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3.兎之山咲というニュースター

私たちはさっそくチームに分かれて練習することになった。


「初招集の二人は協力いただいてる由比ヶ浜女子の三人と。前回メンバーの三人は私たちと同じチームでやってみましょう。10ラウンド先取じゃなくて1ラウンドごとにフィードバックもしていくからそのつもりで」


 足利監督の指示したチーム分けはこうだ。


Aチーム:足利監督、瀧本コーチ、雪城さん、レジーナさん、神原先輩

Bチーム:私、兎之山さん、琴崎先輩、南先輩、宮本さん


 どうやら初招集の私と兎之山さんに焦点を当てた練習試合になるみたいだ。

 琴崎先輩は「足利選手と対戦できるなんてっ……」と目をウルウルさせながら感激している。完全に恋する乙女の顔になっていた。


「Aチームは基本受けに回ること。それと神原はスナイパー禁止。ゲームが壊れる」

「ガーン……」


 神原先輩は得意のスナイパーを禁止されて意気消沈している。

 ただ、スナイパーを使われたら”いかにして神原白乃のスナイパーを封じ込めるか”に焦点を当てなければならないので、まともな練習にならないのは事実だ。


「由比ヶ浜女子の皆さん、今日はよろしくお願いします!」


 兎之山さんはツインテールを揺らしながら私たちに深々とお辞儀をする。

 私はいつものメンバーだからやりやすいけど、兎之山さんにとっては全員と初めましてだ。しかも自分以外の全員が見知った仲。やりにくいに違いない。


「今日の主役は兎之山さんだからね。助っ人の私たちのことは気にせず好きに動いていいから」

「ありがとうございます!」


 南先輩は兎之山さんを気遣ってにこりと微笑む。

 本来なら招集された私が気を配らなければならない立場だけど、こういうところは南先輩には敵わない。

 いつも空気を綺麗にしてくれて本当にありがとうございます。


「準備ができたならぱっぱと始めるぞー」


 使うデバイスの設定が終わると、監督の号令で私たちはそれぞれ席に着いた。

 使用キャラクターも監督から指定済みだ。


 兎之山さんはフロントキャラで目を眩ます光を投げれるゴッドチキン。

 私は白い濃霧で視界情報を制限できるシスターエレファント。

 南先輩は得意のドクターベア。私と同じく毒ガスで視界を制限できる能力も持つ。

 宮本さんは決勝戦でも使ったスパイラビット。


 そして、琴崎先輩はトラッパーのエージェントホークを使用する。

 普段はミリタリードッグを使う琴崎先輩だが、今回はトラッパーを普段使う人がいないので足利監督にお願いされて二つ返事で承諾していた。ファンガールが過ぎる。


「兎之山さんは名前的にスパイラビット使うのかなって思ってた!」

「よく言われます。ただ、あのキャラあまり強いと思ったことなくて」


 宮本さんは初対面の兎之山さんにも気兼ねなくガンガン話しかけている。

 相変わらずの強メンタルだ。


 そうこうしているうちにキャラ選択も完了。

 ゲームが開始された。

 マップはルインズシティ。私たちがアタッカーサイドだ。


「B側攻めましょう!」

「りょ、了解です……」


 兎之山さんの元気な声が響く。

 初対面の私たちにも遠慮なく声を出せるのはすごい。

 私はどうしても遠慮してしまう。


 A前と中央を琴崎先輩のエージェントホークで監視してもらいつつ、私たちはセーフティにB入口通路まで進軍する。


 Bの入り口通路はA側と比べて狭く、車などの遮蔽物も多い。

 そのためトラッパーキャラが何かしらの罠を設置してある可能性が高い。


「ちっちゃなワニさんがいます!」


 宮本さんが車の裏に隠れている小さなワニを発見し、即座に打ち倒す。

 しかし、それに合わせて一発の弾丸が宮本さんの操るスパイラビットの頭を貫いた。


 私たちの立ちはだかったのは雪城未菜さんのハンタークロコダイルだ。


 ハンタークロコダイルは敵の進行を止めることに長けたトラッパーで、子分ワニを設置して敵を検知したり、牙のまきびしを置いて進行する敵にダメージなどを与えることができる守備的なキャラである。


