161話目 復帰
「「「ユウヒ、退院おめでとう!!」」」
「みんな!ありがとう!!」
家に帰って来た私たちは、あまりのゲームやりたい衝動を抑えることができず、流れるようにサンライズファンタジーの世界にやって来た。
私がログイン状態になったのに気が付いたのか、メアリーが連絡したのかわからないが、私がメアリー武具店に入ったころには、すでに音符猫とアルミが待機していた。
「いいな~、2人で旅行なんて!」
「そうですよ。私たちも誘ってくれれば行きましたよ……」
「いいの~、ていうかあまりにも流れが速すぎて誘えなかったんだよ」
「そうね。家についてすぐにユウヒが行こうって言ってたから、誘う時間なんてなかったわ。」
少し拗ねたような表情をしている2人だが、そこまで本気で言っているわけではないということはわかっている。
元よりこのチームは私とメアリーで組んだSunsetを全身にできたものだ。
そして、ユウヒとメアリーは一緒に住んでいるほど仲がいい。
そんな2人の旅行に割って入るようなことはしないだろう。
「また行こうよ!今度はこの4人で!」
「いいね!温泉行きたい!!」
ユウヒがいなくて何となく暗いような、落ち込んだような雰囲気が漂っていたFoxAgainサンライズファンタジー部門に、いつものなんてことない日常が戻って来た。
「じゃあ、ユウヒも戻ってきたことだし、新しく開放された4層に行きたいと思うんだけど、みんな大丈夫?」
「あ、そういえば4層出たんだってね」
今からさかのぼること1週間前に4層が公開された。
4層へ行くための条件は3層にいるボスを倒すこと。
「で、そのボスがいるところなんだけどね、またそこが厄介で、まだほとんどの人がボス部屋にすら行けていないのよ」
どうやら行き方に関する情報もとある有名なプレイヤーから発せられたものしかないらしく、捜索は困難を極めているとか……。
「そのプレイヤーも情報出してくれればいいのにね。病み上がり一発目がボス部屋探しかぁ……」
「まあこの話には続きがあるのよ。そのプレイヤーこそが私たちの目の前にいるユウヒっていうわけなね」
「「おぉ~!」」
「え?は?」
「ということで、今回のボス部屋があるのはケーブレイクタウンです!」
「あ、そういうことね!だからSNSに行き方教えてくださいっていうのが来てたのか!」
ユウヒはそういえば1週間前から動画やSNSにたくさんのコメントがついていたことを思い出した。
「で、なんだって?情報を公開しないとだって?」
「あぇ、えっと、何でもないです」
4人で改めてケーブレイクタウンへと向かった時、うっかり配信をつけるのを忘れてしまったため、細かい行き方紹介も出ていない。
ありゃ気が付かないよね。
大量のモンスターが潜む水の中にダイブするなんて馬鹿なことしないわ。
私もやりたくて水の中に飛び込んだわけではないし、ケルピーに引きずり込まれて結果的にあそこに着いただけだからね。
……仕方ないからあとで細かい行き方を上げておこう。
「一応ボスの詳細に関しては公式から発表されていて、名前は“キングクラブ”で、カニの形をしたモンスターよ。基本的に横移動しかしないらしいからそこまで強いとは言えないらしいのだけれど、はさみで挟まれると即死で、防御力が高いらしい」
「なるほどね、じゃあ、カニの捌き方でも動画見る?」
「「「は?」」」
『捌いていくッ!』
きまぐれ系投稿者のカニを捌く動画を見て攻略方法を頭に刻み込んだ。
「私、今ならカニを捌けそう!」
「注文しとく?あとで一緒に捌いてみる?」
「そこのお2人、ボスの攻略が先ですからね」
「そうだぞ!」
どうやらカニは関節を決めるといいらしい。
あと、ゆでる時は甲羅を下にして……って、それは関係ないか。
「まさかお料理チャンネルで攻略方法を学ぶとは思わなかったわ」
「いやぁ、またユウヒが突拍子もないこと言いだしたかと思ったら、案外まともでびっくり」
「なんだって!?」
わちゃわちゃと騒ぎながらも、私たちはケーブレイクタウン中心部に現れたボス部屋への入口へと足を踏み入れていった。




