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復讐の勇者~甦った俺が淫紋つきのサキュバスな上に、卵を産むわけがねぇ!~

 ぴちょん、ぴちょんと頬に水滴が落ち、その冷たさによって俺の意識は覚醒して行く。

「ぐっ、ぐぅ……!」

 目覚めた瞬間――ズキズキと痛む胸、そこには仲間であった騎士が握っていたミスリルで作られた名剣が突き刺さっていた。

 心臓を一息で貫かれているからか、既に鼓動が聞こえない。

 なのに、何故俺は生きている?

「いや、理由は……わかって、いる」

 ヒューヒューと息を漏らしながら、憎々しげに俺は呟く。

 同時に脳裏に浮かぶのは騎士の隣で俺を見下すように嗤っていた聖女の姿。

『勇者様ぁ、今まで戦ってくださった御礼に不老不死の祝福を与えましたぁ♥』

『おいおい、それは祝福じゃなくて呪――おっと、祝福だったなぁ』

 聖女を自らの胸元へと抱き寄せながら、騎士はニヤニヤと俺を見下しながら笑みを浮かべる。

 そん、な……俺は愕然としながらも彼らへと叫ぶ。

『お、れ達は! なか、ま……!』

『仲間? ハハッ、そんなわけ無いだろ? お前は異世界から召喚された道具なんだからよぉ。いらなくなったら捨てるのが当たり前だろ?』

『そうですわぁ、わたくし達と共に旅を出来ただけでも嬉しく思ってくださいねぇ♥』

『そうだぜぇ、って事でそろそろ落ちようか勇者様よぉ!』

『ぐぅ! け、んじゃぁ……!』

 騎士と聖女の言葉にショックを受けながらも、先ほどから何も言わない賢者へと助けを求める。

 ちらり、と彼女は眼鏡越しに俺を見たけれど、興味が無いとばかりにすぐに視界から外した。……ああ、こいつも同じなんだ。

 仲間だと思ってたのは俺だけだったのだ。騎士も聖女も賢者も、俺を仲間とは思っていなかったんだ……。

『そんじゃあな。勇者様』

 げしっと騎士は俺を蹴り飛ばし、俺は死ぬ間際に魔王が落ちていった穴へと落ちていった。

 そして今に至った。

「く、そぉ……仲間だって、思ってたのに……!」

 共に戦い、共に語り合った日々、それが偽りだった事。それにショックを受けながら、俺は涙を流し始める。

 悔しい、苦しい、辛い、そんな感情が胸の中に綯い交ぜとなる中、視線を感じ……振り返るとそこには。

「っ! お、お前はっ!!」

「ククッ、どうやら……見事に裏切られたようだな勇者よ……」

「ま、魔王!? 何故、何で生きてるんだ!?」

 俺を見ていたのは、倒したはずの魔王だった。けれども魔王は俺が叩き斬った時のまま、肩から斜めに斬られた状態で壁に寄りかかっていた。

 殺したと思ったのに……。そう思いながら魔王を見ていると思っている事を理解したようで奴は笑った。

「倒したはず、そう言いたいのだろう? 無駄なのだよ。我を倒す事など神にも不可能だ」

「どういう、事だ?」

「元来、魔王という存在は我の為にあるものだ。勇者が召喚され、我が倒される。けれども我は長い年月をかけ再生し甦る。そして勇者は召喚され、我は倒される。つまりは繰り返すだけの遊びなのだよ」

「そんな……」

 まるでそれは終わりの無いゲームじゃないか。そんなゲームの駒に俺は選ばれていたっていうのかよ?

 俺の思っている事を理解している、とでも言うように魔王は笑う。

「そう、お前達のような異世界から召喚された勇者は駒なのだよ。人間が勝利する為のな……そして、駒は最後は処分される。ただ……今回は処分の仕方が失敗したようだがな」

「失敗……だと?」

「ああ……、今までの勇者は首を斬られたり、火炙りにされたり、牢暮らしにされたりした。どれもこれも幸せな終わりなど無い」

 淡々と魔王は告げる。その言葉に俺は唖然としつつも、声を荒げた。

「な、何でお前がそんな事を知っている!?」

「分かるさ。この穴の中では再生の間の暇潰しとして世界の情報を見る事が出来るのだからな」

 そう言うと魔王の背後に空気中の魔力を使った空中投影で映像が表示された。

 そこには俺を召喚した国が映されており……今は国を挙げての結婚式が行われていた。

「これ……は、騎士に……聖女?」

「ほう、面白い。勇者よ、どうやらこの騎士は国の王子だったらしいぞ。そして今回我を倒した功績で王位を継承し、聖女を妃として迎え入れたらしい」

 ガン、と頭を殴りつけられたようだった。

 王子? 騎士じゃなかったのかよ……。

 初めて知った事実にショックを受けていると声が聞こえ始めた。

『皆よ。邪悪なる魔王は我らが勇者様が自らの命を引き換えにして倒してくれた! 我らは勇者様の勇気によって生かされたのだ。だから、勇者様に敬意を表して私は彼女と共にこの国を発展させていく事をここに誓う!!』

『わたくしも同じです。愛すべき勇者様がその身を犠牲にして救ってくれた世界の為に、尽力を尽くしたいと思います!!』

 その瞬間、わああと国民の喝采が響き渡った。

「なん、だよそれ……? なんだよ、なんだよそれはっ!! お前達が殺したんだろう? お前達が裏切ったんだろう!? それなのに良い話にしようっていうのか!? ふざけるな、ふざけるな!!」

 悲しみだった心に怒りが宿る。許せない、許せない!!

