第五十三話 集う王達
皆さんこんにちは。
ヤミです。
本日は第五十三話を投稿させていただきました。
釈迦に敗れた星影。その情報はまたたく間に多くの者の耳へと届く。
是非お楽しみください。
釈迦から連絡を受けた研究員達はゲート付近に集まり星影の死体を丁寧に布で包み担架で運んでいた。
「噂によるとオリジンの血が含まれた人間らしいぞ。」
「それはいい研究結果を出せそうだな。」
「釈迦様はそれを見込んで私達に連絡をしたに違いない。」
「これでまた新たな人造人間が作れるかもしれない。そしたらあの方にも褒められるぞ。」
研究員達は楽しそうに会話しながら研究室へ星影の死体を運び込んだ。そして、牢の中に入れた。
「また実験材料ですか…?」
牢の中、美しい白髪に黄金の瞳をした若い女性の吸血鬼が研究員に問う。
「ああそうだ。今回は人間だ。それも《終末の七勇者》にしてオリジンの血を含んだ貴重なサンプルだ。」
「それにしてもまさかこいつもワープ装置を持ってたとは。」
「この剣もなかなか良さそうだな。」
そう言うと牢を施錠して研究員達は部屋を出ていく。若い女性の吸血鬼は運び込まれた布を剥ぎ、中に眠る男の顔を確認した。
「…《終末の七勇者》…。あなたならあの人を救ってくれる?…私はもう一度…あの人に会いたいの…。」
吸血鬼は涙をボロボロ零しながら自身の爪で自身の腕を切ると溢れ出る血を星影の口へ注いでいく。
「お願い…。最後の夢を見せて…。」
しかし、星影の体には何の変化も起こらなかった。
「…。駄目なのね…。」
吸血鬼は顔を伏せ溢れる涙を拭いながら少しでも抱いた淡い希望を捨てる。その頃、星影の死が王達へ次々と伝わっていた。それはオベイロンの元へも同じく。
「何でしょう?王たちへの知らせですね。」
オベイロン達は別荘で手紙の内容を確認していた。
「冗談だろ…。」
「…。」
ゴリラはその文面を見て衝撃を受け何も言葉が出てこなかった。ルベルは別荘を出ていくと建物の壁を叩いた。
「クソ…。あいつなら死なないと思ってたから…。俺があいつを殺した。」
「バカ言ってんじゃねぇ。」
そこへアランがやって来て
「お前のせいじゃない。自分を責めるな。」
別荘内では悠都と茜が声を上げて泣いていた。
「皆様。こんな時にすいませんが《王の茶会》へ出席して参ります。その間、ユートピアをお願いします。」
オベイロンはテレポートを使いアヴァロンへ向かった。オベイロンが円卓の間に着いた時には十三の席に十一の王がいた。
「遅かったな。妖精王。」
魔神王メフィストの声に「すいません。」と低い声で謝罪をするオベイロン。そして席に着き目の前の十一の王と対面する。
「こうして全員強制的に揃ってもらったのは他でもない。捕食王が二度に渡り倒されたからだ。」
メフィストの声にマーリンは
「どのみちあいつが死んだ事はありがたい。《終末の七勇者》にしてパーシヴァルの力を持つ人間だったんだ。いなくなれば私達が《終末の七勇者》に勝つ道も見えてくる。」
「今回捕食王影塚星影を仕留めたのは天界王釈迦による功績だ。管理者もさぞ喜ばしいことであろう。」
メフィストは少し声に抑揚を付けて言う。
「しかし、空席となった捕食王の座はどうするのだ?」
先程行われた《王の茶会》には参加していなかった巨人王アトラスが口を挟む。
「それは管理者が新たな王候補を見つけるか、我らに人選を任せるはずだ。だが、管理者から何か連絡があるまではどうすることも出来まい。」
メフィストがそう言うと鬼神王イグニスは
「そもそも捕食王などいらないのではないか?そんな雑魚。」
「確かに。」
「同意だぜ。」
深海王リヴァイアサン、百獣王ガルムはイグニスの言葉に同意を示す。
「まあそう言うけど最終的に決めるのは管理者だ。捕食王の座は消えないだろ。」
釈迦はそう言う。
「そういえば妖精王は捕食王と親しげだったな。奴が死んでどうだ?」
冥界王タルタロスは楽しそうに問う。
