少女
目が覚めると木目の知らない天井があった。
瞳をキョロキョロと動かして辺りを確認する。
「あ、起きた」
女性の声がしたので顔を横に向けてみる。
すると、椅子に腰かけている16歳位の少女と目があった。
髪は黒髪のロング。綺麗な白い肌に、長いまつ毛、、大きな瞳、整った顔立ち。気品が感じられる声。
華奢な肩から伸びる細い腕には湿ったタオルが握られていた。
「ああ、これ?凄い汗だったから取り敢えず拭かせて貰ったわ、ごめんね。」
ごめんね?
上半身を起こす。
どうやらベッドに寝かされていたらしい、毛布がずれ堕ち上半身を裸にされていることに気が付いた。
成る程……そういうことか。
ところで
「ところで、あなた、誰?」
……今から口に出そうとした疑問が彼女から発せられてしまった。
それはこちらが訊きたいことだが、先手を打たれては後手に回るしかない。
「俺は火鳥勇一、君は?」
「私はリン、あなた歳は?」
「二十歳」
「ふーん、じゃあ、3つ上か」
このリンと言う少女は17歳らしい。
「その腕に巻いてるものはなに?」
「これは……ブレイブギアだ」
「???良く分からないけど、とても綺麗だわ」
「綺麗……か」
このブレイブギアには本当に世話になった。
もう2度と使うこともないだろうけど。
それにしても、このリンと言う少女の先程から物珍しそうに俺を見る視線は好奇心に満ちていて不思議とこちらも警戒心を削がれてしまう。
「世話になってしまった様ですまない。」
「別にいいわよ、家の前で倒れてる人間が居たらほおっておけないでしょ?それで、あなた……ユウイチはなぜ倒れていたの?」
今、名前を呼ばれた時、少し目をそらされた。
名前で読んでみたはいいものの、恥ずかしかったのだろうか。不覚にも少し可愛いと思ってしまった。
「分からない、気がついたらここに」
「記憶喪失ってことかしら?」
「いや、気を失った時の記憶はあるんだが」
「気がついたら記憶に無い違う場所にいた?」
「そういうことになるな」
「出身は?何処から来たの?」
「出身は日本のニュートキオシティ」
「ニホンノニュートキオ……長い名前ね」
「日本が分からない?」
「ええ」
「訊いたことも?」
「ないわ」
「えっと、因みにここはなんと言う地名?」
「安心してここは聖地マグダリアよ」
「国名は?」
「だから聖地マグダリア」
「……」
「どうしたの?」
おや?話が噛み合わない。それに安心してとは?
そもそも、ここは日本じゃないのか。
「…………いや、大丈夫気にしないでくれ」
「ええ、何となく貴方はこの国の人間じゃないと言うことが分かってきたかも」
「どうやらそうらしい」
「まあ、そのうち記憶も戻るかも知れないし暫く家で療養すればいいわ」
「そんな、迷惑はかけられない」
「別に迷惑じゃないわよ?それに人は助け合いでしょ?」
「君は 、人を疑ったりしないのか?」
「するわよ……多分」
「多分……」
無いな人を疑ったこと……
「でも貴方はここが何処かも分からずに困ってるんでしょ?」
「それは」
「なら、見過ごせないわ」
気持ちのいい返答がサクサクと帰ってくる
「なんだか、君と話していると心地よくなってくるよ」
「なんでよ! ?」
「ははは」
「何か変なこと言ったかしら?」
「いや、ごめん。こんなに清々しい人は中々居ないから、嬉しくて」
「う、嬉しい!?変な人ね」
「……それじゃあお言葉に甘えさせて貰うよ」
このリンと言う少女はどこまでも真っ直ぐな心を持ってるんだな。
「よろしい!」
「そうだ、せめて何か家の手伝いをさせてくれないか?力仕事には自信があるんだ、それからこの国のことをもっと知りたい。」
「分かったわ、宜しくねユウイチ」
まあ、もうオオボスも居ないことだし少し落ち着いてもいいだろう。
「あ、そうだ!お腹すいてない?」
「少し」
「なら、今から夕飯の準備をするわね」
「なら手伝うよ」
「いいわよ、今日くらい」
そう言うと奥の台所へと向かっていった。
設定
家:木造の一戸建て
ベッドの横にテーブルと椅子、奥に炊事場。
それ以外はトイレとお風呂がある小さな一軒家。
聖地マグダリア:生活レベルは中世ヨーロッパの田舎くらい。