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41話目 バトルロワイアル③ メアリー

「お!?この洞窟はどう?」


あの後も時々戦闘になりつつも必死に洞窟を探した。


正直洞窟はないのではないかと思った時もあったが挫けずに探し続けた。


そして、探し始めてから8時間が経過したころ、ようやくよさげな洞窟を発見した。


かろうじて太陽はまだ顔を見せているが、すぐ沈みそうだ。


「そうね。ここをしばしの拠点にしましょう。」


私たちは洞窟へ足を踏み入れた。




なんかそれっぽいつなげ方になったが別に洞窟の中に何かが潜んでいるとかではない。


普通に何もない小さな洞窟。


下に下っているわけでもなければ上に上っているわけでもない。


奥行きはあまりないが2人で使う分には十分だ。


「とりあえず今日と明日はここでやり過ごす。フィールドの縮小具合や残りのパーティー数を確認しながら3日目以降の行動を決める。いい?」


「わかった。」


洞窟を探している最中に気が付いたのだが、マップの左上に表示されているのは残りのパーティー数のようだ。


スタートから8時間たったがパーティーはあまり減っていない。


初日から戦闘になるのは少ないみたいだ。


「メアリー、これ入り口ふさいじゃうからね?」


「いいよ。でも空気穴は通しておいてね。」


完全な密閉空間を作るのは危険だ。


このゲームには明かりをつけるスキルは存在しない。


攻撃スキルのエフェクトが発光することはあるがそれは明かりにはならない。


明かりをつけるのは魔法使いの役目だ。


ということで、魔法使いがパーティーにいない私たちは火を使って明かりをとる。


設定で酸素も必要なようになっているかはわからないが念のためだ。


入り口の上のほうに空気穴を作る。


あまり大きいと見つかってしまう可能性があるので小さく開ける。


「よし、これでいいね。」


「うん、ありがとう。」


……、


「女同士、密室、2日間。何も起きないはずがなく…」


「ちょっとユウヒ!!やめなさい!!何も起きないから!!!!」


「ふへへ、ごめんごめん。ちょっと思い出しちゃって。」


……、


静かで暗い洞窟内にメアリーが火打石をカチカチとする音が響く。


「音のソノ〇ティ、世界でたった一つの音。」


……、


「ねえ!ボケたんだから突っ込んでよ!!!」


「へ?あぁ。ちょっと火をつけるのに集中してた。」


「はぁ。せっかく場を和まそうと頑張ったのに。」


「ごめん。集中してて聞こえなかったからもう1回やってくれる?」


「……いやだわ!!なんで2回も同じボケをしないといけないの!恥ずかしいわ!」


……、


静かだ。


そういえば私たちって結構仲いいと思うんだけどあまりこうやって用もなく2人きりになることなかったな。


いや、別にいまイベント中だから用がないって言ったらそれはまた別だろうけど……。


それにしてもメアリーってすごい可愛いと思う。


私のこのアバターも結構かわいくできたけどメアリーのアバターもすごくかわいい。


私は金髪でロングだけどメアリーは水色のボブ。


顔も幼いながらも少し大人な顔つきで不思議だ。


……メアリーって何歳なんだろう。


いやいやいや、ゲームでリアルのことを聞くのはマナー違反だ。


「え?普通に24だけど。」


「え?」


「え?って、普通に声に出てたよ。別に年齢とか気にしてないからいいんだけど。」


そうか。


結構年離れてるんだな。


「私はね、16歳だよ。」


「えぇ!?8歳も離れてるの!?」


「そうみたい。でもメアリーとはそんなに年が離れてる感じしない。親しみやすいというか。」


「なに?私がガキっぽいって?」


「いや、別にそういうわけじゃないよ!!」


「フフッ、冗談だよ。」


メアリーの笑った表情はとてもかわいいと思った。


すごくかわいい。


すごく楽しそうな笑顔。


しかし、私はその笑顔の中に多少の寂しさを感じた。




<ここからメアリー目線>


私は一ノ瀬夏海、24歳です。


24歳といっても働いてはいない。


でも実家で暮らしているわけではないし、お金を稼いでいないわけではない。


私は大学を出ていない。


高校も中退。


世間一般的には"残念な人"として見られることが多いだろう。


でも別に私は残念だとは思わない。


いや、やっぱりそうなのかもしれない。


でも今はすごく楽しい。


私の今の全財産は……、10億を超えたところから数えていない。


高校をいじめで中退した私は親の期待を裏切ってしまった罪悪感や外の世界、他人に対する恐怖心から部屋に引きこもってしまった。


