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165話目 1匹いたら100匹いると思え

「もうッ!さっきからッ!うざったいッ!」


ジャングルをしばらく歩くと、謎の虫型モンスターに襲われ、今はその対応に当たっている。


思考加速を使いながら、まとわりついてくる体長5㎝ほどの虫型モンスターを切っていく。


思考加速を使いでもしないと裁けないほどの量のモンスターが出てくるのは初めてだ。


「ユウヒー、がんばってー」


「わかってるよッ!」


ユウヒを除いた3人は、この小さな虫型モンスターに対しては武器的にも分が悪いと判断され、メアリーによって作られたシェルターの中へ一時避難している。


そのため、この膨大な量の虫を1人で裁かないといけないのだ。


自身の使えるスキルをフル動員しながら、一匹一匹正確に打倒していく。


「ああ、もうッ、せっかくきれいにしたのに!」


倒された虫は、私に向かって突進している最中に倒されるのだから、飛ぶ能力を失った後も、攻撃手段もない状態でもこちらへと突撃してくる。


その虫が私の服に着くたびに、体の一部を引っ付けては、地面へと落下していく。


おかげでせっかく着替えた服はあっという間に汚れてしまっている。


本当なら戦いを中断してでも払いたいところだが、どうやら目の前の莫大な量の虫型モンスターはそれを許さないらしい。


虫型モンスターの名前は『トロピカサルツローチ』といい、ローチという名前から想像がつくように、あの暗くてじめじめしたところを好むあいつ。


どこからともなく現れては私たちの精神を蝕むあいつ。


黒光りし、薄くすばしっこい嫌われ者。


そう、ゴキブリだ。


戦闘で疲弊した体に、突進してくるゴキブリは、さらに精神までをも疲弊させていく。


1匹いたら100匹いると思え。


では、数えきれないほどいたら何匹いると思えばいいのだろうか。


「ああ、もう!」


攻撃力はさほど高くない。


別に放置しても私たちのレベルなら痒くもないレベルの攻撃しか与えてこない。


ただ、これを放置するという考えは浮かんでは来なかった。










「ユウヒ、お疲れ様」


「メアリーッ!」


私のことを考えてか、探索を一度中断して3層にあるメアリー武具店へと戻って来た。


慰めるように頭をなでるメアリーに、私の心のうちに閉じ込めていた悲しみがあふれだす。


思わず抱き着く私を、哀れな子を見るような目で見つめてくる3人。


「ほんとにお疲れ様です。ゆっくり休んでください」


「おつかれ!私が魔法で焼き払ってもよかったんだけど、そうしたらジャングルまで燃えちゃってただろうから……」












「今日探索してみてわかったけれど、あのジャングルは相当不快ね。変な植物はあるわ、不快なモンスターは出るわ、それでいてどことなく不気味な雰囲気。あまり足を踏み入れたいとは思わないわ」


そう先ほどまでの不幸を恨むかのようにゆっくりと言葉を発するメアリー。


一息ついて続ける。


「……しかも、その狙う対象がユウヒっていうのもその、あれだね……」


「「あぁ……」」


あのジャングルに入ってから、不幸が多く発生しているのは私だ。


ほかの3人からすれば自身に不幸が降りかからなくてうれしいが私からしてみればたまったものではない。


「だめ。ほんとに行きたくない。トラウマ」


心からの本心である。


復帰早々どうしてこんなにメンタルをやられなければならないのか。


そのことに深く疑問を抱きながらも、時間も時間の為に一度ログアウトして、また明日考えることとする。










「夕日、今日はずいぶんと大変だったね」


「ほんとだよ……。正直もうあのゲーム開きたくない」


そういうと、夏海はゲーム機から降りて、ゆっくりと私のゲーム機の方へと近づいてくる。


そして、こちらをのぞき込むと、私の頬に手を当ててむぎゅっと押し込んだ。


「もう、そんなこと言わないで。たまたま運が悪かったんだよ」


「そ、それもそうだけど……」


そう目線をそらして言うと、夏海は突然手を大きく叩いた。


「よしッ!今はそんなこと忘れて、お風呂にでもはいろっか!」


そう言って私を抱えるようにゲーム機から取り出した。


ゲーム内のアバターの身長差はそこまでではない。


ただ、現実となると身長差はずいぶんあるのだ。


年齢も離れていて、体格だって結構違う。


端から見れば年の離れた姉妹のように見えるだろう。


実際、夏海は姉らしく振舞うから、思わず甘えたくもなるものだ。


さっとお風呂に入って気分をリフレッシュした私たちは、いやなことをすべて忘れて食事を食べ、長い睡眠をとった。










「はぁ、やりますか……」


気分は乗らないが、ログインしないことには話は進まない。


いつも通りにゲーム機に寝ころび、電源をつける。


「ゲームスタート」


どんなに辛いことがあっても、やはりこのサンライズファンタジーからは逃れられないようだ。

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