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ユメノシュウチャク

 アツヤには夢があった。


「ゲームしてぇ」

 大剣を背負い、バイクを押して歩いている錆びれたおっさんがポツリと呟いた。

「スマホ弄りてぇ! アニメ見てぇ! マンガ読みてぇ!」


「アツヤ、うるさい」

 だだをこねるアツヤをチコは嗜めた。

「遊びは今日の依頼を終えてからにしてよね。大体、いっつもそんなことばっかり言ってるじゃない。他にやりたいこと、無いの?」


 チコが歩みを止めずに話を続けるので、アツヤはついていかざるをえなかった。ただでさえ燃料切れのバイクを押す手が疲れてるのに、照りつける太陽が疲弊を増長させる。


「ちょっとくらい休憩させてくれよ。俺だって、疲れるんだ」

「もう! それもこれもぜーんぶアツヤのせいなんだから! アツヤくんには責任取って貰わないとなー」


 チコはぷいっとそっぽを向いた。緑髪のポニーテールがクルリと揺れる。


「チコって都合の良い時だけ、くん付けするよな」

「なっ……そんなことないわ! 気のせいよ!」

「ふーん、そうかなぁ。まぁ、俺は可愛いと思うけどね」


 えへへ……そう?なんて言いながら顔を赤らめるチコ。彼女が足を止めてくれたので、アツヤはやっと休憩出来た。丁度良さそうな岩に腰かけて休んでいると、空から声が聞こえてくる。

「おーおー、お熱いねー。見せつけるねぇ。出来れば僕のいないところでやって欲しいなーそれ」

 上空から青い子竜が降り立った。

「おう、リア! 見張り、どうだった?」

 リアはアツヤに並び立って元気よく報告を始める。

「敵影なし! うん、ここほんとに目的地ー? 見渡す限りの荒野どーふだよー。まじでー」


 アツヤは辺りを見渡す必要がなかった。それくらい周りは明らかなハゲ地だったからだ。

「そうか。大丈夫、場所は合ってるはずだ。たぶん、隠れてるんだろう」

「……今の笑うとこー」

「高野豆腐美味しいよね」

 リアは満足げに頬を緩める。

「今回の討伐対象って普通のナイトメアでしょー? 早く終わらせて帰ろうよー」

 アツヤだって、迷いたくて三日間歩いてきた訳ではない。

「ねぇ、どうするのよ。リアが探しても見つからないんでしょ? 諦める?」

 チコが悪戯な笑みを浮かべてクスクス笑っていた。

「諦めない。それに、機関が依頼を下げてないし……」


 アツヤがふと周りを見渡した。

「もしかして……いるの?」

 チコが不安げに問いかけた。

「つッ……もっと早く気付くべきだった! おかしかったんだ! この夢島、変化が無さすぎる! 俺達とっくにのまれてるんだ!」


 アツヤは大剣に火を灯し、思いっきり振り上げると、それを地面に突き刺した!


「オラァ!」


 その瞬間、これまで見えていた景色にヒビが入る。そして、それは一気に砕け散ると、そこにはこの夢島の本当の景色が広がっていた。


 どす黒い空に、ねじれ枯れた木の生えた黒い岩場。


 それは、今までの快晴ハゲ地とはあまりにも対照的で、不気味だった。

 そこに、ポツリと黒いドレスを着た少女の姿があった。


 少女は黒く塗りつぶされて何がどうなっているのかよくわからない顔でアツヤ達の方を見ていった。

「あーあー、壊れちゃった。どうかなっ? かなー? どんな夢を見れたかな?」

 アツヤは確信を持ってその少女に答えた。

「お前が俺達に幻覚を見せてたナイトメアだな!」

 少女が答える。

「そうだったかな? わかんない、壊れちゃったもん」

 アツヤが答える。

「とぼけるな! 散々俺達が歩き回って疲れてるのを楽しんでたんだろ?」

 少女は答えた。

「そんなとこないかな? マウは夢を見せてあげただけ、それがそんなにダメなことなのかな? マウにはわからんです」

 チコが答えた。

「ダメに決まってるじゃない! あんな夢ならみない方がマシよっ!」

「そうだそうだー」と、リアが後で合いの手をいれる。



「でも……夢、見たいんでしょ?」


 少女は問いかけた。



「夢は甘美だよ」


「夢はみんな大好きなの」


「夢を見られないのは悲しいよ」


「だからね、見せてあげるの」


「マウたちが、見せてあげなくちゃいけないの。自分で夢も見られない可哀想な人の為に」



 そのナイトメアが、図星をついてくるものだから、アツヤはその言葉に怒りを覚えた。

「ふざけるな! 俺達が可哀想だって? 誰が、いつ、あんたに夢を見たいだなんて頼んだ? 俺はな、もうとっくの昔に夢であることを捨てたんだ。俺に夢はもう必要ない! お前らのやっていることは、ただの嫌がらせだ!」


 アツヤには、確かに夢があった。


 だが、彼らは夢を捨てた。

 アツヤにとって夢を見るというのは、もはや、性欲を覚えた少年が彼女も無しにテーマパークに放り込まれるような物だ。


 アツヤは仲間達に視線を送った。

「いくぞ!」

 チコとリアはそれに頷く。

「おう!」「当たり前でしょっ!」


 三人の声が一つになってこの場に響く!


