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神様は人の子を見る・6、白羽

 我には昔から何かと声をかけてくる知己がいた。あれは神ではあるが、我と違って社に祀られているわけではない。どこに縛られることもない。故にいつもふらふらとあちこちを渡り歩き、時折ふらりと我の元を訪れる。それは名を白羽といったが、その白羽がよりにもよって我の愛し子に気づいたらしい。いきなりやってきてはあの子に声をかけていた。

『やめろ!この子に触れるな!関わるな!』

思わず常には出さない大きな声を出してしまい、あの子はキョトンとした顔をしていたが、白羽はおかしそうに笑っていた。それがさらに我を苛立たせる。それをわかっていてなお、白羽は楽しげに笑っていた。

『よほどに気に入りと見えるな』

『もういいだろう!さっさと帰れ!』

そう言うと白羽は笑いながら、またくると飛び去っていった。まったく相変わらず神出鬼没な奴だと思っていると、愛し子に「神さまにも友だちがいたんですね」と言われて我は二の句が告げなかった。あれが友?確かに飄々をしているようで何かと気にかけていることもあるが、まさかそれを友と呼ばれるとは思わなかった。なるほど、人はこういう関係を友と呼ぶのかと思っていると、愛し子は「俺もよくわからないんですけどね」と言って笑っていた。


 それから数日、姿を見ないと思っていたが、まさかあの子を抱いて神社まで飛んでくるとは思わなかった。

『もう関わるなと言っただろう!』

思わず怒鳴ると雪で滑ったら危ないだろうなどと見当違いな答えが返ってくる。そして愛し子に名を教えていた。まさかこの子の名を聞くつもりかと思ったが、そこはさすがに名乗らぬようにと言っていた。そして、この子を狙うものがいると言う。それは初耳だった。

 その日の夜に、白羽はまた我の元へやってきた。白銀の羽を優雅にはためかせるさまは夜空に映えて美しかったが、社殿の屋根に降り立った白羽が酒の入った甕を見せてニヤリと笑うと儚げな美しさは霧散してしまった。

「また来たのか」

「今度は酒を持ってくると言ったろう!それに、おぬしの耳に入れておきたいこともあった」

そう言った白羽の表情から笑みが消える。その様子に我は眉間に皺を寄せた。

「あの子を狙う輩のことか?」

「それもあるが、おぬしの愛し子の話は神々の中でも広がっている。気難しいおぬしが気に入ったんだ。よほどに美しい魂の持ち主なんだろうとな」

白羽の言葉にざわりと我の周りの空気が動く。不機嫌さを抑えきれない我に白羽はため息をついて肩をすくめた。

「他人の気に入りに手を出すほど神は愚かじゃないさ。だが、その愛し子を人質にしておぬしを神の座から蹴落とそうとしている輩がいるらしい」

「ほう?」

穏やかならぬ話に自分でも驚くほど低い声が出る。白羽は気にしたふうもなく続けた。

「昔、大罪を犯しておぬしに神格を剥奪されたものがいただろう?あれが密かに力をつけているという話を聞いた。確証はないが、気にかけておいてもいいだろう。あれはおぬしを恨んでいるだろうからな」

「あやつか。己の罪を棚上げして我を恨むなど、逆恨みも甚だしい。実に迷惑な話だ」

我が神格を剥奪したもの、それはひとりしかいない。忘れるわけのない相手の名が出て知らず表情がさらに険しくなる。白羽の言うとおり、あれは罪を犯したあやつに非がある。そしてたまたま罰したのが我だったというだけで、恨まれるなど迷惑極まりなかった。

「白羽、我はこの神社の敷地から簡単には出られぬ。外であの子に何かあればすぐにわかるが、すぐには助けに行けぬ」

「まあそうだろうな。人に縛られ社に縛られ、不自由極まりないことだ」

「故に、そなたがしばらくここにいると言うのなら、我のかわりにあの子を守ってやってはくれぬか?」

我の言葉に白羽は目を丸くして驚いていた。

「まさか、おぬしが私に頼み事とはな。それほどにあの子は大切か?」

「そうだ。あの子がここにきてから、目の前の景色に色がついた。あの子を我のせいで失いたくはない」

嘘偽りない我の言葉に白羽はいつものからかいを含んだ笑みではなく、慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

「承知した。では、私がおぬしの代わりに外でのあの子を守るとしよう。おぬしにそこまで言わせるのだ。あの子のそばにいればそれなりに退屈せずにすみそうだ」

「くれぐれも要らぬことをするなよ」

白羽は元来人を驚かせることを喜びとするところがある。念を押すことを忘れずに言うと、白羽は楽しげに笑って空に飛び立った。

「案ずるな!他ならぬおぬしからの頼まれ事だ。しっかり護衛する。良からぬ噂についてもまた何か聞いたらおぬしに必ず伝えよう!」

そう言って白羽は飛び去っていった。闇夜に真白く光るの姿を見つめながら、我は知らずにほうっと息を吐いた。

 ここにずっといると見えぬこと、気づかぬことは多々ある。そういう我の耳に入らぬ話を持ってきてくれる白羽の存在はやはり貴重だった。

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