72話目 新しい家
時代の進歩とはすごいもので、玄関のある62階まではエレベーターであっという間に到着してしまった。
エレベーターを降りるとすぐに玄関がある。
このエレベーターは従業員専用スペースにあり、カギを使わないと入れないような仕組みになっている。
完全に夏海専用だ。
これからは私と夏海専用になるけどね。
「ただいまー!」
「お、お邪魔しまーす……。」
私の新しい住処にいざ侵入である。
「って、なにもない……。」
まず最初に目に入ったリビングには、ほとんど物が置いてなかった。
「あはは……。この家6LDKなんだけど、私ゲーム以外にほとんど何もしてないから正直1部屋あれば足りるんだよね。」
どうやら普段夏海がゲームをやっている部屋以外ほとんど何もないらしい。
「じゃあ、普段いる部屋に案内してよ。」
「え!?いや~、ちょっと今はそれは困るというかなんというか……。」
「なに?なんか隠したいものでも?」
「あ、えーと、ほんとに何でもないです。」
「じゃあ、見せて?」
「は、はい。どうぞお入りください。」
ガチャと小さな音を立てて開いた部屋。
開けた瞬間、もわっといった気持ち悪い感覚とともに、悪臭が押し寄せてきた。
「うわ!!!なんじゃこれ!!」
「わたし、掃除できない。」
汚部屋であった。
机の上にはインスタントラーメンの残骸がそのまま放置されており、空き缶がそこかしこに散乱。
ゴミ箱は役目を放棄し、中身が溢れ出ている。
きっと何かをこぼしたのを放置しているのであろう地面のシミや鼻をかんでそのままであろうティッシュ。
ネット通販で買ったときに捨ててなかったであろう段ボールの数々、その他もろもろ……。
私は夏海の肩に手を当ててにっこり。
「掃除、しよっか。」
「は、はい!只今!!」
私の新しい家での最初のお仕事、掃除である。
「もう、どうしてこんなに汚いの?」
「だって、ゴミ捨てとかめんどくさいじゃん?」
「わかるけどさぁ、ここまで放置するのは違うでしょ!それにインスタントのラーメンばかり!このエナジードリンクの空き缶の数々!今度はそっちが体調崩して倒れるよ!!」
「でも、私料理とかできないから。」
「じゃあこれからは私が作る!!」
「ありがとうございます!!」
とはいっても私料理したことないんだけど。
というのは心の中にしまっておくことにした。
何とかなると思う。
少なくともインスタントの物よりは健康的な食事を作ることはできるだろう。
私暇だったから栄養とか料理に関する知識だけはあるよ。
まあ実際に料理はしたことないけど。
「おぉ!私の部屋ってこんなに広かったんだ。って!痛い!なんで叩くんだよ!」
「もう、これからはこまめに掃除すること!」
「わかったよぅ……。」
掃除には5時間もの時間を要してしまった。
お昼ごろに病院を出たのだが、すでに日は傾き始めている。
「よし!とりあえずおなかすいたでしょ?ご飯食べよっか。」
「あの、その前にちょっといい?」
「どうしたの?」
私は病院から持ってきた私の数少ない荷物が入ったバッグから私の通帳を取り出した。
「あの、これをどうぞ。」
「なにこれ。」
「私の通帳です。」
「は?」
「これから私のお金はすべて夏海の物です。私は命を救ってもらって、この家にも住ませてもらう。私は夏海の物だから。」
夏海は「いや、それは……」と口に出かけたが、のど元でストップさせた。
彼女の目は本気だ。
きっと何を言っても聞かないだろうし、ここで断ると彼女の覚悟を裏切ってしまうことになる。
「わかった。じゃあ受け取るね。でもさ、夕日だって買い物とかしたい時があるだろうからさ、お小遣いをあげよう。うーんと、そうだなぁ……、月に100万あれば足りる?」
夕日は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「ちょちょちょ、ちょ!!100万!?いやいやいや、そんなにいただけないよ!」
「じゃあどのくらいがいいの?」
「いや、お小遣いとかほんとにいいから。大丈夫だから。」
「うーん、まあめんどくさいから私と夕日の財産共通で。」
「え!?それは!!おかしいでしょ!!」
「知らない!さっ!ご飯食べに行こ!」
そういって私たちはエレベーターで1階下へ降りた。
「これは……、高級レストラン……。」




