2つの空席
食堂の扉を開くと円卓に空きがちらほら見えるものの、一見してほぼ全員揃ってる様に見えた。
皆昨晩座っていた席に座っている様で僕の左隣が空いている。どうやら善之はまだらしい。
あと円卓の側にはフェアリさんが直立不動で佇んでいる。彼女はNPCなのだからそれが本来普通なのだが、少し不気味に感じる。
これで正しいのか分からないが、誰に対してでもなくおはようと挨拶をして席に着こうとした。
「なに? 瀬戸、お前らってそういうのだったのか?」
山口くんからの返事が頭に入ってこなかったのは、朝だからとか寝惚けてるからとかじゃなくて、いやそもそも寝てないけど。
山口くんの視線の先、振り返ると青柳さんが真後ろに居た。
声にならない声が出た僕を意に介さず、青柳さんは挨拶を済ませ自分の席に座っていった。
気がつくと変に立ち尽くしていた。無性に恥ずかしくなってきたので僕も急いで席に着く。だが他の皆も、イジってきた山口くんでさえ意に介していないようだった。もちろん愛しの早川さんもだ。
円卓には昨晩と違うメニューが並んでる。パンとオムレツにベーコンやサラダ。僕には理想的な朝ごはんだ。焼きたてであろうパンの香りのせいなのか不思議と空腹な気がしてきた。
あくまでも夢の世界、食べなくても問題は無いのだろうけども、どうせなら食事も楽しみたい。
というか既に何人かは食事をしている。全員揃うまで待つとかは無いんだな、まぁいいんだけども。
僕も食事につこうとした時、円卓の横で直立していたフェアリさんが急に話し始めた。
「おニ人お越しになられませんね……。どなたか呼びに行って頂けますか?」
空席は僕の左隣、善之だ。
皆の視線が僕の左隣からそのまま僕に向けられている。善之と一番仲が良いのは僕だという認識からだろうか。単に面倒事を押し付けられた感も否めないが、反論も朝食も諦めて、スプーンとフォークをテーブルに戻し、僕は立ち上がった。
後もう1人は見渡したところ二階堂くんだ。
二階堂くんとは同じ東小学校だったものの、同じクラスになった事もないし、まともに喋った事もない。普段の態度や雰囲気から自分と合う気もしてこない。
ので、出来るなら彼を呼びに行くのは勘弁してもらいたい。だが、そんな彼をわざわざ呼びに行く様な人間がいるとしたら、それこそ善之だな。
先に善之を見付けてから二階堂くんを探す事にしようなどと考えていると。
「じゃあ、キキとミミも聖司を探しに行くー。 瀬戸くん一緒に行こー。」
とにかく明るい双子のキキちゃん、ミミちゃん達が一緒に来てくれる事になった。
予想外な2人の協力に驚いてるところを間髪入れずに。
「お二人とも個室からは既に出られております。一階にいらっしゃるはずですので、よろしくお願いします。」
フェアリさんに改めて依頼され、とりあえず僕らは食堂から出て行った。