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神様は人の子を見る・1、退屈な毎日に変化が

神様目線のお話です。

 いつも代わり映えのない日々だった。参拝者を見るのは好きだが、我を見る者はいない。昔はもっと見える者がいたが、人間の数が増え、文明が栄え、夜の闇が薄れるに従って少なくなっていった。今の宮司はとても清い霊力を持ち目も悪くないが、それでも我の姿を見るには至らなかった。だが、毎日祝詞をあげ供物を捧げてくれる。とても好ましい人間だ。

 そんな穏やかな毎日に変化があった。雨が降る日の早朝、宮司が鳥居の外からずぶ濡れの怪我をした人間の子を担いできた。何やら両の耳にじゃらじゃらと飾りをつけている。まだ若い男だった。

 宮司の住居に我は入れぬから、その人の子がどうなったかはわからぬが、宮司は少しすると出て来て鳥居の外にそのままだった自転車と新聞の束をどこかへ押していった。人の子も宮司も気になるが、この神社の敷地からおいそれと出られぬため仕方ない。仕方がないと社殿の屋根に座って雨が降る空を眺めていた。


 雨があがった頃、宮司と人の子が出てきてそのまどこかへ行った。さっきはわからなかったが、あの人の子は宮司より目が良さそうだ。霊力も澄んでいて心地良い。また戻ってこないものだろうかと思っていると、翌日、その人の子が現れた。どうやらここで働くらしい。ここで宮司以外の人間が正月や祭り以外で働くのは初めてだ。興味のあった人の子だし、我も少し心踊ったが、いきなり姿を見せれば驚いて逃げてしまうかもしれぬ。驚かせぬようにしようといつものように社殿の屋根に座っていたら、あの人の子は早速我を見つけたらしい。宮司がひどく驚いていた。何より人の子の驚く様が面白く、愛おしかった。

 鳥たちからあの人の子は母親と2人暮らしなこと、学校というものには行っていないこと、よく喧嘩をすることを聞いた。他の人の子のように恵まれた環境ではないだろうが、それでも、あそこまで澄んだ霊力を持っていることに驚いた。

 それでも我はほとんど人の子に関わらなかった。無闇に関わって、何か悪い影響を与えても可哀想だから。そう思ったとき、我もずいぶん臆病になったものだと笑ってしまった。


 そんなとき、いつも参拝にきていたのが最近ぱたりと来なくなった女がやってきた。女はずっと子を望んでいた。参拝にきては子がほしいと願っていた。久しぶりにきた女の腹は膨れていた。女の腹の中で新たな命が輝いていた。それを見たら嬉しくて、つい女のそばに降り立った。女は我を見ない。だが、腹の中の子は我に気づいた。

『元気に育て。健やかであれ』

女の腹に触れながら腹の中の子に声をかける。キラキラと輝く初な光は眩しかった。

 それから数ヶ月して、また女がやってきた。その腕に可愛らしい赤子を抱いて。目元は父親に似ている。口元は母親に似ている赤子だった。7歳までは神の子と言うように、幼子は存在の境が曖昧だ。そのため生まれたばかりの赤子には我の姿が見える。顔を覗き込むと赤子は可愛らしい声を出して笑った。

『健やかに育て。たくさん愛されて育て』

新たに生まれた命は等しく愛しい。今の世は前ほど赤子が死ぬことはないが、それでもこの赤子が健やかに育つようにと声をかけた。


 やはり人の子は愛おしい。生まれたばかりの赤子も、我が子を慈しむ親も、どちらも等しく愛おしいと思った。

 我を見ることのできる人の子は稀有だ。まだ声をかけたことはないが、あの人の子が健やかであるようにと、我は密かに願わずにはいられなかった。

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