第1話 私の婚約式荒らさないで欲しいんですけど!?
「婚約破棄だ!」
私と王太子との婚約式の途中、突然そんな事を告げられた。
私の名前はレーツェル・ハイリッシュ。
華やかな金の髪に奥ゆかしい立体感のある三つ編みをしている、ちょっと神力が使える辺境伯令嬢だ。
そしてアンファン王国王太子『オランシェ・フェザーク』の婚約者である。
いや、ついさっきまで婚約者だったはずなんだけど……。
最初は何かの冗談かと思った。
もしこれがドッキリなら、1人ぐらい我慢できずにニヤニヤする人がいるでしょう。
「なーんだ、ドッキリかよー」と、良いリアクションをする準備をしているけど、この場に顔のゆるんでいる人は誰1人見当たらない。
それどころか、『この世界では珍しい黒髪ロングの美女』を王太子が連れてきた。
なんとその美女が、王太子にベタベタと抱きついているところを見せつけてくるではありませんか。
(あ、あれ?これ多分ガチなやつだな……)
私も皆んなも、氷河期を通り越して絶対零度と言っていいレベルで凍りついた。
世界中から集まった数多くの名門貴族が出席する王都の婚約会場でこのような裏切り行為。
王太子の取ったこの行動が私の人生をどれだけ左右するか、それを知らない者はいないだろう。
なぜなら、王太子「オランシェ・フェザーク」と『勇者の血筋』である私「ハイリッシュ」辺境伯家の結婚は、よりよい子孫を残すための儀式のようなもの。
権力は王太子の方が上なので、必ず結婚しなければならないというルールは無いが、暗黙の了解のようなもので基本的には結婚するものだ。
この世界の人は一夫多妻制で、他の人を好きになったとしても「二人とも嫁にしよう」という考えに至るはず。
しかし、婚約破棄ということは、
「お前の子供を作っても、かえって出来の悪い子供が生まれる」と言われているようなもので、非常に侮辱されていることになる。
さすがの私もこれには焦った。
転生前、カップラーメンをネットで注文した時に、0の数を一つ違えてしまった時と同じぐらい焦った。
いやー。
1000個のラーメン。
持ち金は0円
流石に死んだと思ったよね。
実際、死んだからゲームの世界にいるんだけど……。
私との婚約を破棄してきた、王太子「オランシェ・フェザーク」は、ふわふわの金髪が特徴的な青年である。
一年前に『Aランクモンスターに襲われている子供をオランシェが助けた』らしい。それぐらい勇敢な男だ。
彼はなぜこんな愚行に及んだのだろう。
口を開いた彼を見て、その理由を説明してくれるのかと思ったのだが……。
返ってきたのは
「理由はわかっているだろう?教祖のレーツェルさん?」
という言葉。
いやわからねーよ。
テレビのクイズ番組でヒントを出しまくったナレーションが「はい、ここまできたら皆さんも分かりますよね」ていう感じで言ってくんなし!
「いえ、分かりません」
「まさかバレていないとでも思っているのか?」
これは、いわゆる『かまかけ』というやつでは無いだろうか。
私に『オランシェの怒っている理由』を当てさせ、今までの悪い行いを洗いざらい言わせることによって、本性を暴くという高等テクニック。
私は試されてる。
ここは答えたら負けだ。
間違っても「イケメン執事の着替えを覗いたからでしょうか?」なんて言っちゃダメだ。
「わかりません。私は人々を救って生きてきました。よく考えてみてください。私は歴代の勇者のように人の家に勝手に侵入し、ツボを割ってアイテムを収集したりなんかしません!サブクエスト……じゃなくて、困ってる人がいたら積極的に力になります!むしろ、結婚するメリットしかありません!」
私の言葉を聞いたオランシェは、呆れたように深くため息をついた後、想定外の言葉を発した。
「メリットなんてあるか!お前が女神を名乗り、新興宗教の教祖などとふざけたものになったせいで多くの民が惑わされてしまったではないか。お前にとってはただの冗談かもしれないが、国にとっては大きな問題だ」
「え、え、どういう、え?」
混乱した私は、一旦落ち着いて考えてみた。
考えた結果、再び混乱した。
そんな私を置き去りに、彼は続けて言った。
「それに比べてこの子(黒髪ロングの美女)は浮浪児(親や保護者がいなく、住居すらない子供)だったにも関わらず、天才的な発想と発明で国に貢献した。その甲斐あって王様の目に留まり、実力で子爵の爵位まで成り上がったんだぞ」
いや凄っ!!凄いのは分かるよ。
でも婚約破棄する理由にはなってないよ!!
まだ間に合う。
誤解を解けば、あるいは。
「嘘なんてついていません!私は本物の──」
バンッッッッ
爆発音と共に、綺麗に装飾された大窓が吹き飛んだ。
そこから侵入した物騒な刃物を片手に持った集団は、逃げ道を塞ぎ、破壊の限りを尽くした。
さらには、そいつらが灰色の召喚石を地面にたたきつけ、レッサー・アンガードラゴンを召喚し、攻撃を命令したではありませんか。
その猛獣というか、もはやバケモノは自分が世界を支配しているといわんばかりに暴れまわっている。
『ぎゃああああああああ』
王宮騎士の瞬時な対応もあり、かろうじて貴族への被害は出ていないものの、上品な貴族とは思えない本気の絶叫が部屋に響き渡るぐらいにはパニック状態だ。
王宮騎士ですら苦戦する状況に、相手はただ者ではないと推測される。
婚約式は荒らされ、豪邸がたつほどの価値がある高級ワインや、下級貴族は拝むことすらできない高級料理が床に落ち、汚れていく。
次の瞬間、王太子様の首元に剣が突き付けられていた。
いくら英才教育をさせられた王族とは言え、異質な空気を漂わせる謎組織に敵うはずもなく、苦悶の表情を浮かべている。
この時、私は初めて激怒した。
私だって一応勇者の血筋なのだ。
たとえ謎の組織に命を狙われようと、そうやすやすと王太子様を殺させるわけがない。
相手に嫌われようと、自分は相手を想い続ける。
それが愛なのだ。
『必ず守ってみせる!』
なーんて言えればよかったけど、
あいにく『勇者の剣』を使っても『勇者の魔法』を使っても勝てそうにない。
でも
私にはある。
─《バチバチッ》─
◇
◇
◇ ◇
◇ ◇
◇
◇
◇
対抗する手段が。
《神にしか使用を許されていない『ワールド・アルスウェル』》の光が会場を輝かせた。
お読み頂き、ありがとうございます!
この作品を『面白い!』と思っていただけましたら、画面を少し下にスクロールした場所の
・「☆☆☆☆☆」をタップして「★★★★★ 」色をつけて評価してもらえると、執筆の励みになります!
・『ブックマークへの追加』をして頂くと、投稿された最新話がすぐに読めますよ!
よろしくお願いします!