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目が覚めたら、いつもの天井が視界に入った。
「気が付いたか?無理をしたな。」
フェムトがベッドのそばに椅子を近付けて座っていた。
「フェムト......今何時?」
「もう夕方だ。」
フェムトが、立ち上がってカーテンを開けた。
夕日が当たって、フェムトがオレンジに染まる。
「王宮〜、しまった無断欠勤しちゃったよ!」
「目が覚めたの?」
腰までの白髪のストレートヘアに深い赤色の目、すっと通った鼻筋と上品な唇の女性が近付いてくる。
椅子に座っているフェムトの首に、後ろから腕を絡みつけながらテラに声を掛けてきた。
フェムトのシャツを借りて着ているようだが、男性用のシャツの上からでも、胸が大きいのとお尻が立派なのがわかる。
テラは目の前の女性の髪の色が、先程助けた狼の毛の色と同じことに気付いた。
「さっきの獣人さん...だよね?女の子だったんだね。」
フェムトが女性の腕を無言で外す。
「助けてくれてありがとう、私はエルデ。フェムトの番になるために領地から出てきたのよ。」
ニコリとテラに微笑む。
「テラです。」
(エルデさんか。キラキラしてる...妖精さんみたいだぁ...番って言ってたけどフェムトは、こういう人が好みなのね。確かに私とは毛色が違う...)
「エルデ、テラに礼を言ったら帰る約束だが。」
フェムトが、エルデを横目で見る。
(ちょっと...待って、エルデさんがさっきフェムトと番になるって言ってたよね。じゃあ...フェムトも一緒に帰るの??)
「ま...まだ、エルデさんも今日あんな傷を負ったばかりなわけだし、体調が万全になってから帰ってもいいんじゃない?」
「あら、いいの?」
エルデの目が楽しそうに輝く。
「フィー、彼女がいいって言ってるからもう少しここにいるわ。」
エルデがもう一度、フェムトの後ろに回り込み首に腕を絡めて甘える。
「テラは、私の時といいお人好しが過ぎるぞ。」
フェムトがエルデの腕を外して、椅子から立ち上がった。
エルデがフェムトの腕に、自分の腕を絡める。
「いいじゃない。ね、フィー、お願いよ。」
「テラがいいなら、好きにしろ。」
フェムトは不機嫌そうに、そのまま2階に上がって行った。
(フェムトは、番に会って早く領地に帰りたくなったのかも...)
「エルデさんも、早く帰りたかったかな?引き止めてごめんね。」
「フェムトを探してここまで来たんだよね、せっかく会えたんだし...早めに帰りたかったよね。」
エルダが顎に手を添えて、ちょっと考えてから喋り始めた。
「そうなの、3年前に急にふらっといなくなって戻ってこないじゃない?ずっと行方を探していたの。」
テラは、ふと気になったことを聞いた。
「二人は、番になるんだよね...なんでフェムトはエルデさんを殺そうとしたの?」
エルダが目を見開いてから、テラをじっと見て口を開いた。
「.........それはね、私に違うオスの匂いがついちゃったからなのよ。」
「そ...それだけで?」
(匂いがついたら殺されるのか...そういえば、モラド王子の膝に間違って座ったときに、似たようなこと言ってたよね......自分のテリトリー内に自分以外の匂いが付くのが我慢ならんって......番相手だと殺したくなるほど我慢できないってこと??怖い...)
「エルデさん、あんまり出歩かないほうが...」
(この美しい人が、浮気するとは思えないから、ちょっとしたハプニングに見舞われただけだろうに......)
「テラ、私の心配?ありがとう。」
ふわりと花が咲いたように笑う。
(すごい...目の保養になる。)
「実は、フィーったら気になる女性ができたみたいで一緒に帰るのを渋ってるの。」
「私がフェムトより強ければ相手の女を殺して、フェムトを引きずって帰るんだけど......テラさん説得してくれない?」
「エルデさん...殺しちゃ駄目だよ!その女性って......フェムトが、昨日行ったお茶屋の店員さんのことかな。」
(好みのようなこと言ってたよね。)
エルデの目がつり上がる。
「お茶屋の店員も?」
「も?エルデさんは相手に心当たりがあるの?」
「いいえ、いいえ。」
(エルデさんみたいなこんな美女、人間にはなかなかいないし...お茶屋の店員はしばらく会わなければ忘れられると思うけど......フェムトもそんな執着してる感じなかったよね......)
「お茶屋の店員はいっときの気の迷いだと思うけど...わかりました、機会を見つけて私からも話してみます。」
「ありがとう、じゃ私はフェムトの部屋で休んでくるわね。」
「あ、場所わかりますか?」
「ええ。」
エルデは、さらさらの白のロングヘアをなびかせて2階に上がって行った。
エルデが、テラも入ったことがない2階のフェムトのテリトリーに入って行く背中を見送る。
(あれ...胸が、痛い......そっか、そっか私ってフェムトが好きだったのかも...)
(これは、二人を早いとこ追い出さなきゃ...胸が痛くて死にそうだよ。)
テラはまんじりともせず、朝を迎えた。
まだ日が昇ってないうちに、身支度をしてこっそり家を出た。
「仕事、仕事!」
(別に...帰るように説得したくないから顔を合わせないようにしてる...とかじゃなくて、そう!本当に仕事だから。)
テラは、森の中を早足で抜けた。
待合所で馬車を待ち始発に乗った。




