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113話目 最後の壁

ゲーム内の時間加速が入ることもあって、大会の開始時刻は21時から。


しかし、私は朝の6時に目を覚ました。


理由はこの世の終わりのような頭痛に腹痛、吐き気と眩暈に、まるで極寒の雪山の中にでも放り込まれたかのような寒気。


完全に忘れていた。


一番重い病気が治ったとはいっても、私の体は極めて弱かったのだ。


辛すぎる。


私は夏海に気付いてほしくて声を出そうとしたが、あまりの体調不良に声も出ず、体も思うように動かない。


だが、少しだけ動かせる腕を一生懸命に動かし、夏海の手をぎゅっと握る。


手を握ると少し症状が和らいだように感じた。


そのまま私は吸い込まれるかのように深い眠りについた。





何もないただ真っ暗な空間にうっすらと声が聞こえていた。


この声はなんだ?


耳を澄まして聞いてみると、それはなじみのある声であり、私のことを必死に呼んでいた。


ああ、早くこの暗闇から抜け出さないといけない。




気が付いたとき、私の上に跨がり、ひたすらに私の名前を呼んでいる夏海の姿があった。


その顔にはうっすらと涙を浮かべて。


「ちょっと夕日!大丈夫なの!?」


「……やばいかも。」


大丈夫と言おうとした。


先ほどよりはましにはなったと言え、まだ体調不良は続いている。


命の危険を感じるほどの体調不良で、正直にやばいと伝えた。


夏海は大急ぎで部屋を出たかと思うと、すぐさま体温計を握りしめて戻って来た。


「測って!」


私はされるがままにわきの下に体温計を差し込み、腕でぎゅっと挟み込んだ。




ピピっという音とともに体温計に示されたのは41,3度。


「は!?何この数字!ど、どうしようどうしよう!!救急車!」


救急車?


それはだめだ、絶対にダメ。


私はとっさに夏海の腕を掴んだ。


「だめ。」


「ど、どうして!?」


「私が病院に行ったら大会に出られなくなっちゃう。」


私がそういうと、驚いたような、悲しいような得も言われぬ顔を見せた夏海は、優しく私に声をかけてくれた。


「夕日。大会は今回だけではないんだよ。私たちのことなんて考えなくていいから。」


違う。


今私が欲しい言葉はそんな言葉ではない。


私は思わず黙り込んでしまった。


そんな私を見た夏海は、救急車ではないどこかに電話をかけたようだった。


おそらく何を言っても無駄だと感付いたのだろう。




しばらくして、大きな機材とともに複数人の医師がやって来た。


医師が来るまでの間に解熱剤を飲んでいたが、依然として40度を超える高熱だ。


体調だってまだ悪い。


医師たちは機材を使って私を診断した後、夏海と軽く会話をしてすぐに帰っていった。


夏海は一度家を出てどこかへ行ったと思ったら、薬の入った袋を握りしめて帰って来た。


どうやらマンションの下にある薬局へと行っていたようだ。


そして、私の元にやって来た夏海は、そっとベッドに腰を掛けた。


「どう?」


「変わらない。」


夏海が小さなため息をついた。


「医師は、大会に出るのはやめておいた方がいいと言っていた。」


「それでも――――――」


私の言葉を遮るかのように、夏海は言葉をつづけた。


「出たいんでしょ?夕日がそうしたいなら私は止めない。でも、開始直前までに落ち着かないようだったら私は止める。」


買って来たゼリーを口の中に入れ、食べ終わったことを見てもらってきた薬を渡してくる。


それを私はすべて飲んだ。


「起きた時、夕日は汗をかきながら魘されていた。……私の気持ちも考えてね?」


もし私が夏海の立場だったら、心配で心配で胸が締め付けられるような思いをするだろう。


私は今その思いを夏海にさせてしまっている。


「わかった。……でも心配させたくないから、音符ちゃんとアルミには黙ってくれる?」


「もちろん。」


今私のやることは大会に向けたゲーム内の最終調整をすることではない。


大会に出るための最後の壁を打ち破っていかなければ。

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