決意表明
自然と扉の鍵を探していた右手だが、どうやらこの扉にも鍵は備わってないみたいだ。思わず舌打ちが出た。
そのまま暫くガタガタと揺れる扉を抑えた後、1人食堂に戻ろうとしたが扉が開き呼び止められた。
ちょうど2人で話したい事があったのだと告げられ、善之はこちらを手招きしつつ扉の外に戻っていった。
まただ……頭を掻きむしりつつ扉を開くと、善之は玄関アプローチの石段に腰掛けている。
本当にどこまでもマイペースな男だ。
ため息混じりに善之の隣に座り、これまでの経緯を説明する事にした。
食堂では既に皆が集まっている事。そこに来なかった者を探しに行く事になった事。キキちゃんにミミちゃんに二階堂くんの事など。
善之は他人事だと思ってニヤニヤしながら僕の話を聞いている。その顔にまた腹が立ってくるが、最早呆れ果てていて怒りまで熱が湧いてこない。
そもそもお前が真っ直ぐ食堂に向かっていればこんな事にはならなかった旨と、毎度毎度マイペースで適当過ぎるとこを指摘したが、善之に気に留める様子はない。
それどころか相変わらずニヤニヤしながら、ちゃんと親睦会やれてるじゃんかと上から目線で弄ってくる。
「マイペースってのはともかく、適当なのは悪い事じゃないんだよ。適当だろうがなんだろうが相手の事を考えて、それが伝われば自然と仲良くなれるさ。俺から言わせれば、お前は変に真面目過ぎるし難しく考え過ぎ」
……話が脱線しつつ上手く丸め込まれた気がするが、もういい。
振り回されるのはいつも僕の方で、こんなことは日常茶飯事だ。
それでも僕から見ても、こんな善之の隣が居心地良いのも事実である。
善之自身に裏表は無く適当に映るから、こちらも身構えないで済んで気が楽だ。人間関係なんて適当くらいが適切だったりするのかもしれない。きっとそんな空気感が善之の人気の一つなのだろう。
キキちゃんミミちゃんの噂大好きな双子は、『キキミミ(聞き耳)コンビ』などと言われてる様で2人の耳に入ると最後、噂は瞬く間に学校に広がるらしい。
などといった善之によるクラスメイトの特徴や注意点の説明が幾つか始まった。正直、有り難迷惑なのだが、本題はここからであった。
クラスメイトに気になる子が出来らしい。
こんなゲームだからこそ、お互いにカッコいい所を見せてやろうぜと意気込んでいる。つまり誰かに決意表明したかった様だ。
お互いにってのが巻き込まれてる感半端ないのだが。ちなみにお前とは違う子だからなと念を押されたが誰かは教えてくれなかった。
そもそもの参加人数が少ないからある程度検討はつくのだが。
にしてもキキミミコンビに早川さんの事を勘づかれたのは本当に危なかったと改めて思わされた。あの2人の行動には充分注意を払う必要があると分かったのは幸運だった。
話は済んだのだろう。善之は急にすくっと立ち上がり扉を開いて食堂に促してきた。
どこまでもマイペースなやつ。
にしても回りくどい。
好きな子が出来たくらい善之の性格上サラッと言えそうなもんなのだが。流石にそういう所は適当にとはいかないものだろうか。
食堂に向かう道中、そういえばこちらからも聞きたい事があるのを思い出してぶつけてみる事にした。
昨日の食卓で気になっていたこと、今回のゲームの人選は本当に善之が選んだか?
「ほんっと、そういうとこ頼りになるよ」
善之は明確に応えずに食堂の扉を開いた。