 そんな俺へと魔王は口を開く。

「許せないか、勇者よ……我が甦るまでの余興として、復讐を手伝ってやろうか?」

「ふく、しゅう……?」

「そうだ。復讐だ。許せないのだろう? お前を裏切ったあいつらが」

「……そう、だ。俺は、許せない。許せないんだ……裏切ったあいつらが、俺を騙した世界が、神が!!」

 叫んだ瞬間、胸の奥に溜まっていた悲しみは完全に怒りとなり、全身の血液が沸騰するほどに憎悪が滾っていた。

 そんな俺を見ながら魔王は笑いを堪えるかのようにしながら提案をしてきた。

「ならば勇者よ。我がお前に力をやろうではないか」

「お前が、俺に力を……?」

「ああ、貴様が魔王の力を使えば、お前は無数の強力なモンスターを使役し、我の代わりなれるだろう。いや、我を超えてみせよ」

 言いながら魔王は残った腕をこちらへと伸ばす。

 まるでその気があるなら手を取れといわんばかりだ。


 俺の答えは――――決まっている。


「……良いだろう。俺は、お前の力を――魔王の力を貰う。そして、あいつ等に……この世界に復讐してやる!!」

「ならば受け取れ、我が力をっ!!」

 魔王の伸ばした手を掴んだ瞬間、俺の体へと何かが流れ込むのを感じた。

 瞬間、全身がミシミシと音を立て始め、強烈な痛みが襲った。

「ぐ――ぐああああっ!?」

「安心しろ。その呪われた体が作り変わろうとしてるだけだ。次に目覚めた時、勇者……お前は新たな姿となっているだろう。そして、我を愉しませろ! 貴様の隣で――」

 俺に力を与えたからか砂のように崩れていく魔王の言葉が耳に届く中、俺の意識はプツリと途切れた。

 ああ、だけど……これで復讐をする事が出来るんだ。


 ●


「……う、うぅん……」

 焼けるようだった全身の熱が収まり、軋んでいた体の痛みも無くなった頃、俺はようやく置き上がった。

 多分これで新しい体に作り変わったのだろう。

「だけど、いったいどんな姿をしているんだ? やけに高い声だし」

 誰もいない中で俺は呟く。けれども、ここにいるのは俺だけとなった為に返事は無い。

 少し寂しさを感じていると、先ほど魔王が映していたような空中投影が目の前に現れた。

「お、おお? これは……あ、鏡のようにもなるんだな。それじゃあ、俺のいまのから、だ……は、はあっ!?」

 鏡のように映った空中投影、そこに映っていたのは俺とはまったく違っていた。

 175cmほどあった身長が一気に縮んでおり、よく見ると139cmと数値が書かれている。

 体重も82キロほどだったけれど、見た目からしてそれほどは無いに違いない。ただし数字は???と書かれている。秘密のようだ。

 そして髪は黒髪でボサボサだったのが、サラサラで腰下まである長めの銀髪に。

 顔立ちも日本人特有ではなく、西洋人形じみた可愛らしくも美しい顔立ちだ。

 体型も此処までの旅で鍛えられたガッチガチの体ではなく、モチモチで柔らかそうな体つきだった。あと薄いながらも胸がある。

 …………うん、いい加減認めよう。

「な、何で女の子になってるんだよ!?」

 戸惑いながら、俺は叫ぶ。

 改めて聞く自分の声だけれど、可愛らしい子供の声だった。

 しかも投影越しじゃなくて自分の目で見た手も凄くプニプニだった。

『安心しろ、子供でも女の子でもない。勇者よ、お前はサキュバスに生まれ変わったのだ』

「ま、魔王っ!? 何処だ、何処にい――うぐっ!?」

 魔王の声が響いた瞬間、腹に紋様が浮かび上がり――急激な痛みを放ち始めると同時にドクンと脈動を始めた。

 そして、時間が進むかのように急激に腹が膨らみ始め……中から外へと這い出る激しい激痛と共にベチャリと地面に人の頭ほどのサイズがある卵が産み落とされた。

「え、え……? お、れが……うん、だ?」

 腹と股間の痛みが治まるのを感じながら、目の前のてらてらと滑ったてかりを見せる卵を呆然と俺は見る。

 すると卵にヒビが入り、中からそれは誕生した。

 小型の小動物に近いモンスター。けれどそれは見覚えがあった。

 当たり前だそれは……、

「ま、ままま、魔王ーーっ!?」

「ふぅ……無事に生まれ変わる事が出来たようだな。改めてこれからよろしく頼むぞ勇者よ。それとも……母上殿とでも呼べば良いか?」

 俺の中から産まれ、小動物となった魔王がニヤリと笑みを浮かべながら俺に向けて頭を下げた。

 こうして、モンスターの卵を産めるサキュバスとなった元勇者な俺とマスコットと化した魔王の復讐劇は始まりを告げるのだった。

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