150話目
音符猫とアルミから送られてくる大量のメッセージ
『どうして早く言ってくれなかったの!?』とか、『大丈夫?』とか、多種多様なメッセージが送られてきている。
こうやって心配してくれるのはうれしい、けど……、さすがにここまで量送られると返信に困る。
ひとまず『1か月入院することになった。でも大丈夫だから心配しないで。』と返しておいた。
すると、数秒と経たないうちに返信が帰って来た。
『1か月、それはまたなかなかの入院ですね。体調には気を付けて、無理はしないようにしてください。』
送り元はアルミ。
今はプロゲーマーになったからこの病院にはいないけど、もしまだここで看護師として活躍してくれていたら、この入院ももっと楽になったのかもしれないな。
そう自分勝手な考えを浮かべる。
だが、現実はそこまで甘くないもので、再び放り込まれたこの病院の中に顔の見知った人はごく少数しかいない。
「憂鬱だ……」
頭が痛い。
寒気がする。
吐き気を感じる。
こんな状態の中でも、最も辛いものは孤独だ。
室内に備え付けられていた“健康”という意味を持つマリーゴールドの入れられている花瓶を眺めていると、ガラガラと音を立てながら看護師の押す車いすに乗った少女がやって来た。
その少女は私を見ると、軽く頭を下げる動作をし、手伝ってもらいながらベッドに横になった。
看護師は2人のベッドの間にあるカーテンをがらりと閉め、忙しそうな様子で部屋から出て行き、この部屋には私と少女の2人切りになった。
ただ、区切られた区画にそれぞれ入れられている私たちは、それぞれぼうっと天井を見上げるしかすることはない。
夜間に飛び入りでやって来た私を受け入れてくれた病院には感謝だ。
夜間の病院は何となく不気味な雰囲気だ。
部屋の中は、廊下から差し込んでくる光のみで照らされ、暗くもなく明るくもなくの不思議な明暗。
光に当てられる私の後ろには、私を真似して動く黒い影がある。
(子供の頃は影をお化けと勘違いしてよく泣いてたっけなぁ……)
やはりいろいろと思い出すものである。
そりゃああれだけの時間をここで過ごしてきていたのだから、外よりも思い出というものはある。
ただ、記憶というものは辛いものほど長く頭のメモリーを占領し続けるというのが悲しいことである。
ろくな思い出がない。
時間はどんどん流れるが、同じ部屋の中にいるにもかかわらず2人は一切会話をすることもなく、気が付いた頃には2人の静かな寝息が響いていた。




