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6、いつもの饅頭

 境内のイチョウの木がすっかり黄色くなった頃、隆幸さんに買い物を頼まれて神社から少し離れたスーパーにきていた俺は、よく参拝にきていたおばあさんに会った。

「あら、あなた、神路神社にいるお兄さんよね?」

「あ、はい」

声をかけられて驚きながらうなずくと、おばあさんは「最近お参りに行けなくてごめんなさいね」と小さく笑った。

「足の調子が悪くてね。あそこまで行くのが大変になってしまったの」

「無理はしないほうがいいです。無理しても神様は喜ばないと思うから」

俺が言うとおばあさんは「ありがとう」と柔らかく微笑んだ。

「そうだわ。あなた、少しお使いを頼まれてくれないかしら?」

「お使い?」

「ええ。いつも神社に行くときお饅頭を作って持っていっていたんだけど、ちょうど栗饅頭を作ったの。わたしのかわりにお供えしてくれないかしら」

「いいですよ。これから神社に帰るとこだし」

俺の答えにおばあさんは嬉しそうに笑った。

 それから俺はおばあさんの家に行って栗饅頭を受け取り神社に帰った。

「冬馬くん、おかえり。あれ、その包みどうしたの?」

「ただいまです。えっと、いつも参拝にきてたおばあさんに会って、栗饅頭を供えてほしいって預かってきました」

俺の言葉に隆幸さんは驚いた顔をしながらもにこりと笑った。

「いつもお饅頭を持ってきてくれてたおばあさんだね。最近来ないからどうしたのかと思ってたよ」

「スーパーで会いました。足の調子が悪いそうです」

「そっか。あのスーパーはここから少し離れるし、あの辺にお住まいなら歩いてくるのは大変だもんね」

隆幸さんは少し寂しそうに笑うとお供え用の皿に栗饅頭を綺麗に盛り付けてくれた。

「冬馬くんが預かってきたんだから冬馬くんがお供えしてくるといいよ」

「わかりました」

うなずいた俺は栗饅頭の皿を持って社殿に行った。神様はいつものように社殿の屋根に座っていたが、俺が栗饅頭を持っていくとふわりと降りてきて俺の周りをふわふわ飛んでいた。

 祭壇に皿をおいて手を合わせる。栗饅頭が神様の前に現れると神様は嬉しそうにそれを食べ始めた。

「これ作ってくれたおばあさん、足の調子が悪くてここまで来るのは大変なんだそうです。だから、これからは俺が時々饅頭預かってきます」

手を合わせたままおばあさんが来られない理由、おばあさんとした約束を話すと、神様は寂しそうな顔をしたあと、俺の頭をふわりと撫でた。

『ありがとう』

優しく心地よい声が頭に響く。バッと顔を上げると、神様がふわりと微笑んでいた。

 そのまま神様は俺の前から消えて社殿の屋根に帰っていった。俺は初めて聞いた神様の声に驚きすぎてしばらくその場を動けなかった。

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