「そうですね。良いものではありませんよ。」
そう言ってタルタロスを睨む。
「フン。気に食わぬ目だ。」
タルタロスは興冷めしたかのように深いため息を吐き背もたれに体重を掛ける。
「ねぇ、私達が呼ばれた理由ってこんなどうでもいいお話するだけ?眠いんだけど、帰っていい?」
夢幻王ルミナスは頬杖をつきながら溜息混じりに言う。
「それは済まないな。では夢幻王が眠そうなので本題に入ろう。」
メフィストは立ち上がり机に手を付く。
「《終末の七勇者》が現れ、王達との戦いが始まった。これは《終末世界》の始まりと言っていい。つまり穢れし歴史に終止符を打ち我らが《新世界秩序》を作る時なのだ。十三の王が世界統一を実現する日は近い。」
「遂にその時が来るのだな。」
時空王カイロスは引きつったように笑みを浮かべる。メフィストは皆に訴えるように
「その日を実現させるためにも管理者の敵となる《終末の七勇者》を滅ぼし、《新世界秩序》に必要な魂の選別を始めようじゃないか!」
オベイロンと龍王グラヴィール以外は楽しそうに盛り上がっていた。
「それでは新たな捕食王の誕生を心待ちにしながら我らの理想郷を築き上げようではないか!」
その後残りたい者だけが残り王達のパーティーが開催された。オベイロンとグラヴィール、ルミナスは先に退席していた。
「おい。妖精王。」
背後から龍王の声が聞こえオベイロンが振り返る。
「龍王。どうされましたか?」
「捕食王の事は残念だったな。お前も早くどちらに組するかを決めておけ。曖昧なままでは捕食王と同じ道を辿ることになる。」
それを言いグラヴィールは立ち去ろうとした。オベイロンは
「龍王は、どちらにつくのですか?」
「俺は流れに任せるだけだ。」
と答えを濁すようにして立ち去っていった。外に出ると地平線が輝いているのが見えた。
「…忙しい夜でした…。」
オベイロンはその地平線を見ながらほんの数時間の間に起きたことを振り返る。
───
「ここは…?」
「っ!目が覚めましたか!」
「…ルベル…?」
「ルベルをご存知なのですね!」
星影は目の前の吸血鬼をしっかりと視界に捉える。
「…誰…ですか…?」
「あ、すいません。私はヴァイオレットです。ルベルをご存知なのですね!」
「あぁ、ルベルと同じ《終末の七勇者》なので。」
『星影!目が覚めたか…。』
オリジンの声が聞こえてくる。
「オリジン…?」
『何をしている!もう日の出だ!急げ!』
その言葉を聞いて死ぬ前の記憶が戻ってくる。
「母さん!…もう釈迦の気配はこの建物内に感じない。」
「えっと…急に一人でどうされたのですか?」
ヴァイオレットは心配そうに星影を見つめる。
「いえ…ここにいるのはあなただけですか?」
星影の問いに
「そうです。」
とヴァイオレットは答える。
「すいません。詳しいことは話してられないのですがここから逃げてください。…ヘル、エデン。」
「はい。」
「お呼びでしょうか。」
「ヴァイオレットさんを守りこの建物から抜け出せ。」
二人は星影に頭を下げると
「御意。」
と返事を返しエデンが牢を斬り破り二人してヴァイオレットを連れ出していく。
「オリジン。行こう。」
『ああ。』
そして星影は一人研究室の牢から出ると研究員の姿に化け駆け回る。
「お前、そんなに走ってどうしたんだ?」
一人の研究員が星影もとい研究員に声を掛ける。
「今日公開処刑があるんだろ?気になってさ。」
「お前もか。実は俺もなんだ。あと十分後に執り行われるらしい。一緒に行くか?」
「っ!…ああ。」
二人は大広間へ向かう。そこには大きな十字架に一人の女性が架けられていた。その付近には日本刀を肩に担いだ男がいた。星影は隣にいた研究員を置いて十字架の目の前まで爆発的な跳躍で移動する。
「あ?何者だ?」
「そこを退け!」
星影は刀を担いだ男へ掌を向け
「波動砲!」
衝撃波を放つ。男は吹き飛ばされる。周りは騒然とし始める。
「母さんだよね?俺だ!星影だ!助けに来たよ!」
