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10年修行した俺は昔お世話になったガキ大将に復讐リベンジ 〜超絶可愛いJKになってたアイツにまた負ける〜

作者: 糸勺 束


「オレに勝とうなんて10年早いんじゃねぇの? 修行して出直して来いよ」


「くっそー。次は絶対負けないからなー覚えてろー」


 あの日の屈辱は今でも忘れない。

 片田舎で育った俺は当時、近所の空き地を牛耳っていたボスに挑み、そして返り討ちにされた。

 幾度となく挑み、たった一度の勝利も収めることはできなかったのだ。

 

 第二小学校の悪魔と呼ばれたこの俺がだ。


 それがどうしても悔しくて。

 悔しくて、悔しくて、俺はアイツを倒す為に旅に出た。



 そして──


「っふふふふふ、あっははははは。ついにこの日が来たぞ」


 10年の修行を経て、俺はこの地に舞い戻って来た。

 もちろん、学校の調べはついている。


 俺はわざわざあの男が通っているというこのへっぽこ高校に編入した。


 どうやら、県で一番頭のいい学生達が集まる私立高校らしい。何処も彼処も弱そうな奴らしかいない。


「本当に、アイツはこの学校にいるのか?」


 孤高の一匹狼、永宮 葵。

 貧弱そうな体型のくせに、技術だけは一流の男。

 くそっ。思い出しただけで、武者震いが止まらない。


 俺は担任に導かれ、黒板の前に立つ。


「俺の名前は小鳥遊 優。この世界で一番強い男だ!」


「……」


 はぁ、やれやれ。

 どうやら俺の凄さが伝わらなかったらしい。

 まぁ、無理もない。ここにいる奴らはみんな俺のような戦いの世界とは無縁の場所で生きていたのだろう。


 永宮葵……お前だって、こんな学校にいたんじゃ毎日暇でしょうがないだろうに。


 俺が久しぶりに、血の滾る熱い戦いを──

 そして、初めての敗北を教えてやる。


「俺は、永宮葵に会うためこの学校に来た。俺はアイツに伝えなければならない事がある」


 屈辱、そして敗北の味だ。

 ハンバーグ以外の夕飯が喉を通らなくなるようなあの虚無感を俺が与えてやる。


 俺の宣言を聴いたクラスが僅かにどよめく。

 一部から女子の黄色い悲鳴も上がっている。


 すると、一番後ろの席から、一人の女がこちらへと向かって歩いてきた。


 緩く髪の巻かれた綺麗な女子生徒だ。


「ふんっ。女が何用だ?」


 俺は敢えて威厳たっぷりにそう言ったのだが、そいつは何も言わないまま、俺の胸へ飛び込んできた。


「私も会いたかった。ずっと、好きだった……」


「……は?」


 誰だ、こいつ。

 顔を確認しようにも、がっちりと密着し、離れない。


「お、おい。離せ。離せ! 離してください!」


 余りにも急な展開に、つい素の喋りが出てしまう。

 軟弱だ。まだ修行が足りなかったか?


「イヤだ。優ってば急に引っ越しちゃうんだもん。もう会えないかと思った」


 くそっ。なんて馬鹿力だ。全然離れないぞ。


 こんな強敵、昔永宮葵と戦った時以来だ。

 もしかしたら、こいつは永宮葵と何らかの関係のある人間なのかもしれない。


「お前、永宮葵を知ってるか?」


「……? 何言ってるの?」


 顔を上げた女は涙を零しつつも、パッチリと開いた大きな瞳で、こちらを見つめ返してくる。


「くっ」


 ここに来て、修行しかしてこなかった弊害が俺を襲った。

 初めて間近で見た美少女の顔は余りにも刺激が強い。

 しかも、俺のせい? で泣いてる。


 どどどどうしよう!!!


「永宮葵は私だよ?」


「……へ?」


 1秒にも、10秒にも感じる感覚の中で、俺はあまりの衝撃にフリーズしてしまった。


 確かに、この力は永宮葵に匹敵する。だがしかし──


「アイツは男だったはず」


「ぷっ。ははっ。あははははっ。何それ、酷いなぁ〜。 私は昔から女だよ。それとも、小さい頃はオレって言ってたから勘違いしてた?」


 人差し指で、目尻の涙を拭いながらはははと笑う自称永宮葵は──されど、嘘を吐いているようには見えなかった。


「なん……だと?」


 そんな、じゃあ俺はこんな可愛いらしい女の子に幾度となく返り討ちにされてきたのか……?


