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興国の美女

 鳥が飛んでいてた。


 鳥と言うには大きすぎた。

人の2倍はあろう黒い鳥が5羽地上の黒い点に向かっていた。


 近づくにつれ、それは街だと分かった。


 石の防護壁に囲まれ運河を挟むように建っていた。

壁の中には、田畑や居住区が碁盤の目に広がっており水路で繋がっている。運河沿いには大きな石造りの建物が建っている。


 寄り添うように咲いている桜の花が街に彩りを添えている。

 大小百を超える店舗が石畳の大通りを挟み並んでいる。


 店の合間にある屋台からは、呼び込みの声が聞こえる。


「饅頭いらんかえ~ 」

「麺くってんさ~い!今なら鳥の煮物サービスやで~ 」


「そこの旦那~!お泊まりなら爽快館でっせ~! 」


「西の国の甘い果物あるよ~!!

なくなる前にかっときな~! 」

 屋台の前で両手に柑橘系の果物を差し出しながら、おやじが道行く人々に声をかけている。


 後ろの屋台には色とりどりの果物が並べられている。

 屋台の下からスッと手が伸び果物をつかみとる。


(やっぱ、ライチゴの実はうめえな~。甘さの中の控えめなすっばみがたまんね~。)

屋台下に隠れた少年が美味しそうに頬張っている。


「ショウ、ただ食いって訳じゃあんめいなあ?」

 右手で少年をつまみ上げ、あきれたようにおやじが呟く。


「ちっ、見つかっちまったか」

 ショウと呼ばれた少年がばつ悪そうに振り向く。


「しゃあねえなあ~」

 頭をボリボリかきながら屋台の前に歩いていく。

 道行く人々を見渡すと、紺色と灰色のフードを被った二人組の少女に目をつけた。


 屋台からライチゴの実を両手に掴むと、よろよろと二人の方へ向かっていく。まるで二人にライチゴの実が引き寄せられているようであった。


「おぅ~とっと~」

 果物に日っ張られるように右往左往しながら、人混みをかき分け二人の方へ向かっている。


「なんだ、なんだ、手からはなれねえ~!誰か助けてくれ~!」

と叫びながら二人の目の前で止まる。


「おっ、まさか姉さんたちの前で止まるとは」

ショウがニコッと二人を見上げる。

 びっくりして立ち止まる二人。

 ショウが口上を始める。


「やあやあやあ。不思議な果物だ。手にくっついて離れやしなえ。」

 振りほどこうと上下に手を振る。

 まるで果物が勝手に動きまわっているようにショウが踊り出す。

 いつの間にか、回りに人だかりが出来ている。


「おおっとと~」

 果物はぴたっと紺色フードの少女の前で止まった。

 少女を見上げショウがウインクする。

 この時自分が辻芝居に巻き込まれたことを少女は悟った。


(つきあうしかないのかしら)


「姉さん、姉さん、ちょっとこいつにさわってくれねえかい?

こいつは、一度くっついたら離れねえ美女にしか取れねえ、幻の果物かも知れねえ。試してみてくんねえかい?」

 恐る恐る少女が手を伸ばすと、手のひらにポトリと落ちる。

 すると、ライチゴが淡い光を発し出した。

 少女が屋台のおやじをチラッとみると、両手を前につきだし印を結んでいる。一瞬目が合うとウインクでかえされた。


魔技(まぎ)使いかあ。しかたない。つきあうか。)


 笑みを浮かべると一口果物をかじる。

 すると、淡い光が彼女から発し出す。

「何てこったい。あんた天女の生まれ変わりかい?姉さんあんたなんて名だい?」


「わ、わ・た・し・のなまえはレン=セイ。西の砂漠の向こうからきました。」


 棒読みである。


「おお~!