女性はその言葉に目の前の研究員を見る。次第に研究員の姿は一人の青年に変化する。その顔を見た女性は涙を零す。
「星…影…。」
「今助けるから!」
「逃げなさい!あなたまで殺されてしまう!」
「そんな事言わないでよ!母さんを見殺しになんてできない!一緒に逃げよう!」
その時
「対象変更。影塚星影。抹殺する。」
星影の背後に白髪の少年が迫る。その少年の気配を感じた瞬間に星影とオリジンは戦慄した。
「…《堕天使》…。」
しかし、オリジンの記憶で見た《堕天使》とは見た目も魔力も異なる。だがその魔力は《堕天使》を彷彿とさせる何かがあった。
「オリジン…こいつは?」
『さあな。私も初めて見た。』
「おいおい、まさか生きてたのか。星影。」
その少年の後ろ、一人の男性が近付いてくる。
「お前達は誰だ?」
「実の父親にそんな口を利くのか?アダム、彗星、その二人を殺せ。」
星影の父親だと言う男は目の前の少年と背後にいた少女に声を掛け星影を狙わせる。
「ワールド!」
「はっ!」
ワールドは星影の影から姿を現すと時を止め動けないアダムへ迫る。しかし
「動いちゃだめよ。」
ワールドの動きが鈍くなる。いや、止まっていたのだ。
「よくやった彗星。」
彗星と呼ばれていた少女が星影とワールドの時を止めていた。
「アダム。月夜を殺せ。」
「かしこまりました。お父様。」
星影とワールドの時間は彗星によって静止させられていたため、アダムが星影の母、月夜に迫る中も指先一つ動かせずにいた。アダムの拳は雷を纏い光速の一突きが月夜の胸を抉り貫いた。それと同時に二人の時は動き出す。星影の目の前には胸を貫かれた母親が血を流し十字架からぶら下がるように項垂れていた。
「かあ…さん…。」
「見事だった。アダム。あとは星影。お前だけだ。しかし、母親に会うのは初めてだろう?よくその目に焼き付けておけ。」
「…。」
星影は目から血を流していた。憎悪により星影の心は押し潰される寸前であった。
「そこの、僕に刀を貸せ。」
男は剣士から刀を受け取り星影へ向ける。
「僕は鈴木義文。少し前までは婿に入ってたから影塚義文。君の実の父親だよ。星影。…最後に言い残すことはあるかい?」
「…。」
『星影!しっかりしろ!動け!おい!』
オリジンが星影へ声を掛けるも星影は虚ろな目で動かずにいた。
「何も言うことはないみたいだね。それじゃバイバイ。」
義文は刀を星影の首へ振る。刃は星影の首に当たると割れる。
「っ!」
「貴様。よくもこんなことをしてくれたな。お陰で星影は空っぽになってしまった。」
「アダム!彗星!」
「無駄だ。」
星影に代わって体の主導権を移したオリジンは血液の触手を生やしアダムと彗星へ放つ。それと同時に大爆発を起こし周囲は黒煙に包まれる。
「っ!アダム!僕を守れ!」
「お父様!ご無事ですか!」
「お父さん!」
アダムと彗星は黒煙の中義文を探す。次第に黒煙が収まると星影、ワールド、月夜の姿が消えていた。
「逃がしたか。だがいい。」
義文はアダムへ目を向け
「釈迦に報告してこい。星影は生きていると。」
「了解です。」
アダムはワープ装置を取り出しワープゲートへ姿を消す。義文と彗星は研究室の方へ向かって歩いていく。一方
「ここまで来れば見つかることはないだろう。…すまない月夜…。」
オリジンは月夜の亡骸を抱え小さな部屋に籠もっていた。
『ヘル、エデン。建物の外へ出れたか?』
『っ!オリジン様!…はい。ヴァイオレットさんを連れて外へ出ることに成功しました。』
ヘルがテレパシーによりオリジンの問いかけに答える。
『そうか。こっちは星影の母親が殺され、星影は心神喪失に近い状態になっている。パーシヴァルさん達が付いているから問題ないと思うが心に深い傷を残してしまった。』
『…そうでしたか…。』
『これから私もそちらへ向かう。何があるか分からない。気を抜くな。』
『御意。』
『了解です。』
エデンとヘルは返事をしヴァイオレットを見る。そしてヘルはヴァイオレットに