「さっ、詐欺だ! お、俺はお前に勝つために10年間も修行してきたのに!」


「修行……? ああ、私が言ったこと真に受けちゃったの?」


「真に受けちゃったの? って……そんな言い方あんまりだよ! 俺頑張ったんだぞ!? 俺の10年をどうしてくれるんだ! 納得できない! イヤだ! 俺と勝負しろ!」


 ついみっともなく駄々を捏ねてしまったけれど、10年だぞ? 俺だって、死ぬ気で10年修行したのだ。

 ワニと追いかけっこしたり、クマと相撲したり、アナコンダと添い寝したり……。

 思い出しても地獄のような日々だった。


「ふーむ。そうだね。じゃあ、どうせ闘うなら賭けをしよっか」


 腕を組んで左上を向いて思案した彼女は、やがてそんな提案をしてきた。


「いいぜ? 俺が勝ったら、お前の泣きっ面を見せてもらう」


「へぇ、女の子を泣かせるんだ〜。優、ひどーい」


 うっ。痛いところを突いてきやがる。


「じゃあ、私が勝ったら、更にもう10年貰おうかな」


「はっ。別にいいぞ? 10年どころか一生をお前にやってもいいぜ? まぁ、負ける気なんて全くしないけどな」


 こんな生ぬるいところで学生をやっていたお前に、死ぬ気で修行した俺が負けるはずない。


「じゃあ、決闘は放課後、体育館裏で」


 約束を取り付けた俺は、担任の示した席へと向かった。


 



 そして、きたる決戦の時。


 放課後の体育館裏に木枯らしが舞う。


 ──ひゅるるるる


「この時をずっと待っていた」


「それは私もだよ? ずっと会いたかった」


「ああ。俺もだ」


 俺は半身で構えを取る。

 対して永宮葵は自然体。


「ねぇ、私ってか弱い女の子じゃん? 別に10年修行したわけでもないし。──だから、先手だけ譲ってもらえないかな?」


 なに? 

 永宮葵はこんな軟弱な事を言うような奴だったか? 

 もしかしたら、こんな所で学生をしているうちに平和ボケしてしまったのではないだろうか。


「はっ。構わないぞ? 一撃で仕留める自信でもあるのか?」


「んー。それはどうだろ? けど、この一撃が優にとって会心の一撃になる事を私は祈ってるよ」


「ほう? 祈り、か。面白い。僧侶と戦うのは初めてだ」


「いや、別に僧侶ではないよ?」


「まさか、聖女だと言うのか?」


「はははー。確かに一部からは聖女ってあだ名で呼ばれてはいるけど、そんなRPGゲーム的な理由じゃないよ?」


「そうなのか?」


「ほら、私って昔と比べて可愛くなったと思わない?」


 可愛くはなった。

 色恋沙汰には縁のなかった俺が見ても、永宮葵の容姿はかなり整っていると言える。だがしかし!


「可愛い女を殴れない俺と思ったか?」


「鬼畜だよぉ……」


「御託はいい。さっさと来い」


「う、うん。じゃあ、ちょっと、頑張っちゃおうかな……あははー」


 乾いた笑みを浮かべた永宮葵。

 一歩一歩と詰め寄ってくるが、今のコイツから殺気を読み取ることができない。


 やはりコイツはプロだ。

 イギリスで戦った元暗殺者のテセマ・モチチも殺気をコントロールしていたが、ここまで完全に殺意を消せてはいなかった。


 そう言えば、何故かあいつはいつも逆立ちをしていたな。


 ──さて、どうくるか。


 この体格差だ。素手(ステゴロ)で挑んでくるとは考えづらい。


 しかし、永宮葵はまるで無防備を装うかのように手を広げてこちらとの間合いを詰めてくる。


 獲物を見せないまま、抜刀術の類で仕留めに来る気か?


