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寝室の窓から風が入る。
レースのカーテンが風にそよぎ朝日が差し込む。
葉擦れの音と小鳥のさえずりが聞こえる。
『朝だ、そろそろ起きろ。テラ』
銀色の美しい毛並みの狼がテラの顔を鼻で押す。
「ん......うぅん」
テラが寝返りをうつ。
簡素なベッドは寝返りをうつと、ミシミシと音を立てる。
テラが寝返りをうった拍子に着ていたTシャツの裾がまくれて、腰のくびれと形の良い臍が覗く。
「フェムトぉ......まだ眠いよ〜。」
フェムトはシャツをくわえて引っ張り、おヘソを隠す。
『まったく......年頃の娘と思えないな。今日から西の水門に調査に出るのだろう、遅刻するぞ。』
テラは飛び起きた。
「フェムフェム、忘れてた!」
ベッドから飛び起きて、狼のフェムトに抱きつく。
「フェムフェム大好き!ありがと〜。」
テラはヴェレ山の中腹の、森の中に立っている木造家屋に住んでいる。
出仕した帰りに、家の近くで怪我をして動けないでいたフェムトを助けた。
それからというもの、この家にずっと一人と一匹で一緒に暮らしていた。
最初は犬だと思って芸を教えようとしたら、フェムトが『私は狼だ。』と告げてきた。
喋れる狼がいることに驚いたが、テラはすぐに馴じんだ。
テラは朝食に、パンとフェムトの準備してくれた干し肉を食べた。
フェムトは森で狩りをしているらしく、時々お裾分けをしてくれることがある。
「今日から出張だから、2、3週間戻らないと思うけどお留守番よろしくね。」
テラはフェムトの首に抱きついた。
「明日から自分で頑張って起きなきゃ〜、不安だなぁ。それにフェムフェムがいないと寂しいよぉ。」
フェムトがピスピス鼻を鳴らした。
(フェムトも寂しがってる...いつも口うるさいお母さんみたいなフェムトを寂しがらせていると思うと、こっちが悲しくなっちゃうよ。)
「フェムト、仕事なんか直ぐの直ぐ終わらせて帰ってくるからね。」
『わかった、わかった。気をつけて言っておいで。』
「じゃあ、行ってきます。」
テラは後ろ髪引かれる思いで、ネフライト王国の西インフィート領に向かった。