「あの、ヴァイオレットさん。亡くなった人を生き返らせることはできますか?」
と問う。
「え?…それは無理だと思う…。」
その答えにエデンは少し強めの口調で
「ではどうして主は生き返ったのですか?」
と聞く。
「それは…彼の中には微量ながらにも吸血鬼の血が流れていたからです。だから私の血をそこに足すことで吸血鬼の力が以前よりも増し体の修復を行うことに成功したのだと思います。」
エデンとヘルは黙り込んでしまう。これにより月夜を蘇らせることは不可能だと言うことになった。その頃オリジンは一人の政府関係者を捕らえていた。
「何なんだ貴様…!」
「答える義理はない。ワープ装置を寄越せ。さもなければお前を殺す。」
「何でお前みたいな奴に渡さなければいけないんだ!」
オリジンは指を刃に変化させ男の首に突き付ける。男の首からは少し血が垂れる。
「ひっ!」
「どうする?渡すか?殺されるか?」
「わっ!分かった!」
「少しでも変な行動をしてみろ。私はいつでもお前を殺せるんだからな。」
「…。」
男は仕方なくオリジンの言う事に従う。
「おい。」
「っ!何ですか…?」
「釈迦の部屋へ連れて行け。」
「何で釈迦様の部屋に…?」
「黙れ。」
「す!すいません!」
男は釈迦の部屋までオリジンを案内する。部屋に入るとそこには星影の神器とワープ装置が置いてあった。オリジンはそれを手に取ると男へ目をやり触手で貫く。
「ぐっ…。」
「後で話されると困るからな。ここで死ね。」
オリジンは男を部屋に置き去りにし、釈迦の部屋の窓を割って外へ飛び降りる。
「まあまあ高かったな。」
オリジンは四階ほどの高さから地面に降り立つ。地面は衝撃で窪む。
「オリジン様!」
オリジンの姿を見たヘルはすぐに駆け寄る。
「無事だな?」
「はい。」
「それでは異世界へ戻るぞ。」
オリジンはワープ装置を起動しワープゲートへヘル達と共に入って行く。
───
その頃、アヴァロンでは妖精王オベイロン、龍王グラヴィール、夢幻王ルミナス、捕食王影塚星影以外の九つの王が宴会をしていた。そこへ
「失礼します。王達の前、部外者である僕が割って入ることをお許しください。」
アダムは王達の元へ現れ頭を下げる。
「何だお前は?」
鬼人王イグニスはアダムを睨む。
「どうしたアダム?」
釈迦がアダムへ寄る。
「お父様よりご報告です。」
「義文さんから?」
「はい。影塚月夜の抹殺に成功しましたが、蘇った影塚星影により影塚月夜の遺体は奪い去られました。」
その言葉にこの場にいた王達の間に凍てつくような空気が流れる。
「アダム。何て言った?」
釈迦はアダムを睨む。
「影塚星影が蘇りました。」
「つまり新たな捕食王は生まれないと言うことか?」
魔神王メフィストは釈迦へ目をやる。
「そういう事になるみたいだな。」
「ならばやはり私が影塚星影を殺す。」
魔王マーリンが立ち上がり狂気じみた笑みを浮かべる。
「楽しそうだな!俺も行かせてくれよ!」
イグニスは楽しそうに挙手する。
「構わないが影塚星影を殺すのはこの私だ。」
「分かった分かった!」
「面白そうだし俺も行くか。」
「確かに。久し振りに暴れられそうだしな。」
巨人王アトラスと百獣王ガルムも名乗り出る。
「それじゃ魔王、冥界王、鬼人王、巨人王、百獣王の五名が《終末の七勇者》を殺しに行くのでいいな?」
魔神王メフィストが他の王達に問う。
「問題ない。」
「私もだ。」
深海王リヴァイアサン、時空王カイロスは承諾する。
「それでは任せるぞ。」
「任せろ。必ず私が影塚星影を殺す。」
メフィストがマーリンの肩をポンッと叩くとマーリンはメフィストを軽く睨みながら言った。
皆さん、いかがだったでしょうか。
ルベルに会いたいと言うヴァイオレットにより星影は半吸血鬼として蘇る。しかし、星影の母月夜は星影の目の前で殺害される。
五人の王たちが動き出す中、星影たちはどう立ち向かうのか。
次回第五十四話 闇の底




