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1 恋愛相談

空が茜色に染まり、


カラスが鳴き始めるそのころ。



僕はある放課後の教室にいた。


家に帰らんとすることを許されない状況にいた。


「ここで待っていてね。」


女子たちに口々にそう言われては男は帰ることはできまい。


たとえ何があるのかわかっているとしても・・・。




「ねえ、木崎くん、


相談があるんだけど・・・。」


少女は頬を紅潮させながら、僕に話しかけてくる。


僕は周りにいた人が、


女子たちに誘導されていく様を見る。


これでほぼ確信できた。



・・・またかな・・・?



僕は若干の呆れを覚えながら、


誰も教室にいなくなったのを確認し、


彼女に聞く。



「何の相談ですか?」


・・・なんとなく予想はつくけど・・・というかほぼほぼ確信しているけど。


「・・・恋・・・恋愛の・・・。」


「・・・・・・。」


内心わかっていたけど、


この時の女子の表情は本当に迫力がある。


夕暮れ時の夕日に照らされ、


頬の紅潮はわかりにくくはなっているが、


ある意味ではそれが過大に表現されている。


それだけでなく、


潤んだ瞳、


不安そうに震える声。



・・・たとえ、自分に対しての思いじゃないとわかっていても・・・。



その迫力に若干押されつつ、


「・・・どんな・・・?」


そう聞き返す。


「えっとね・・・。」



それから、永遠と甘々しい話を聞かされ、


最期には・・・。


「○○くんの好みが知りたくて・・・。」



・・・またか・・・。



・・・最近、僕が男色じゃないかと疑念を持たれているのだけど・・・。



「・・・わかりました・・・調べておきます・・・。」


こうして、1回目の相談が終わる。


そう、あくまでこれは一回目。


これはこの恋愛が成功するまで・・・彼女と思い人が結ばれるまで続く。



・・・次は、数日後ってところかな・・・はあ・・・。



こうして、今日の3人の相談が終わった。



「・・・はあ・・・。」


夜のとばりが落ちたころ、


誰もいない教室で、


僕はため息を吐く。


その溜め息は誰もいないからか、


より大きなそれに聞こえる。


「・・・疲れた。」


疲れたというから、


疲れるのだ。


そんなことを言っても疲れたと言わなければやっていられない。


人間の激しい感情を向け続けられるというのはそれほど疲れることなのだ。


嘘だと思うなら、ずっと怒っている人の傍にずっといればいい。



要するに、僕はひどく疲れていた・・・いや、疲れ切っていた。


特に心が擦れ切っていた・・・こういつもいつもだとなくなってしまうんじゃないかと思うこともある。



なぜ僕がこんなことをしなければならなくなったのか?



こう聞かれると、


それは中学の頃に遡る。



僕の幼馴染の1人がある人に恋をした。


普段は(無駄に)元気で頑張り屋・・・


・・・そんなそいつが僕に顔を真っ赤にしてある相談をしてきた。


・・・恋の相談・・・。


まあ、その時は特に何も答えられなかったのだが・・・。



けれど、その時の彼女の顔に魅せられてしまった。


そんな顔を見せてくれたお礼にというわけではないが、そんな彼女の思いを叶えてやりたい・・・


単純にそう思った。



今になって思えば、きっかけは本当に単純だった。



僕はその意中の相手について、


それから、デートのコースなんかを調べて、


良さそうなものを選んでやったり、


なんかをしてやる。



すると、それを喜んで実行した彼女はその相手をものに・・・。



僕の誤算はここからだ。


彼女は元気だと言ったね・・・


・・・となると・・・


・・・女の子の場合・・・


・・・十中八九・・・おしゃべりじゃないか・・・?



・・・つまり、彼女は知っている女子のほとんどに触れ回った。


校内にはわずか数日で伝わったそうだ。


そしてそれほど時間がたつことなく、噂は他校の女子へと・・・。



聞いたところによると、


僕がこんなことをしているから、ここに入学したという変わり種・・・


・・・もとい・・・本気の女子もいるそうだ。


・・・僕自身、何人か心当たりがある・・・。


熱量が桁違いな彼女たちのうち何人かはもうくっつけた・・・。



絶対に失敗は赦されないそれは他の人よりもかなり気を使った。


文字通り命を懸けた。



・・・そう言えば、最近は女子としか話をしていない。


だって仕方がないじゃないか。


僕に相談しに来るのは、女子、女子・・・女子・・・。



・・・しかもそのおかげか、今では女子の友達の方が多い・・・。


・・・悲しいことに・・・。



なぜ男は僕を頼らないのか?


こう疑問に思う人もいるかもしれない。


その答えは単純。



知らないから。



これも良くは知らないんだが、


どこかで噂がねじ曲がり、


男性に知られた場合はその人物は呪われ、


二度と恋ができるとは思わない方がいい・・・


こんな脅しのようなうわさが広まっているからだと思う。



・・・そして、ある種の都市伝説的な恋愛相談人(女性に対してのみ)が完成した。



・・・しかも、()()()は僕がくっつけた相手と別れたそうだ・・・。


・・・最悪・・・。



まあ、こんな感じで僕はこんなことをしている。


確かに、恋をした女性の表情が素敵だし、


これが何度も見られるというのは嬉しいことなのだが・・・。



・・・いかんせん数が・・・。


一日3,4・・・5人はかなりきつい。


脳内の記憶領域が限界に近い。



・・・それに最近悩みもあるし・・・。


カバンを手に取り、教室の戸締りをする。


それから、


今日はその悩みをある人物に相談するべく、


疲れた体に・・・いや、心に鞭を打ち、ある場所に向かう。


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