている。

入口には警備員が常駐して、外部からの出入りを厳しくチェックしている。


研究員は、警備員に軽く会釈して、カウンター横の階段を手のひらで差す。


「こちらです。」


階段で5階まで上がっていく。

テラとクエラの息が上がる。


(きつい......ここまで走って来て最後にこの階段。今日に限ってスカートだから裾が足にまとわりつくし。)


やっとのことで5階に着く。


鎮火されてて煙は見えないが、焦げた匂いが残っている。


「お二人とも、奥の部屋です。」

少し離れた部屋に、怪我人だけを集めているようだ。


テラとクエラが奥の部屋に向かう。


「みんな、クエラさまが来てくれたぞ!」

テラたちを呼びに来た研究員が、怪我人を元気付けようと声をかける。


5、6人がソファ寝かされていて、3人が椅子にしなだれかかっている。


「テラさん、椅子に座っている方をお願い。」


「了解。」


二人は急いで負傷者に駆け寄る。


テラが患部を診る。

「傷の洗浄は終わってるみたいだね。」


(そういえば、直接人の治療したことないんだよね...魔力水が体力回復に効くって報告は受けたけど......狼は大丈夫だったし問題は無いかな。)


傷口に手を当てて魔力を放出する。

テラの体から淡い光が溢れ出す。


治療を受けている研究員が、目を見開きテラを見つめる。


「クエラが来るまで頑張ってくださいね。」


傷口が癒えていく。

(良かった...軽症だったからかな、人にも効いたわ。)


椅子に座っている3人を先に済ませせて、クエラの方に確認に行く。


「クエラ、どう?」



「こっちは粗方傷を塞いだから、変わりましょう。」


「あ、私の方も軽症だったからもう大丈夫だよ。」


クエラが目を丸めた。


「あなた、治癒もできたの?いつも魔力水と回復薬しか作ってなかったからてっきりできないのかと...」


「うん、私も今知った。ここに、配属された時からなんとなくクエラの担当って感じでやったことなかったから。」



(昨日、傷を負って瀕死のエルダに魔力を使って成功したから、もしかしてって思ったんだよね〜)


クエラが研究員に指示を出す。

「まあ、そのことは今はいいわ。あとは、王宮の医療室で看護してもらって。もう動かしても大丈夫だから。」


「クエラも行って看護の手伝いするの?」


「医療室の人手次第ね。」











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