あなたが、かの有名な絶世の美女レン=セイ様でしたか。」

 ショウがひざまずき大袈裟にお祈りをする。


 人垣からどっと笑い声が聞こえる。


「傾国の美女セイ貴姫「ライチゴ」の一幕でした。みなさまお付きあいいただきありがとうございました。」


 大きくおじぎをすると、屋台の方へ手を伸ばした。


「さてさて、セイ貴姫の愛してやまない幻の果物はあちらの屋台で販売しております。数に限りがありますのでお急ぎでどうぞ~。」

 見物客は笑いながら果物を買っていく。


「姉さんありがとう!これ出演料。」

二人に果物を渡すと、恥ずかしそうに走り去っていった。


「私には、幻の果物くれないの?」


 声をかけられ振り向くと、えんじ色のフードローブの女性が立っていた。

 口元しか見えないが、整った口元を見ただけでも、美しい顔立ちと想像できる雰囲気をかもし出している。

 見上げると、青い瞳は大きく潤んでいる。

 肌は透き通るように白い。

 幼さの残る顔つきであるが、少女から大人に変わる妖しい色香を発している。

 絶世の美女と呼んでもよいだろう。


「あっ!リンねーちゃん」

 ショウが頬を赤くする。


「レインさんが探してたよ。」

(今日もきれいだな~。スッゲエいいにおいだ。

大きくなったら嫁さんにしてえ。

ああ~。なんて色っぺえ唇なんだ~。吸いつきてなあ~。)


「・・・・。

なんか、やらしい目してるけどちゃんと聞いてる?」


「おれの嫁さんになってくれ」

「・・・」

ニコッと笑って少女は答える。



「そうね、ショウが王さまにでもなったら考えようかしらね。」



「お、おれ王さまになる。王さまになって姉ちゃん嫁さんにする。」

 拳を付きだしショウが答える。

 ショウの頬を軽くつねり、もう一度話しかける。

「レインさん、探してたよ。どこ行ったか心配してるから、早くお家帰りなさい。」

「か、かあちゃんが心配してるん。やばいやばい、やばい。

んじゃ、ねーちゃんまたね~!

おいら、王さまになるまでまっててね~!

ついでに、ライさんまたね~」


彼女と果物屋のおやじに手を振りながら走り去っていく。


「まったくう。7才のくせに、おませなんだから。」

 彼女は、この国では珍しい青い瞳を持つ16才の女性であり、ショウの母親と同じ店で働いている。


 

 先程のセイ貴姫は、その美貌より一介の妓女から皇后まで上り詰めた立身出世の人であり、その美貌に溺れた王さまが(まつりごと)をしなくなり国はシン帝国に滅ぼされてしまった。

 この地はかってチョウ国と呼ばれその王様が治めていた国の首都だった。ちょうど16年前のことである。国の名は変わったが、

「商都フリーレイク」

 として再生した。

 今では、北にある「首都ラクセイ」に次ぐ賑わいを見せている。


「一度はいきたいフリーレイク」


 というように観光地としての地位も確立している。

 商業組合の活躍により、庶民の暮らしは比較的豊かである。

 西南にある「日ノ国」、東の「ドーン公国」とは不可侵条約を結んでおり、交通の要所として人々が集まっている。

 とりわけ、妓女文化が発達しており大小100を越える妓楼があり妓女のレベルはシン国一とも言われている。

 その中でも.一番の人気を誇るのが


紅桜楼(こうろうろう)

 であり、ショウの母親の働く店である。

その店で、入店3か月でトップスターとなった伝説の舞姫がいる。

彼女の可憐な美しさは、セイ皇后になぞられ

『興国の美女』

と呼ばれている。


リンねーちゃんこと、

「リン=エンエン」

その人である。


________________

【今日の用語解説】

妓女;歌、舞踊、音楽、芸術等を生業とする女性。

今で言う、アイドル、高級キャバ嬢、セクシークイーン等のようなもの。

一部風俗嬢的な側面あり。

(たぶん(  ̄▽ ̄))

妓楼;妓女の芸とお酒と食事を供する場所。

今で言う、高級クラブ、料亭、ラスベガスのようなもの。 

一部風店のような側面あり。

(たぶん(  ̄▽ ̄)) 

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