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173話目

たまにメアリーが武器を作っているところを横から見たりするけど、正直言って何もわからなくて暇をしているので、今日はあの蒸し暑い工房にはいかないことにした。


その間、特にやることもなくて正直暇なので、ログアウトして珍しくリアルでの配信をすることにする。


メアリーにしっかりと許可を取ったので、軽い部屋紹介とか雑談とかをしようかなって。


「じゃあ一瞬映像切れますので、よろしくお願いします!」


そう告げると、配信画面をオフにしてすぐにログアウトボタンをタッチする。


意識が吸い込まれていったと思えば、すぐに元通りになって、気が付いたときにはいつもの見知った天井を眺めていた。


「急いで準備しないと!」


この間、視聴者は何も映らず何も音のしない無の空間をひたすらに眺めていることだろう。


それはあまりに時間が無駄だし、何とも虚しい空間である。


「ったーッ!」


途中、ドアに小指をぶつけるといったアクシデントも発生したが、それを乗り越えてしっかりと配信の準備を整えた。


配信用の少しいいスマートフォンにカメラをつなげて表示する。


:きた!

:久しぶりの実写だ

:天使おる

:かわゆ

:ちいさい

:かわいい

:メアリーの寝顔カモン

:始まった

:おお

:やほー

:かわいい


「あ、付いてる?大丈夫そうだね。ということでお待たせしました。多分実写見たの初めての人もいると思うから驚いたかもだけど、どうも」


カメラに向かって話しかけるのってなんとも恥ずかしい感じはあるが、一度始まってしまえばなんともなかったりする。


コメントは、目が回りそうなスピードでどんどんと流れていく。


「えっと、メアリーの寝顔?」


途中、そんなコメントが目に入ったのだが、これはメアリーにばれたら怒られてしまうだろうか……。


まぁ、何とかなるかな?


:〈メアリーチャンネル〉ちょっとどんな感じになってるか気になるからやってみて

:おっ!

:本人きた


「いいのね?じゃあ早速部屋移動するね」


今は配信用に準備された部屋で配信をしていたのだが、ササッと移動してしまうことにする。


メアリーは今やっていることに集中したほうがいいのではないかと思ったのだが、メアリーのレベル的に失敗することはほんとにないらしく、ただひたすらに素材を打ち付けるのも暇なので、ラジオ感覚で聞いているらしい。


別に支障がないなら構わないが、せっかくのレア素材無駄にはしないでほしい。


「じゃあ、はいりまーす」


どうせ起きてないので意味はないのだろうが、一応軽く3回ほど扉をノックして、「失礼しまーす」と小さくつぶやきながら扉を開ける。


いつも通り、フルダイブ用のゲーム機が横に2つ並んだゲーム部屋。


改めてみると相当殺風景だが、VR以外の用途で使用しないので別にこれで構わない。


そんなゲーム機の1つに、夏海は静かに目を瞑りながら横たわっていた。


:おお

:おおっ

:寝てる

:〈メアリーチャンネル〉私じゃん!!私がいるぞ!

:はえぇ、よそから見ればこんな感じなのか

:ていうか同じ部屋でゲームやってるのね

:部屋くら

:贅沢な部屋の使い方だな

:おお

:メアリー寝てる


メアリーは私よりファンが多いので、様子を映すだけで相当配信は盛り上がる。


やはり彼女はすごい人だ。


「何となくいけないことしてる気分になるねこれ」


:わかる

:確かにね

:それは確かに

:わかる


別に許可もしっかりもらっているし、自身の家なのだからまったくもって何の問題もないのだが、何となく背徳的な気分になる。


あまり長居してもよくないと思ったので、ほどほどのタイミングで部屋を出てしまうことにした。


「はい。まあこんな感じです。ほかに見たいところとかある?」


:リビング見せて


「リビング?いいよ」


今いるのが2階で、リビングは1階にあるのでとたとたと音を立てながら軽やかに階段を下る。


「はい。ここがリビングです。ちょっと汚いかもだけど、最近掃除したから大丈夫かな?」


:ひっろ

:広すぎる

:ひっっっっっろッ

:マジで広い

:豪邸で草

:マジかよ

:マジで金だけはあるなこいつ

:広すぎ

:天井高

:あれが例のソファーか


「ん?例のソファー?ああ、そういうこと」


メアリーの配信の十八番と言えば酒飲みである。


私がお布団で寝始めた後、ひそひそと配信をつけてはお酒を飲んでいるのを知っている。


その会場がリビングに置いてあるいつものソファーというわけだ。


「せっかくだし、私も似たようなことしてみる?」


冷蔵庫を開けて、冷やしておいた瓶のオレンジジュースを取り出す。


おしゃれに干してあるグラスもとって机へと運ぶ。


メアリーがいつも使っているカメラスタンドにカメラを固定して、ソファーに深く腰を掛けてから、机に掛けてある栓抜きを使って瓶を開ける。


トクトクと音を立てながら注がれたオレンジジュースには、豪華にも果肉が舞っており、見ているだけで唾液が出てくる。


:マジでうまそう

:ワイもオレンジジュースだしたで。スーパーの安物だけど

:メアリーとはだいぶ違ってなんかおしゃれ

:うわぁ、いいな


「いただきます」


美味しい飲み方とか正直わからないので、両手で抱えるようにグラスを持って一口、二口と口をつける。


舌に伝わってくる果肉の感覚と、とろとろした濃い目の味わい。


乾いた喉にしみわたるよく冷やされたオレンジジュース。


「ぷはっ、やっぱりオレンジジュースはおいしい!」


量を入れたために口周りについてしまったオレンジジュースをウェットティッシュで拭う。


:ユウヒちゃんメアリーとの同居はどう?

:あ、それ俺も気になる


「同居?楽しいよ。でも、ちょっと片付けしてほしいなとは思うね」


:ああ、解釈一致


「片付け以外は基本的に私を気にかけてくれるし、何かトラブルが発生するわけでもないし、理想的な空間で毎日元気です。お風呂広いし、ベッドも広いし、気兼ねなくゲームができるっていうのが幸せ。オフィスも近いし、何より、誰かが家にいるっていう安心感はあるかな。ここに来る前は基本1人だったから」


:幸せそうならよかったよ

:メアリーあんなのだからちょっと心配なんだけど、楽しそうでよかった

:〈メアリーチャンネル〉ちょっと恥ずかしいんだけど……、ていうか、できたから戻ってきてね


「お?できた?」


もっと部屋紹介とかしようと思っていたのだけれど、思った以上に早く完成したらしいので、ササッともどってしまうことにした。

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