8 聞き間違い
基本的に学校では、突っ伏していた。
・・・たぶん落ち込んでいたんかな・・・?
とにかく何に対してのやる気も全く出てこなかった。
・・・それに先輩のことなんかも思い出してしまって・・・。
頭の中がぐちゃぐちゃだった。
・・・まあ、そんなこんなでまた一日を潰してしまった・・・
けれど、そんなことがすぐに吹っ飛ぶ出来事が起こった。
・・・その出来事とは・・・
「風見~っ!
大丈夫?
調子悪いなら、送ってこうか?」
「ごめん、今日はほかの子に頼まれたことがあるんだ。」
「そ、そうなんだ・・・無理はしないでね。」
そう言い残し、歩美は帰っていく。
「・・・あいつこんなに気を遣うようなやつだったっけ・・・?」
・・・まあ、なにはともあれ、話を戻そうか?
その出来事は・・・僕は放課後に呼び出しを食らったこと・・・
僕がこんなに混乱・・・
・・・もとい、幸せのあまり逆に困ってしまうような原因を作った女子・・・
・・・2番目の相談者・・・荒川 佳奈美によって・・・。
事の始まりは5日ほど前、
「風見、キスってどんな気持ちがするのよ。」
彼女は顔を真っ赤にして怒った顔で僕にそう問いかける。
・・・きっと聞き間違いだね・・・。
・・・キスってどんな気持ちがするの・・・?
だってこんなの告白じゃないか?
少なくとも怒った顔でこんなことを言うはずはない。
それに彼女は僕に相談に来ている。
そんな子がそんなことするはず・・・
・・・となると・・・
「風見、返事は後でいいから考えときなさいよ~っ!」
彼女は走って行ってしまう。
「うん、やっぱり。
キスってどんな気持ちでするの?
ってのを聞き間違えたんだね。」
そうして、家に帰り考えてみるんだけど・・・。
好きな人に求められたときだったり、
ムードが盛り上がったときだったり、
自然とそうなるといったもの。
つまり僕の考えは世間一般のそれ。
だから他の人にも相談してみたんだけど・・・失敗。
結果はこの通り。
・・・正直、行くのが嫌だった・・・。
・・・だってまだまったくわからない・・・
・・・というか、今それどころじゃない・・・。
・・・できればもう少し待ってほしい・・・。
そんな思いから、
僕がそっとメールを見なかったことにして帰ろうとすると、
「あら?
風見?」
・・・なんで・・・
・・・なんで見つかっちゃうの・・・しかもこんなに早く・・・。
「ちょうどいいわ。
聞かせてもらおうかしら・・・」
彼女はまったく僕の様子に気づいた様子はなく
若干の怒りをにじませ、
早速話を始めようとするが、
「えっ・・・荒川さん・・・?」
「木崎くんは長峰さんと付き合ってるんじゃあ・・・。」
「・・・あっ!
たぶん例のアレよ!」
「・・・ああ・・・。」
「へえ・・・意外・・・モテるのに・・・。」
周りの視線に気づいたようだ。
「・・・でもここじゃなんだから・・・来なさいよ。」
僕は手を引っ張られ、
無人の教室に連れ込まれてしまう。
そして、
「さあ、返事を聞かせてもらおうかしら?」
彼女は鬼のような表情をしながら、僕にそんなことを言ってくる。
・・・はあ・・・どうしよう・・・?
さっきも言ったように一切進展がない。
あるのは、せいぜい世間一般のそれ。
なにせ相談した二人には聞き間違った方を言ってしまったんだから・・・。
・・・いっそこのまま話しちゃおうか?
なんて考えが浮かんでくるんだが、思いとどまる。
・・・でも・・・なんか僕の勘が言ってるんだけど・・・。
・・・このままの僕の考えを伝えたら怒られる気がするんだよね・・・それもこれ以上・・・。
・・・本当に不思議なんだけど・・・。
・・・しかも恋愛でこういう勘はかなり当てになるんだよね・・・。
いわゆる乙女の勘というやつだ。
まあ、乙女じゃないんだけど・・・。
それに・・・
・・・相手が求めてないってわかっているものを提供するって・・・相談人としてどうなの・・・?
僕はそんなことに悩んでいると、
「ああ、もうやんなっちゃう。
風見ちゃん、またどっか行っちゃうなんて・・・。」
扉の向こうから、こんな声が聞こえてくる。
っ!?先輩っ!?
「お昼は一緒できなかったから、会いに来たのに~。」
僕は瞬時に先輩のことがフラッシュバックする。
暖かくて・・・
柔らかくて・・・
・・・そして・・・ボッ!
「ど、どうしたの?」
佳奈美はびっくりしたように僕に声をかける。
すると、何かに気が付いたような顔をした後、
「顔赤いけど大丈夫?」
と、彼女は心配そうに聞いてきた。
それに対し、
とにかくこの場を離れたかった僕は、
「ご、ごめん、
もうちょっとかかりそう。」
僕がそう言うと、
「ってもうちょっとっていつよっ!」
と彼女は僕が逃げようとしたと思ったのか、怒りのままに僕の手を掴む。
・・・いっつ~っ!
彼女はそんな僕の様子に気付かないほど必死だ。
・・・なんでここまで・・・。
「う~んと・・・来週っ!
じゃあねっ!」
僕が全力で腕を振ると、
「ご、ごめんっ!」
彼女は手を放す。
「・・・でもあんたが悪いのよ・・・。
・・・ちゃんと答えてよね・・・。」
「うん!もちろんっ!」
そして、僕は先輩が通り過ぎた方と逆のほうに逃げ去るのだった。
「・・・これは・・・もしかしたら・・・成功なの・・・?
・・・でも、長峰なごみのことも・・・。」
僕には彼女のそんなつぶやきは当然聞こえなかった。