 警戒レベルを最大限まで上げる俺とは裏腹に、永宮葵は俺の両頬に手を添えると、つま先立ちで唇を押し付けてきた。


「!?」


 ちゅちゅちゅ、ちゅーが!!!!

 俺の初ちゅうーが!


 必死に抵抗しようとするが、何故か力が入らない。


 麻痺毒……? いや、俺に毒は効かない。

 戦いのプロである永宮葵がそれに気づかないはずがない。


 まさか、このまま酸欠を狙うつもりか!?


 いや、イルカとの遊泳特訓をした俺に、その心配はない。


 ──はずなのに、なんか頭がクラクラしてきた。


 何も考えられない。

 

 やがて、ふわふわと多幸感に包まれたところで、永宮葵は俺から唇を離した。


「これが私の10年分の一撃。もう悔いはない。後は煮るなり焼くなり好きにしていいよ」


 満足な表情の永宮葵は唇を人差し指でなぞり、ニコリと微笑んだ。



 俺はギュッと拳を握り締め──


「負けました」




 ──後日談──




「ねぇ、何であの時、優は降参したの?」


「あー、実は俺、ありとあらゆる状況をシミュレーションして10年間鍛えてきたんだけど、本気で自分を好きな女を殴る訓練は一回もしたことなくてな」


「え、そんな理由だったの? 私はもっとロマンチックな返答を期待してたんだけど?」


 仕方ないだろ?

 まさか永宮葵が女だったなんて、これっぽっちも思わなかったのだ。


 それに、ロマンチックって言ったって、俺が永宮葵を女だと知ったのはその日の数時間前だ。

 空き地にある土管の上から俺を見下ろす狼に少なからず憧れは抱いていたのは認めるけれど、俺にそこまで求められても困るってもんだ。


「ははっ。孤高の一匹狼とはよく言ったものだよね〜」


「なんだよ。そんなに変なあだ名か? 俺はかっこよくて羨ましいと思ったぞ?」


 第二小の悪魔だって、自分で勝手に言っていただけだし。


「うーん。でもさ、私って孤高って言うより、ただの孤独だったから。本当は友達たくさん欲しかったんだけどさ、実家が裏社会の人達だから、みんな私を避けてたんだよね」


「そうか。俺は小学校が違うし、知らなかったな」


「そうなの。昔は優が遊んでくれて楽しかったんだよ? むしろ、優しか友達いなかったし」


 楽しかった……か。

 俺は毎回一方的にボコられてただけだけど。


 鼻水垂らしてぴえんしてたけど。


 つーか、裏社会の人達って事は、極道とかそういうあれだろ? もし俺が永宮葵を倒したりでもしたら、むしろ大変なことになってたんじゃ!?


 今更になって冷や汗が止まらない。

 命の危機というのはどこにあるのかわからないんだなぁ。


「まあ、晴れて私達は恋人になれたわけですし、これからは二人で支え合って生きていこうか」


「は?」


 恋人? なんだそれ。


「戦う前、約束したよね? もし私が勝ったら優の一生をくれるって」


「いや、言ったけど、俺はそういうつもりじゃ──」


「男に二言は?」


「ありましぇん……」




 結局、俺はまた負けた。

 負けて負けて負け続けた俺は、やがて裏社会を牛耳るまでの力を手に入れたわけだけども、毎晩葵に勝負を挑んでは幾度となく返り討ちに遭っている。


 俺こと、永宮優が生涯を賭けて一度だけ勝てた事と言えば──


「私が先に惚れちゃったってことかな」


 そういうことらしい。

 まだまだ、葵に勝てる見込みはないけれど、妻と娘の尻に敷かれる生活も、案外悪くない。


こんな人生を送りたかった、作者の願望です。

もし共感して頂けたら、↓から評価をして頂けると嬉しいです。


他にもいくつかの短編や、幼馴染モノの連載もしているので、良ければ覗いていって貰えると嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[一言] 筆者さんと同じ気持ちになりますが、こんな人生だったら是非とも送りたいですね。応援しています。
[良い点] お砂糖吐きそう [一言] 修業内容がガチで命かけてるし、暗殺者と戦ったってことは、そこら辺の普通の裏稼業なんか余裕レベルじゃ・・・
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