神様は人の子を見る・3、人の子の命は儚い
秋になり、境内のイチョウが黄色く色づいたある日、あの子が栗饅頭を供えてくれた。それは、毎年秋になるととある人の子の手によって供えられていたものだった。栗饅頭に限らずお参りにくるたび供えられる饅頭は我の密かな楽しみだったが、最近はめっきり減っていた。
人の子の命は短い。ここにくるようになった頃はまだ子どもであったのに、あっという間に娘になり、母になり、老婆になっていた。それでも忘れず詣でてくれるのは嬉しいことだった。
そんな栗饅頭をあの子が供えてくれた。そして、あの人の子が来られない訳も教えてくれた。本当に、人の命とは儚いものだ。
我が礼を言うとあの子はひどく驚いた顔をしていた。そうだろう。我があの子に話しかけたことはなかったし、あの子が我に話しかけたこともなかったのだから。
季節が変わり、そろそろ雪も降ろうかという寒さの夜、社殿の屋根に座って星を眺めていると人の子の気配がした。こんな時間になんだと思って目を向けると、そこにいたのはまだ幼い子どもだった。この寒空の下を歩くにはあまりに薄着で、しかもまだ親の庇護下にあるはずの幼さなのにその親の姿がない。幼子は震えながら社殿にくると寒さをしのぐためか床下に入っていった。床下などそうそう人目につかない。今夜は特に冷え込む。幼子の命など簡単に消えてしまうと思った我は、あの子に向けて必死に呼び掛けた。我ではこの幼く儚い命を助けられない。それが歯痒くて仕方なかった。
早くこい!急がなければ手遅れになる!
我の思いが届いたのか、あの子が走ってやってきた。我はあの子を社殿の床下に誘導した。あの子は幼子を見つけるとすぐに宮司の住居に行き、幼子はその後救急車で運ばれていった。
あの子と宮司が帰ってきたのは空が白み始めてからだった。ふたりの様子から幼子の無事を感じ、我はホッと息を吐いた。するとあの子が我のおかげで幼子が助かったと礼を言ってくれた。驚いたが嬉しくて、つい手をのばしてあの子の頭を撫でてしまった。
それから少しして、あの幼子が祖母と一緒にやってきた。すっかり元気になった様子に安堵していると、幼子はあの子と一緒に我のもとへ来て礼を言った。我が頭を撫でてやると幼子は嬉しそうに笑った。あの夜は庇護すべき親からの愛情が感じられないことが心配だったが、今は祖母からの愛情を受けて、それが幼子の守りになっていた。幼子は祖母の家に引っ越すと言う。せっかく我を見ることのできる子が増えたかと思っていたが、この幼子にとってはそのほうが良いだろう。他者からかけられる愛情は守りとなる。今まで愛情をかけられなかった分、この幼子はたくさんの愛情を受けなくてはならなかった。あの祖母ならば惜しみ無く愛情を注いでくれるだろう。それは幼子を守る力となる。
幼子が祖母と共に帰っていくのを我は鳥居の上から眺めていた。