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ヒロインだと、気づきました。

 ガタンゴトンと、馬車が揺れる。

 見すぼらしい見た目の馬車の中には、二人の人物がいる。


 一人は、私、ブライニー。

 そしてもう一人は――元王太子殿下であるグレアート。



「どうして、こんなことに……」

「すまない、ブライニー」



 私の嘆きに、グレアートが申し訳そうな顔をして言った。

 

 どうしてこんなことになったのだろう。きっと幸せになれるのだと、未来にずっと希望を抱いていたのに。グレアートと結婚して、この国で幸せになって、祝福されると思っていた。だけど、今は、私とグレアートはまるで罪人のような扱いを受けている。

 そのことが信じられなくて、私は嘆いてばかりだ。


 ――どうして、こんなことに。

 私はグレアートと魔法学園で出会って幸せだったはずなのに。


 基本的に前向きな性格をしていると自覚している私だが、いざ赴いた王城で周りにあんなに冷たい瞳で見られてしまうことはショックだった。

 

「すまない。ブライニー。でも俺は君を愛している。——俺はこんな状況でも君と入れる事が嬉しいんだ」


 グレアートが、向かいに座ったまま私の目をじっと見て言う。

 あれ、何だかこの言葉、どこかで聞いたことがある気がする。——そんなことありえないはずなのに。いつも自信満々だったグレアートが、こんな風な台詞を言ったのを聞いたことなんてないはずなのに。





「ブライニー、愛しているよ。学園にいた頃と同じ生活水準は保てないかもしれないけれど、俺は君に不自由はさせない」



 知っている。——そういうグレアートの言葉を私は知っている。続く言葉も、私は知っている――。それを自覚した時、私の頭に沢山の情報が舞い込んできて、



「ブライニー!?」


 私はグレアートの焦ったような言葉を聞きながら、意識を失った。








 *




 『魔法学園で真実の愛を』。

 そんなタイトルの乙女ゲームがあった。


 平民で孤児であったヒロインがその膨大な魔力を見出され、王侯貴族の通う学園に入学することになる。

 かわいらしい見た目をしており、努力家で前向きなヒロインは様々な困難に立ち向かいながらも攻略対象と仲を深めていく。


 バットエンドからハッピーエンドまで多様多種にわたるエンドが用意されており、サブキャラのエピソードも多く、多くのファンが居た乙女ゲームだ。

 攻略対象の婚約者である悪役令嬢を気に入りその友情エンドや、敢えて攻略対象を全て落として悪女として裏の支配者になるエンドや、一人の攻略対象に絞ってそのまま幸せへ向かうエンドもあった。

 サブキャラクターを気に入ってプレイする人もいれば、攻略対象に惚れこんでプレイする人もいた。悪役令嬢が魅力的だったということや、アニメ化もした乙女ゲームということもあり男性ファンも多かった。

 その乙女ゲームの攻略対象は隠し対象も含めて、12人ほどの攻略対象がいる。


 王子、公爵子息、宰相の息子、魔法師団長の息子、騎士団長の息子、美貌の天才少年、優秀な教師、はたまた獣人族の王子だったりと、様々だ。



 その中の一人が――王太子であるグレアート・サレッツィア。

 サレッツィア王国の麗しの王太子。美しい金色の髪と青い瞳を持つグレアートは、正妃の息子であり、大変優秀な成績をおさめていた優秀な王太子だった。



 ――そして、私、ブライニーがその乙女ゲームにおけるヒロインであると気づき、私は目を覚ました。








「ブライニー、大丈夫か?」



 頭が混乱している。混乱した状況のまま、心配そうにこちらを見つめるグレアートが見えた。



 グレアート。

 たった今思い出した乙女ゲーム。——そのメインの攻略対象であった人。

 そしてヒロインであった私と共に、平民に落とされた人。



 信じられないことにこの世界は、前世でプレイしていた乙女ゲームの世界であるらしい。ゲーム以外の前世の記憶はほとんど覚えていない。しかも、何故このタイミングで此処が乙女ゲームの世界であったことを思い出すのか。


 ――所謂、バッドエンドを迎えた今。





 ガンガン痛む頭で、いままでの事を思い出す。



 孤児院育ちであった私は、膨大な魔力があったからと魔法学園に入学した。不安ばかりだった学園生活の中でグレアートに出会った。

 平民として孤児から学園に入学した私は中々馴染めなかった。薄汚い平民だと笑われ、ストレスのはけ口にされた。それを気にかけ、優しくしてくれたのがグレアートたちだった。王太子として、学園の秩序を守るために気にかけてくれただけだった。

 ――でもその中で、私はグレアートが好きになった。グレアートも私を好きになってくれた。



 ただグレアートには婚約者が居た。正妃となるべく育てられていた公爵令嬢の婚約者が。その公爵令嬢はグレアートと距離があった。グレアートが距離を詰めようとしても詰められなかったのだと言っていた。