深層開放(エスフード)!!」


 アツヤ達の目が、漆黒の仮面に覆われる。それは、アツヤ達の心の奥底に眠った深層の力を纏った証だ。


 少女はそれをうんざりした様な目で見ていた。

「うぇぇ、またそれぇ。あなた達渡り人(わたりびと)はいーっつもそれ。レパートリーない、かな?」

 アツヤが背中の大剣を取りだし、大剣に炎を纏わせる。 

「いったい何人の渡り人を相手にしてきたのかは知らないが、その中で炎の大剣を扱うやつは他にいないはずだ!」

 少女が答える

「ふーん、マウ、わかんない、かな? どーせ勝っちゃうから一緒、かなー?」

 アツヤは怒鳴った。

「ぬかせ! 悪夢ごときが俺に敵うかよ」

 アツヤは大またで少女の元へと歩みだす。


「夢の時間はここまでだ! ここから先はモーニングコールの時間だぜ!」


 アツヤはその大剣に炎をこめる! 炎で満たされた大剣が熱気を吹き上げ、紅く輝きはじめた。

「くらえ!」

 明らかにアツヤの間合いだった。その間合いに入っていても尚、なぜか少女は微動だにしなかった。

「……あなたは欲してる。本当は、心の奥底では諦めきれていないんでしょ? マウ達にはわかるの。だからナイトメアは、渡り人に惹かれるの」

 動かない少女に、躊躇なく大剣を振り下ろす。


「必殺! 極爆陽斬(オハヨウザン)!」


 アツヤの大剣が、少女を真っ二つに切り裂いた。切り口からは炎のしぶきが飛び散っている。

 少女の体は、形がずぶずぶと崩れていっている。

 苦しみながら、少女はいった。

「好き……だからかな? マウは好きだよ、その目」

 アツヤは舌打ちして憎しみの込めた声で聞いた。

「どういうつもりだ!」

 少女が答える。

「忘れないで、悪夢はいつでもあなたと共に……」


 少女は完全に消滅した。

 この場に冷たい風が通り抜ける。


 アツヤ達は戦闘体勢を解除し、仮面を消す。

 リアがいった。

「あいつなーんもしないからー、僕らの出番、無かったねー」

 チコは慌ててリアにゲンコツをくらわせた。

「知らないわよ! いいじゃない、楽に仕事がすんだんだから。ねぇアツヤ、ほら元気出して! 依頼達成よ!」

 アツヤは少し思い詰めた様な表情をして答えた。

「……ん? あぁ、大丈夫。あまりに呆気なかったから、ちょっと驚いただけだ、気にしないでくれ」

 チコが答える。

「そう、ならいいの。リア! いつまで寝てるの! あたし疲れたから背中乗せてってよね」

 リアがふらふらと立ち上がる。

「うぅー、理不尽ー」


 かくして、アツヤ達は帰路についた。だが、彼らはすぐにその足を止めた。


 目の前には底の見えない谷がある。

「ここがサイハテか……」

 この谷は、そこでこの夢が終わりを迎える事を示している。

 リアがいった。

「ここどこー?」

 アツヤが答える。

「わからない、迷ったんだろう。来たときとは世界が違うからな」

 チコがため息をついていった。

「はぁーー今日こそはお風呂入れると思ったのにっ!」

 アツヤが答える。

「ここがサイハテなら仕方ない。今日はここで野営しよう。準備してくれ、俺は他に道がないか探してくる」

 リアが答えた。

「あいさー! まっかせてー!」


 アツヤが谷を調べにいくと、リアとチコは野営する準備をはじめた。チコがいった。

「ねぇ、アツヤは大丈夫かしら?」

 リアが答える。

「大丈夫だよー、あいつそんなにやわじゃないし。それに、あんなジョーク言えるくらいだもん」

 チコが聞いた。

「ジョークなんていってたかしら?」

 リアが答える。

「いってたよー。ここがサイハテならーって。夢の果てなんて見たことないよ。終着点なら知ってるけど、それとは違うじゃん?」

 チコはその話を聞いてはっとした。

「……! いけない! アツヤが危ない!」


 その頃、アツヤは崖に掛かる虹の橋を見つけていた。

 どこに繋がっているかはわからないが、ここを進めば先に行けるだろう。この夢島は不安定だ、この橋がいつまでもここにあるとは限らない。早く仲間を呼んで来なければ……。


 ふと、アツヤの脳裏に先程の言葉が浮かんだ。


「あなたは欲してる。本当は、心の奥底では諦めきれていないんでしょ?」


 アツヤは虹の橋を見て思い出す。


 こんな所で終わる訳にはいかない!

 進まなければ!

 ここで歩みを止めたらもう二度と向こう側へは行けやしない!


 そう決意したアツヤの耳に仲間の声は、もう、届かなかった。

「ダメ! 戻って! そっちに行っちゃ……」

 アツヤはチコの叫びを遮った。


「さぁ、夢への一歩を踏み出す時だ!」


 なぜか、グラリと視界が揺れた。

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