3 朝
僕の家はお爺ちゃんとの2人暮らし。
お婆ちゃんは数年前亡くなって、
それからは僕が家事全般をしている。
まあ、こんなことはいいよね。
朝は時間がないから急がないと・・・。
朝食を作ろうと、
台所に向かう途中、
「おう、相変わらず早いのう、風見。」
「おはよう、お爺ちゃん、今日は魚で・・・。」
などと普段通りの会話をしようとすると、
「いいよね・・・
っ!?」
・・・驚くべきことが・・・
「うむ。」
などとお爺ちゃんが頷いたが、それどころじゃなかった。
「ハロハロ。」
・・・なごみがいた。
「な、なんでここに・・・。」
僕は唇に触れながら、
昨日のことを思い出してしまう。
「ッ~~~~!」
「ん?迎えに来た・・・今日から一緒に行く・・・。」
すると、
お爺ちゃんは口元をニヤリとし、
「ほうほう・・・お熱いのう・・・。」
などと言う。
・・・この爺さん・・・。
・・・朝食前にいい度胸だ・・・。
・・・まあ、この爺さんへのお仕置きは思いついたからいいとして・・・
「ご飯は?」
「・・・食べられなかった・・・急いで来たから・・・。」
とすごく悲しそうな顔をする。
・・・別にそんなに急ぐこともないだろうに・・・。
と思ったが、この子はかなり猪突猛進的なところもあるのを思い出し、
その言葉はグッと飲み込む。
彼女は若干覚悟していたのかもしれないが、
まあ、僕たち高校生に朝食抜きはきついものがある。
・・・なので、丁度お爺ちゃんは要らないみたいだから・・・。
「今日、お爺ちゃんは朝いらないみたいだから、食べてって。」
「なんじゃとっ!」
「・・・いいの?」
「いや、いいのって・・・。」
「うん、いいよ。
たくさん食べてってね。」
「なあ、風見・・・。」
「うん♪」
と嬉しそうな表情をする。
「・・・・・・。」
そんな顔に何とも言えなくなったのか、
お爺ちゃんは下を俯き、
「・・・朝飯は抜きか・・・。」
そんな姿にもの悲しさを感じた僕は、
「なごみ、悪いけど、
僕と半分こでいい?」
「・・・はっ、半分こっ!?」
すごく驚いたような表情をした後、
コク・・・コクコクコクッ!
すごい勢いで首を振る。
「てことみたいだから、
お爺ちゃん、台を拭いておいて。」
「・・・なごみちゃん・・・。」
と若干、感動した様子で、
「ありがとう、ありがとう。」
と喜びをあらわにするのだった。
・・・朝から少し疲れた・・・。
それから、
僕は朝食を3人分用意して、
「はい、お待ちどう様。」
と朝食を並べ、
お爺ちゃんの、
「顔が赤いがどうかしたのかのう?」
などと言うニヤニヤした笑いを無視して、
・・・懲りないな・・・この爺さん・・・
「・・・いただきます。」
と食べ始めるのだった。
なごみが骨を取るのに苦戦していたので、
軽く骨を取ってやると、
「・・・ありがとう・・・。」
と言って、
スリスリしてくる。
そんな小動物的な姿になごんでいたんだが、
お爺ちゃんの
「ぶふぉっ!
ふ・・・ふぉ・・ふ・・・。」
などと言う笑いをかみ殺したような声が聞こえてきたので一気に冷めた。
そして、食べ終わると、
「お爺ちゃん、今日の夕飯楽しみにしていてね♪」
と言い残し、
食器を水で浸し、
学校の準備をしに行く。
すると、お爺ちゃんが、
「わっ、悪いっ!だからどうか、どうか辛いものだけは・・・。」
と謝っていた気がしたけど、きっと気のせい。
・・・まったく・・・孫で遊ぶなんて言い趣味してる・・・
などと皮肉的なことを思いつつ、
準備を終え、
下で水に浸した食器を洗おうとすると、
なごみが僕の方に寄って来た。
「・・・学校行く?」
「うん、でも食器は?」
「じいじが洗ってる・・・その代わり夕飯は・・・って言ってた。」
・・・まったく・・・
僕がお爺ちゃんに苦手意識を抱かなかったのは、
こういうフォローの早さかな・・・?
などと考えつつ、
「行ってきます!」
「・・・行ってきます・・・。」
「おうっ。」
と言う声を尻目に、
2人で家を出る。
すると、家を出た途端に手を握られた。
「ん?」
急なことに驚きを覚えた僕は彼女に聞く。
「どうしたの?なごみ?」
「・・・今日は手を繋いでいく・・・。」
答えはよくわからない答えだったが、
・・・まあいいか、なごみだし・・・
ということで流した。
僕は未だかつてここまで何を考えているかわからない子には会ったことがないんだから・・・。
まあ、それがいいところでもあるんだけどね・・・。
などと思いながら、
普段のように学校へ。
まだ少し寒いこの季節、
彼女の手の温かさにどこか新鮮さを感じていた。
・・・今までは何とも思わなかったのに・・・。