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16.もったいない後輩たち

 テロンッという電子音がイヤホンから流れる。

 Biscordの個人通話欄に目を向けると、真知子ちゃんが入室したことが見てとれた。


「うぃ~。ココ助お疲れぇ~」

『なにそのおっさんみたいな声』

「いやぁ。お風呂上がったところだったからさ」

『ちゃんと髪乾かした?』

「うんー」


 そして、続けざまにテロンッという音が聞こえてくる。

 入室してきたのは瑠依ちゃんだ。


「どうしたのよ急に」


 夜の二二時。

 この集いは私が同好会の上級生だけのチャットルームに『今夜集まれる?』と書き込んだことで発生していた。


『ちょっと聞いてほしくてね』

「三回戦のこと?」

『いや、そうでもあるんだけど……』


 あかちゃんがネットの誹謗中傷から立ち直って一週間。

 私たちは無事に二回戦を突破していた。

 一年生の後輩が元プロアカデミー生という肩書に恥じない圧倒的なゲームメイクで盤面を支配し、もう一人の一年生も四月から始めたとは思えないほどの撃ち合いの強さを見せつけて勝利を収めた。


 しかし、だからこそ……。


『私たちにはもったいないぐらい良い後輩だと思わない?』

「え? まぁ、可愛い後輩だとは思うけど」

「ほんっとに良い子たちだよね~」


 本当に心強すぎる後輩たちだ。

 あれだけのことがありながら、自分たちで気持ちを切り替えて、前へと歩き出した。

 私にはとてもできない。


『正直、あかちゃんが立ち直る前まで、参加したの後悔してたんだよね』

「え、それはないでしょ。そもそも人数足らなくて大会に出れなかったわけだし」

『それでもだよ。やっぱり後輩が自分のせいで傷ついたって思うと……』


 あの件は、私自身にも後悔や葛藤があった。

 私がメンバーとして参戦しなければこんなことにはならなかったのではないか。

 そもそも私が参加せずともメンバーは見つかったのではないか。

 何度思い悩んだか分からない。

 けれど、二人の後輩はそんな些末な問題を軽々しく飛び越えていった。


『ごめん。それはいいんだよ。もう済んだことだから。私が言いたいのは、なんていうか……。ぶっちゃけ、ここまできて優勝できなかったら私のせいじゃん?』

「いや、そんなことは……」


 真知子ちゃんは咄嗟に否定するが、私はそれを遮るように言葉を続けた。


『そうなんだって。あの二人は全国で戦えるレベルの力を持ってる。真知子ちゃんは定点知識で貢献できてるし、瑠依ちゃんもあかちゃんの指示の意図を汲んで自発的に動けてる。けど私はまだ駒の一つって感じで、私の力でチームを勝たせたこともないし、明らかに足を引っ張ってて……』


 ベスト4までいければいいと思っていた。

 部として存続できればいいと思っていた。

 けれど、二人の一年生は想像を超えるほどにたくましく成長して、私たちの実力は当初の目標を大きく飛び越してしまっている。


 後輩二人の目標は入賞ではなく優勝。

 そんなつもりではなかった。

 まさか自分が一番の足かせになるような状況になるとは思ってもいなかったのだ。


「そりゃそうでしょうよ。停滞してた実力が急に伸びるわけでもないし」


 瑠依ちゃんはばっさりとした言葉で切り捨てる。

 けれど、それがむしろ心地良かった。

 変に気を遣われるほうが辛い。


『うん……。実力もないし、無駄に知名度あるだけで、ただの数合わせで……』

「けど、最後まで先輩として見栄を張っていきたいから、今日私たちを呼んだんじゃないの?」


 瑠依ちゃんは厳しい。けど、優しい。

 言ってくれた通りだ。

 実力が足らない。足を引っ張っている。不甲斐ない。

 それでも可愛い後輩の良き先輩でありたいから、私は今日、二人を通話に呼んだのだ。


 私が『うん』と返すと、真知子ちゃんも「上級生だけの秘密の特訓ってわけね。付き合うよ」と乗ってくれた。


「ぶっちゃけ、決勝までは余裕だと思うんだよね。私と新堂さんと宮本さんでフィジカルは十分強くて、真知子もココ助もサポートの連携は良い感じだし。何より、新堂さんのマクロで完封できると思う」


 マクロとは、ゲーム全体を俯瞰で見る大局的なスキルのことだ。

 あかちゃんは特にそれが優れていて、まるで相手の居場所が分かっているかのように、常に最も有効な作戦や指示を出し続けている。


「だから練習するにしても、決勝戦に照準を合わせて課題を限定して取り組んだほうがいいと思う」

「あれもこれもってやると時間も足りないしね。私も定点はできるけど、それに絞ったからこそだし。それにココ助は決勝だけ今までと違う形になるから負担も大きいからね」


 真知子も瑠依ちゃんも、私の練習方針について話し合ってくれている。

 その声は真剣そのもので、申し訳なさと嬉しさが入り混じった気持ちになる。


――本当に私にはもったいない後輩たちだよ。……四人とも。


 だからこそ、最後の最後まで一緒に全力で走り続けたい。

 心からそう思った。

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