 贈り物をしても、話しかけても、会いにいっても、それでも公爵令嬢は何も返さなかったのだと。

 私はグレアートが好きだったけれど、平民であったから、正妃になんてなれるとは思ってなかった。だからグレアートの事を諦めるつもりだった。でもグレアートが王位継承権を放棄しても、私と共にいたいと言ってくれた。周りを説得して、何とか臣下に降ろさせてもらうと言ってくれた。


 婚約者のいるグレアートに必要以上に近づく事はしなかった。心が繋がっていることは知っていたから、私はただ同じ学園の生徒としてグレアートと交流していた。



 私は楽観的で、全て上手くいくはずだと無条件に信じ切っていた。



 だけど、グレアートの婚約者であった公爵家令嬢やグレアートの弟である王子たちによって、告発され、「そんなに平民の少女と共に居たいのなら平民に落ちると良い」と、そんな言葉を告げられた。

 恋に浮かれていた私は周りを見てなかった。けれど、今、思い出して思うのは、私は楽観的すぎたということ。グレアートがなんとかするといった言葉に頷いて、ただ待っているだけだった。まるで王子様の来訪を待つお姫様のように、待つことを選択した。

 そしてグレアートが後手に回ってしまい、こんな状況になったことを嘆いていた。



 ――冷静に考えれば、ただ政戦に負けたというそれだけの話だった。グレアートという王太子を落としたい勢力は王宮には居た。そして私たちは恋に溺れて、根回しが出来てなかった。

 公爵令嬢たちは、周りへの根回しを行い、こちらに反論の余地を与えなかった。全て整ってから行動していた。


 もっとはやく思い出していれば、また違った結末を迎えていたかもしれない。

 あの乙女ゲームの中にはヒロインがグレアートとハッピーエンドを迎える結末は幾つかあった。でも、私の歩んでいる道は、平民に落ちた王子と辺境で暮らすという乙女ゲームの中でのバッドエンドだ。私たちはこれから田舎に放り出される。



 だけど、目の前で私を見つめるグレアートを見て、私は前世を思い出しても、此処が乙女ゲームの世界だと知っても、そういうのは関係なくグレアートのことが好きなのだと実感した。



 自分だって一杯一杯だろうに、嘆いてばかりの私を心配してくれているグレアート。それに比べて私はなんだ。はじめてあれだけの冷たい視線にさらされ、これからどうなるんだと不安になったのも分かる。


 だけど、今の状況は―――私にとって不幸ではない。



「グレアート! ごめんなさい!!」

「ブライニー? どうして謝るんだい? 君は何も悪いことはしていないのに。俺が上手く立ち回れなかったから、こんなことになっているのに――」

「いいえ、違う。グレアートだけのせいじゃない! 私はグレアートが何とかすると言った言葉に甘えていた。自分でグレアートと一緒に居るために努力もしてこなかった。今だって、グレアートだってショックなのに嘆いてばかりで……でも、私気づいたの!」


 嘆いてばかりだったけど、私は気づいた。グレアートが居ればいいって。



「私、グレアートがいるだけで幸せなの。そんな当たり前のこと忘れちゃってた。でも気づいたの。私は皆に祝福されなくても、貴方が平民になっても――グレアートが居れば幸せなんだって!! 何を嘆いてたんだろう! 何を夢見てたんだろう! グレアートがいれば私はそれでいいのに。だから、ごめんなさい! もう、こんな嘆いたりはしない。私はグレアートがいるだけで幸せだから」

「ブライニー……」

「だからグレアート、これから二人での生活頑張ろうね。何をしようか。田舎だったら家庭菜園とか? お店をやるっていうのもいいかも。グレアートと二人だったらきっと何をしても楽しいはずだから。もしかしたら私やグレアートの悪い評判、村に広まっているかもしれないけど頑張ろう。頑張って馴染めるようにしよう!」

「はは……」

「グレアート、どうしたの? 笑って」

「ブライニーらしいなと思って。そうだね。俺もブライニーが居ればいい。ショックは受けているけど、君も一緒なら問題ない。頑張ろう。ブライニー」

「うん!!」

「平民としてはブライニーが先輩だから色々教えてくれよ」

「うん、もちろん!!」



 これからどうなっていくか分からない。何が待ち受けているかも分からない。

 だけど、グレアートが一緒なら問題ない。

 色んなことを一緒に経験していこう。二人でならきっとどうにでもなるから。




 ――ヒロインだと思い出したのはバッドエンド後だったけれど、私はこれからグレアートと一緒に幸せになって見せる!!

 そんな決意を私は胸に抱くのだった。

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