ゲームスタート
何も起こらなかった。
例えや比喩ではなく、少なくとも何か起こったとは感じられなかった。
おやすみなさいとアナウンスが流れただけで、ベッドで寝て起き上がるでもなく、なんなら凶器を見つめ脳内フリーズしたままであった。
もう終わったのであろうか?部屋を出てもいいのだろうか?
暫し考えた後に、ひとまず目の前の凶器に思考が戻った。
さて、どうしたものだろうか。ふざけてる。ふざけているとしか思えない。
ひのきの棒なんて聞こえはいいが、ただの棒じゃないか。しかも1メートル足らずと無駄にデカイ、こんな物を持ち歩いていたら不審者でしかない。
そして備考や名前から察するに恐らく……いやこれは気にするのはやめておこう。にしてもこれ以外の他の凶器にも一抹の不安がよぎる……いや、これも気にするのはやめておこう。きっと今考えても徒労でしかないと思ったし、答えはきっとふざけてるだろうからだ。
ここで僕が得た新しい見解は、勇者って不審者だったんだなという事だった。
悩んだ末に僕は凶器である、ひのきの棒を部屋に置いて行く事にした。
抑止力を生む反面、余計な緊張感や火種を生みかねない。それに自身の凶器を公表する様な結果になるのも良くないと思ったからだ。もちろん状況にもよるが、警戒や対応された場合この凶器では、そもそもマーダラーを返り討ち出来る気がしてこない。
いつまでもここにいても仕方ない。ゲームは始まっているはずだし、皆に合流しないと。
覚悟を決めて扉を開いた。
先程と変わらず静まり返っている廊下に、先程とは違って朝日が差し込んでいた。
あの部屋には窓が無いので実感が湧かなかったが、どうやら本当に翌日の朝を迎えられたらしい。
向かうは食堂。簡単な話、僕らはまだこの屋敷でそこしか知らないのだから。