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16、狙われたのは俺

 白羽様はちょくちょく神社に来るようになった。俺が神社に行く途中に声をかけてくれてそのまま一緒に神社に行ったり、神社に来ていて俺が帰ろうとすると一緒に行こうと言ってくれたり、静華様に会いにきているわりに、俺のそばにいることも多いような気がした。

「白羽様、毎回送ってもらうのも悪いし、今日は寄るところがあるから先に帰ります」

風が少し強い日、バイトが終わって帰ろうとしていると白羽様がいつものように『一緒に帰ろう』と言ってくれた。でも、この日は買い物をしようと思っていたし、毎回送ってもらうのも悪いからと白羽様に頭を下げて神社を出た。白羽様は有無を言わさず背を向けた俺に『何かに追いかけられても振り向くなよ!』と言っていた。


 母親の誕生日がそろそろ間近に迫っていた。いつもはプレゼントなんて用意できなくて、小さなケーキを買うくらいしかできなかったが、神社でのバイトの給料が思ったよりも高くて今年は何かプレゼントを贈ろうと思った。そのプレゼントを何にするか、品物や値段を見るのに俺は近くの百貨店に行った。

 百貨店なんて初めて入った俺はとりあえず服を見たがあまりの高さに諦めた。服と一緒に並んでいたマフラーや手袋ならどうにか買えそうだと思い、店員に相談しながら俺はなんとか手袋を購入した。手触りのいいクリーム色の手袋をプレゼント用に包んでもらう。思えば母親に食べ物以外を買ったのは初めてだった。


 百貨店を出ると外はすっかり暗くなっていた。暖かい屋内から寒い外に出たせいで体が震える。俺は白い息を吐きながら足早に帰路についた。

 しばらく歩いていると、後ろからついてくる気配を感じた。だが、その気配は普通の人間とはあまりに違っていた。その異質な気配に自然と足が早くなる。そうするとついてくる気配も音もなくスピードをあげた。

 何故か振り向いてはいけない気がして、追いかけられても振り向くなという白羽様の言葉を思い出して、俺は後ろを見ずに歩いた。早足はいつの間にか駆け足になる。それでもついてくるものは音もなく背後にいた。

「っ!」

徐々に距離を詰めてくるソレが俺に手を伸ばすのがわかる。もう少しで肩を掴まれると思ったとき、ひらっと目の前に白い羽が舞った。

『やれやれ、危ないところだったな』

静かな声と共にゴウッ!!と突風が吹く。その風は俺を追ってきたものを容赦なく切り刻んだ。

「白羽様…」

『私の言い付けを守ってよく振り向かなかったな。偉いぞ』

突風で思わず後ろを向いた俺に白羽様がにこりを笑う。小さい子どもにするように頭を撫でられると俺は腰が抜けて座り込んだ。心臓がドキドキと信じられないくらい激しく脈打っている。こんなに恐怖を感じたのは初めてだった。

『怖い思いをさせてすまなかったな。どこも怪我はないか?』

「大丈夫、です」

なんとかうなずくと白羽様は俺の前にしゃがんでポンポンとまた頭を撫でてくれた。

『あれは生まれたばかりの妖だ。きみから静華の気配を感じ取って狙ったのだろう』

「捕まったら、どうなるんですか?」

俺の問いかけに白羽様は困ったような顔をして『喰われる』と言った。

『本当に無事でよかった』

「喰われるって、今までそんなことなかったのに」

『静華との距離が最近近いのではないか?言葉を交わすようになったのも最近と聞いている。距離飛行近くなったからか、静華の気配をきみから感じる。弱い低級の妖は強い力に惹かれるからな』

白羽様の言葉に俺は最近毎日静華様のそばにいることを思い出した。確かに前は社殿の上にいるのを眺めたりする程度だった。それが、最近は毎日そばにいるし言葉も交わしている。それが妖を引き寄せたと言われても、俺にはどうしたらいいかわからなかった。

「もしかして、最近よく俺と一緒に神社に行ったり神社から帰ったりしてたのって、ああいうのから守ってくれてたんですか?」

『聡いな。半分正解だ。こういう弱い奴から守るというのもあったが、どうにもきみを狙っている輩がいるようでな。神社を動けぬ静華に代わり護衛していた』

白羽様はそう言うと『黙っていてすまなかった』と謝ってくれた。

「えっと、守ってくれてありがとうございました。さっきみたいなのに狙われる理由はわかりました、あとはなんで俺が狙われてるんですか?」

『それはきみが静華の愛し子だからさ。きみが死ねば静華は悲しみと怒りのあまり穢れを生み出す存在に堕ちてしまうかもしれぬ。あれを神の座から引きずり下ろそうとしている輩がいるのさ』

白羽様の言葉に俺は顔をしかめた。つまり、静華様の愛し子とは俺のことで、俺を殺すと静華様が神様でいられなくということか?バカな俺にはそれくらいしか理解できなかった。

『そう心配そうな顔をするな。きみのことは私がしっかり守ってやろう』

「ありがとうございます。でも、いいんですか?」

『静華がやっと見つけた愛し子だ。護衛をするなんてのはなんということもない』

そう言って笑った白羽様に俺は「よろしくお願いします」と頭を下げた。

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