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ここで店主は、一旦話を切りました。話に夢中になっていた彼が窓の外に目を向けると、日は傾き始めていました。
「今日はここまでです。店仕舞いの時間になりましたので、また明日いらしてください」
彼女は彼を店の入口まで案内し扉を開けると、彼の背中をそっと押して彼を店の外に出し、深くお辞儀をしました。彼も彼女に合わせて軽く会釈し、空を見上げると綺麗な夕焼けに目を奪われました。ですが、視線を戻すとそこには店らしきものは何も見当たりません。彼は、首を傾げつつも家路に着きました。
この出来事を誰にも話しませんでした。誰かに話したら、あの話の続きが聞けなくなると思ったのでしょう。
彼は寝る前に、今日聞いた店主の話を思い出していました。店主が語ったあの物語の世界と彼には幾つか共通点がありました。まず、リアムもカイルと同じ人見知りだということ。幸いにも彼は友人に裏切られたことはありませんでしたが……もしかしたら、同じことが起きるかもしれないという恐怖が彼にはありました。
そんなことあるはずがないのに……。そんなことを考えている間に、いつの間にか眠っていました。
次の日の朝、彼はあの出来事が夢だったのではないかと不安になり、早めに家を出て店があるか確かめに行きました。すると不思議なことに昨日無くなったはずの店が出ているではありませんか。彼は嬉しくなり、錆びた金の取手に手をかけ扉を開きます。店の中で店主は本棚の整理をしていたのでしょう。梯子の上から飛び降り、彼の前にフワッとスカートを膨らませるようにして着地しました。
そして彼に気づくと顔がぱっと明るくなりました。
「また来てくださったのですね。それでは続きをお聞かせしましょう」
嬉しそうに話す店主の手には、いつの間にか昨日と同じ本があり、いつ出てきたのでしょうか。椅子もあります。彼は恐る恐る椅子に座ります。その様子を店主は微笑ましい様子で見守っていましたが、彼が席に着くと芝居がかった口調で語り始めました。
あのうさぎの一件以来、カイルは人を信用出来なくなっていました。ルーカスから謝られ、許して欲しいと懇願されても、彼の心の傷は癒えていないため、何とも思いませんでした。むしろ、何故自分の前に姿を見せることができるのだと、腹立たしく思っていました。許せるはずがないだろうと。彼は友人にいえ友人だったと言っても過言ではないでしょう。絶交を言い渡してしまいました。
「ルーカス、君のこと友達だと思っていたのは、僕だけだったのだね。君とはもう友達ではいられないだから、もう僕には関わらないでほしい」
そうルーカスに告げたのです。ルーカスは傷ついた表情をしていましたが、今のカイルには、ルーカスを気遣う余裕などあるはずがありません。彼も自分が傷つかないように必死だったのです。こうして、ルーカスとは会うことがあっても、今までのように話すことは無くなりました。そうして、月日は流れ彼は高校2年生になっていました。あの一件で、誰も彼を助けてくれなかったことが、彼にはそうとう堪えたのでしょう。彼は人見知りになり、人が嫌いになっていました。誰かにおはようと声をかけられるだけで体が強ばり、何とか声を絞り出すそんな日々がこの先もずっと続いていくのだろうそう彼は思っていました。人なんか信じても、いいことなんてない。もちろん、あの一件で彼の両親だけは彼の無実を信じていましたが、両親以外は彼が犯人だと思っていたようです。あるひとりを除いて。
彼女の名前は、ルイーゼ・フォーサイス。彼女は、本当にカイルが犯人なのか疑っていました。大人達が言うように、彼がうさぎに腐った餌をあげた犯人なのか信じることができませんでした。ルイーゼには、彼がそんなことをするようには見えなかったからです。真面目で、気遣いのできる彼が本当にうさぎを苦しめた犯人なのかと。そんなルイーゼとの出会いが、カイルの人生を変えることになるとは知る由もありません。