174話目
「おぉ、かちかちだね」
ゲームに戻ると、私がログアウトした地点にすでにメアリーが待機していた。
机の上に置いてあったのは、真っ黒く、一部が白くなっているようななんとも不思議な色遣いの短剣2つで、どうやら私の新しい武器にということらしい。
使用している素材はもちろん黒岩鉄鋼とマナクオーツ、それにその他のレア鉱石を少々という、とんでもなく価値のある武器である。
手で「持ってみて」と促されたので実際に持ってみると、想像以上に軽く、そして何より強度が高いのが伝わる。
鞘から今まで使っていた短剣を取り出して力任せにぶつけてみても、カキンッという甲高い音が鳴るだけで一切傷がつかない。
逆に今まで使っていた短剣は少し傷がついてしまった。
「ね?すごいでしょう?」
「これはすごい!切れ味もすごくよさそうだし!」
アイテムボックスからいらない紙を取り出して上にのせてみると、短剣に触れた時、まるで何事もなかったかのように落下を続ける。
ただ、1枚だった紙は2枚に増え、大きさもそれぞれ半分に。
:やべ
:マジで切れ味いいな
:ほしー
:ほしい
:俺にも作って
:マジでほしい
「こんだけたくさん素材を持ってきてくれたから、しばらくは困らなそう。ありがと」
「いやいや、全然いいよ!私1人だったら価値を見出せなかったしね」
そういえば、せっかく配信を見てくれているリスナーのみんなに、私は何もできていない気がする。
鉱石採取のアドバイスもくれたし、1つなにかプレゼントでもやった方がいいのだろうか?
そうなったらやっぱり黒岩鉄鋼とマナクオーツを使うべきかな?
「ねぇねぇメアリー、黒岩鉄鋼とマナクオーツをふんだんに使って作った武器を今見てる人にプレゼントするって、どうかな?」
「プレゼント?いいんじゃないかしら」
:プレゼント!
:きたぁぁぁぁぁああああ
:まじか!
:最高最高!
:やばい
:ほしい
:きたッ来たッ!
:プレゼントだ!
:きたああああ
“プレゼント”という単語には、この世の中に生きているほとんどの人が反応するだろう。
もちろんそれはリスナーも一緒で、コメントでは大盛り上がりを見せている。
そして、あっという間に拡散されているのか、どんどん視聴者が増えていっている。
「でもいいのユウヒ、もし強い武器を渡してしまったら、大会で負けちゃうかもしれないわよ?」
「負けないから大丈夫」
「それもそうね」
ということで、プレゼント企画が実施されることになった。
「じゃあ、いまユウヒ配信のコメントに応募用のフォーム張り付けるから、そこにID書いてね。すぐ締め切るからお早めに~」
こう言ったことは私より慣れているメアリーにやってもらった方が確実なので、ここから先はメアリーにお任せすることにした。
すぐ応募用のフォームを張り付けると、あっという間に応募数は伸びていく。
一生頑張っても手に入るかわからないような超超高級武器を無料で手に入れることができる。
しかもその素材を集めたのは正真正銘最強プレイヤーの1人であるユウヒで、その素材を使って自分専用の武器を作ってくれるのは、超有名配信者で、同じく最強プレイヤーの1人、そしてゲーム内随一の鍛冶の腕と言われるメアリーである。
どんどん応募が増えていくフォームのIDを見ていると、知っているような名前もちらほら映る。
メルや、レイヴさんも応募してくれているらしい。
あ、Sakuraもいる。
「はい、そろそろ締め切るよー」
そんなに長く待っていられないのでさっさと締め切っちゃうことにした。
応募総数は12万を超えている。
「じゃあ抽選しまーす!」
:頼む
:頼む当たってくれ
:お願いだ
:神よ
:頼む
:お願い
:お願い
:頼むよぉ
:〈Sakura〉あたれーあたれー
:お願いだ!