中学生のころ、テレビで引きこもりの息子がいる母親の映像を見た。


その時は「なんで部屋から出ないのだろう。普通に出ればいいのに。」


そう思っていた。


でもいざ自分がその立場に置かれるとどうして出ないのか。


いや、どうして出られないのかがわかった。


一度引きこもってしまうと後に戻れない。


出るタイミングを失ってしまったのだ。


そうして部屋にこもっている間にも積もっていく罪悪感。


ああ、どこから私の人生は狂ってしまったのだろう。


毎日のように自問自答を繰り返した。


私はネットにはまった。


ネットの世界では自分が一ノ瀬夏海ではなく、"メアリー"として生きていけたからだ。




引きこもってから2年が経過したころ、私は株に出会った。


これだけ聞いたら引きこもり無職がギャンブルに出会ったというようなひどい内容に聞こえるだろう。


実際失敗していたらそうだったのかもしれない。


でも運よくその投資は成功した。


初めは少なかったお金はみるみる増えていく。


ようやく自分でお金を稼ぐすべを見つけた。


ようやく1人で生きていけるようになれる。


口座の数字が億に突入したころ、思い切ってトイレやお風呂以外の場所、すなわちリビングへと再び足を踏み入れた。


その光景を見た母は泣き崩れた。


そりゃ2年間もろくに会話してこなかった娘が急に部屋から出てきたのだから喜ぶだろう。


私は父を幼いころに亡くし、母と2人で暮らしていた。


私はここまで女手一つで育ててくれた母にようやく恩返しができると思った。


美容院に行って髪の毛をしっかりと切り、アパレルショップで服を買い、ショッピングモールで一通り買い物を楽しんだ後、母へのプレゼントとして花束を買って帰路に就いた。


私はセンスがいいわけではないので髪型は美容師さんのお任せだし、服装も店員さんに見繕ってもらった。


でも、花束に関してだけは私が母への気持ちも込めてしっかりと選んだ。


喜んでもらえるといいな。




しかし、その花束が母の手に渡ることはなかった。


人間という生物はよくできていて、精神を守るためにも嫌な記憶は脳が受け付けないのだ。


私はリビングで倒れている母を見てからの記憶がない。


気が付いたとき、私はこの大きな家に1人だった。


知らない親戚が日々私の家のインターホンを押す。


毎日毎日毎日毎日。


父が死に、母が死に、1人になった私に「大丈夫?」なんて声をかける親戚は1人もいなかった。


遺産相続だ??


私たちが苦しかった時、誰も手を差し伸べなかったくせに。




それからは非常に素早いペースで日々が過ぎていった。


私は母が死ぬ1か月ほど前に誕生日を迎え、すでに成人していた。


相続した遺産はほとんどをお金に換え、非営利組織や命を救うための活動をしている機関へ寄付した。


私は都内の高層マンションの最上階を契約した。


マンションの1階や2階にスーパーマーケットなどの商業施設が入っているところを選んだ。


できるだけ外に出たくなかった。


本当なら母と2人で買い物をしたり旅行をしたり。


思う存分親孝行ができるはずだったのに。




広いマンションの1室に1人。


お金はずっと増えていく。


でも使い道など存在しない。


今は買い物や新しい趣味を開拓できるような状態ではなかった。


まるで数か月前に逆戻りするかのように私はネットゲームにはまっていった。


すべてがマンション内部で完結する。


私はだめな人間だ。




マンションを契約してから4年が経過した。


相変わらず私は引きこもっている。


「サンライズオンライン発売決定。」


新しい自分になれる。


自由に職業を選んでゲームの世界でのんびり、時には激しく動き回る。


今私が死んだら私はこの世界に悔いをひたすらに残し、亡霊となってこの世界を彷徨うだろう。


それは嫌だ。


悔いの無いよう、幸せに人生を歩みたい。


でもいきなり現実世界で友達を作ったり、おしゃれをしたり。


そういったことは無理だ。


なら仮想現実で。




メアリーにとってユウヒは恩人だ。


ユウヒが居なかったらきっと自身の店でただ1人商いをするだけの寂しいゲーマーになっていただろう。


もしかしたらサンライズオンラインに飽き、通常のネットゲームへ戻っていたかもしれない。


ユウヒといたらどこまでいけるのだろう。


ユウヒはどこまで私を変えてくれるのだろう。


これからが楽しみだ。


暗く狭い洞窟の中、ぼんやりと焚火を見つめながらまだ知らぬ明日へ期待を膨らませる。




ユウヒは私をどこまで連れて行ってくれるのだろう。

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