 雪城さんは可愛らしい花の髪留めを差していて、部屋の入口で怯える私に声を掛けてくれた優しい上級生だけれど、実際にゲームで対面すると恐ろしい。


――もう安全な位置まで退かれちゃってる……。


 流石、昨年の日本代表メンバーと言うべきか、罠に反応した宮本さんを撃ち倒すと一瞬で安全なポジションへと移動している。このまま追いかけてるにしても、どこに罠が設置してあるかわからない。完全にしてやられてしまった。


 しかし、兎之山さんはそうは考えていなかった。


「逃がしません!」


 兎之山さんの声とともに、ゴッドチキンが宙を舞っていた。

 前方に大きく跳躍するフラッピングというスキルだ。


――これ行くの!?


 突っ込みすぎではないか。

 私の中の危険信号アラートがビンビンに反応している。

 しかし、宙を舞うゴッドチキンは私の想像を超えて、そのままの姿勢で逃げ切ろうとするワニさんの後頭部を貫いた。


「これ反応できるのマジ?」


 南先輩が思わず声を上げる。

 たった一瞬の中にいくつもの離れ業が詰まっていた。


 罠に反応した宮本さんを一瞬で撃破した雪城さんも素晴らしい。そして、即撤退した雪城さんに超反応で飛びついて、空中でヘッドショットを決めてみせた兎之山さんはスーパーだ。


 通路にはワニさんのまきびしが設置してあったので、ゴッドチキンのジャンプで飛びつくという判断を一瞬で下さなければ間に合わなかった。

 インターハイ県予選予選とはレベルが違い過ぎる。


「中央から来てる!」


 そんな琴崎先輩の叫びとともに、中央のほうで敵を監視する小鷹が破壊された。


――足利監督、受けに回るとか言ってたのに!


 試合前に「Aチームは基本受けに回ること」と言っていたはずだが、何故か普通に攻めてきている。しかも攻めてきてるのは足利監督と瀧本コーチだ。大人げない!


「ごめっ、……ちょっと元プロ強すぎ!」

「足利監督やっぱ強いなぁ……」


私が中央からの突撃を警戒するよう指示していなかったのもあって、横っ腹を突かれた南先輩と琴崎先輩が真っ先にやられてしまう。琴崎先輩は憧れの足利監督に撃破されて少しうっとりしていた。


「フラッシュ入れます!」


 先を行っていた兎之山さんは私の元まで戻って来るや否や、突撃してきた監督とコーチの前に飛び出した。


 そして、眩い閃光が三人の間で炸裂する。


――それだと自分も食らっちゃわない!?


 通常、相手の目を眩ますフラッシュスキルは、曲がり角や遮蔽物の裏から投げ入れる。理由は単純で、自分の視界にもフラッシュが入って使った本人の目が眩んでしまっては意味がないからだ。


 私はBエリア入口通路に身を潜めているのでフラッシュは食らわない。であれば、決死の覚悟でフラッシュスキルを使って飛び出してくれた兎之山さんを私がカバーしなければならない。兎之山さんの献身的なプレーを無駄にするわけにはいかない。


 そんな浅はかで安易な私の考えは、兎之山さんにあっさりと打ち砕かれた。


 フラッシュが炸裂するその刹那、兎之山さんの操るゴッドチキンの首が一瞬だけ横を向く。『フラッシュキャンセル』。プロレベルの選手が使う高等技術。フラッシュを放り投げて、閃光が炸裂する瞬間だけ素早く視点を動かし、自分だけは閃光で目が眩まないようにする技術だ。


 監督とコーチがフラッシュで目が眩んでいる間に、兎之山さんは二人を瞬殺する。


「よし、ダブルキル! あと二人ですよ!」


 もちろん監督とコーチも元プロなのでフラッシュを避ける技術はある。しかし、兎之山さんは自分の体を晒すことで注目を集めて、そこにフラッシュを炸裂させた。これではいくら元プロとはいえフラッシュを避けるのは難しい。


「ナ、ナイスです……」


 昨年のU-18日本代表と元プロ相手に圧倒的なパフォーマンスを見せつける兎之山さん。今まで見てきた選手と次元の違う動きに、私はただただ賛美を送るしかない。


 そして、南先輩が落とした時限爆弾を回収してBエリアに私たちは侵入し、即座に爆弾の設置を始めた。残る敵は神原先輩とレジーナさんの二人だ。


 だが、そのタイミングを待っていたかのように毒爆弾、毒霧などのスキルが一気にBエリア内へと降り注いでくる。迫りくるスパイラビットの足音。レジーナさんと神原先輩だ。


「詰めて来てます!」

「そのまま戦って!」


 私たちが爆弾を設置するタイミングを見計らって突撃してきた二人は、毒ガスで兎之山さんの視界を封じていた。さすが代表選考会。本当にそつのないプレーしか出てこない。


――戦ってって言われても……。


 カバーを取り合えない位置で私が二人に挑んでも無駄死にしてしまう。

 それに兎之山さんは跳躍するプラッピング、閃光を出すフラッシュというスキルもさっきの戦闘で既に消費済みだ。

 けれど、ここまで攻め込まれたら兎之山さんを信じて戦うしかない。


 毒爆弾を食らい、毒ガスのダメージもあるなかで私もなんとか撃ち返すものの、代表レベルの二人は反撃を許してはくれない。辛うじてレジーナさんのクマさんにダメージを与えただけで私はやられてしまう。


「新堂さんナイストライ!」


 それでも兎之山さんの声色は変わらなかった。

 私を倒した二人に向かって果敢に突っ込んでいき、体力の減っていたレジーナさんのクマさんを撃破。そして、あえて敵の毒ガス内に身を隠すことで神原先輩のカバーから逃れる。


――この人すごい……っ!


 一挙手一投足あらゆるプレイの動き出しが異常にはやい。

 それでいてすべてが相手を倒すことに繋がっている。


「まだエスケープダッシュ残ってます!」


 私は神原先輩の操るスパイラビットのスキル状況を報告する。

 スキルが残っているかどうかは戦闘に大きな影響を及ぼすからだ。


 特にエスケープダッシュは一対一で無類の強さを持つスキル。

 相手の弾を避けられるというアドバンテージはあまりにも大きい。


「大丈夫!」


 毒ガスが晴れて、対峙する兎之山さんと神原先輩。兎之山さんの体力は毒ガス内に隠れていたためやや削れている。その分だけ不利だ。


 そして、兎之山さんが神原先輩へと銃口を向けた瞬間、神原先輩はスパイラビットのエスケープダッシュを起動。まるで瞬間移動したような速さで銃口から逃れ――。


 ダダン!


 簡素な銃声が鳴り響く。

 画面にはスパイラビットが脳天を撃ち抜かれて、力なく倒れ込む姿があった。


「やったー! ナイスゲームです!!」


 兎之山さんは嬉しそうに拳を突き上げているが、私たちは唖然とするだけで言葉を返すこともできない。


――ダッシュ中の頭を撃ち抜いた……。


 瞬間移動にも見える速さで横へスライドするようにダッシュするスキル、エスケープダッシュ。そのダッシュしている最中の頭を撃ち抜くなんて、プロシーンでも見たことのないような離れ業だ。


 それだけではない。

 雪城さんをとっさの判断で倒しにいった思い切りの良さ。

 突撃してきたコーチ陣に臆することなくフラッシュで蹴散らしたフィジカル。

 ダッシュ中の神原さんの頭を撃ち抜くエイム力。

 そのすべてがスペシャルだ。

 

 たった一人でU-18日本代表メンバーと元日本代表選手を蹂躙するなんて、こんなことがあっていいのか。これで同じ一年生なんて……。


<テクニカルタイムアウト>


 不意に画面が固まる。コーチ陣によるタイムアウトだ。

 対面の席を見ると足利監督が席を立ってBチーム側へと歩いてきていた。


「兎之山、お前は今からAチームに移動しろ。Bチームには私が入る」


 実質的なU-18日本代表への内定。

 その決定に異を唱える者は誰一人としていなかった。

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